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悪の組織潜入記


〇月×日1。
今日は自衛隊に潜入しているサムライ将軍ゴザールに、
研究室に偽造した秘密基地に連れて行ってもらった。
秘密基地に行くと、女装した悪魔将軍サファイアがお帰りなさいと
駆け寄ってきた。ちょっと変わったピンク色に骨っぽいもようの
レースのついたワンピースが正に悪役って感じで良く似合っていて可愛かった。
ほんとに羽が生えてるし。思わず触ろうとしたら、前から柵が、後ろから
機械将軍ロバートの配下に威嚇された。さすが秘密基地。
生贄がゴザールに与えられるそうだが、本当だろうか。
いきなり風呂に案内されたのには驚いた。
やはり魔王様の謁見前には清めの儀式が必要なのだろうか。
食われませんように。

〇月×日2。
風呂場は大浴場だった。井戸っぽいものや水風呂、芝生地帯まであって変わった風呂だった。
普通のお風呂もちゃんとあった。
そして洗い場のど真ん中に獣人の少年が鎖で繋がれていた。
爪や牙で暴れる生贄を、笑いながらシャンプーで泡だらけにしていくゴザールは怖かった。
しかし、獣人ってこんな凶暴なのか。好きで人間食べるわけじゃないって言ってたけど、
人を襲う本能はあるのかな。
大きい獣人が酒を持ってきてくれた時の、達観した表情が印象的だった。
ゴザールと獣人が何か言葉を交わしていたが、僕にはわからなかった。英語ではないな。
お酒を湯船に浮かべて飲むなんて初めてだ。天井が開いて、
夕焼けを見ながらお酒を飲んだ。ゴザールが凄く嬉しそうな顔でぐったりした獣人を
抱っこして湯に浸かっていた。

〇月×日3。
風呂からでると、着替えが置いてあった。
ヒラヒラの服?ちょっとサムライっぽい。
ゴザールが、若い獣人を呼んで、
戦争にでもいくつもりか、普通のパジャマを持ってこいと注意したが、
若い獣人が尻尾を丸めて凄く困った様子だったのと、着替えに興味があったので
皆で獣人を庇った。
そうか、これがゴザールの戦闘服か。番組でやってるのとちょっと違う。
あれはフィクションだからな。
しかし、獣人はタケルの指揮下にあるようだ。
獣将軍ショカツリョウが裏切った後、動物好きのゴザールがショカツリョウの
配下を奪ったと言うがあれは嘘だな。
獣人全部手に入れようとしたからショカツリョウがなんとか逃げたに違いない。

〇月×日4。
魔王の食卓に案内された。
魔王の食卓だった。
もう一度書く。魔王の食卓だった。
料理下手とかそんな生易しいものじゃなかった。
30ぐらいだろうか?赤毛の逞しい男がさわやかに笑っていて、
そこだけが地獄で唯一の灯火だとでもいうように、明るくふんわりした空気を作り出していた。
しかし、地獄の作り主もこの男なのだ。

「すいません、和食にするように言うのを忘れてました…」

ゴザールの謝罪が空気に溶ける。
和食以前に人間の食べ物ではない…というか、中央の生首人間ですが。
ゴザールがさくりと生首にスプーンを立てると、中の脳みそまで再現してあったのが見えた。
ゴザールがしきりに謝罪しながら、黒太の口に無理やりスプーンを突っ込む。
うん、獣人は好きで人間食べてるわけじゃないんだって今、心から理解できた。
最後には強がって涙目で食べ始める黒太の姿に、
生き様とか意地とかの片鱗が感じられて同情を誘う。
そうか、赤毛で料理下手。この人がレッド王子か。
逞しくて口調も荒いのに、雰囲気が柔らかくて、暖かくて、話を聞いているとリラックスできる。
笑顔が無垢で、幼い子供を想起させるのが印象的だった。
というか、こんな食事を食べさせられてる状況なのにリラックスできるって、王子の技か?

〇月×日5。
お菓子を食べながら手品を見ようって話になった。
サファイアが腕に思いっきりたくさんのお菓子を抱えてきてくれた。
…と思ったら全部サファイア用だった。
レッド王子がつまみをくれたからいいけど。
レッド王子の手品は凄い。プロみたいだ。大いに盛り上がった。
途中魔法陣が宙に描かれて、ゴザールが手品だと言ったが誰も信じなかった。
そこへ、疾風魔王が入ってきた。
キスマークが顔や服のそこかしこについていて、非常に不機嫌そうだった。
ゴザールしか目に入らないって言ったのにハニートラップなんぞ仕掛けおって…。
などと呟きながらキスマークのついた白衣を脱ぐ疾風魔王。
苦笑するゴザールの顔は優しい。
恋人同士という噂は本当だったのか。
世話をしている獣人は愛人か?

〇月×日6。
部屋の外が騒がしくなったと思ったら黒いものが飛び込んできた。
一緒に手品を見ていた獣人が素早くレッドを庇う。
ゴザールがロバートの配下から刀を受け取り、素早く切った。
というかこの場で刀が出てくるか。
切り落とされたのは明らかに巨大すぎる蝙蝠だった。
サファイアがおいしそうと笑い、疾風魔王が焼くか、と
蝙蝠を掴んでいった。
僕も頂けますかといったら、毒だと返された。

〇月×日7。
獣人を抱きしめて眠ると幸せな夢が見れるんですよ。
ゴザールが笑いながら黒太を抱えている。
人間に牙を剥かなくなるまでゴザールが世話するそうだ。
ゴザールに対して牙を剥くのをやめればすぐに仲間の獣人たちに
渡してもらえる事は、黒太はまだ知らない。
ロバートは、実はロバートの配下の全てがロバート自身なのだと言う噂もある。
だから、後見ていないのはショカツリョウだけだ。
楽しい一日だった。
おやすみなさい。

〇月△日1。
朝御飯は和食だった。しかも懐石料理。
レッド王子が作ったらしいが、とても美味しい。
でも黒太は昨日の地獄料理。哀れだ。
ゴザールにお願いして、ニュースをつけてもらう。
疾風魔王は基本的に新聞もテレビも見ないらしい。
代わりに、ロバートが毎朝ニュース等を集めた資料を渡すそうだ。
大事な研究資料も入ってるとかで見せてはもらえなかったが。
それでも一応テレビはあって良かった。
ニュースを見る。疾風魔王が出てた。
アメリカの邪教集団、魔王の召喚に成功すると出ている。
そしてキスマークをいっぱいつけられた状態の疾風魔王、
隣で女性を押さえつけるロバートの配下、
それに対峙するメカリオンとショカツリョウの姿があった。
昨日の映像らしい。

〇月△日2。
結局ショカツリョウの説得で女性は解放され、
邪教集団の教祖は逮捕された。
ロバートの配下が煙幕を張り、煙幕が晴れた時には二人とも消えていた。
疾風魔王の方を見たら、あれは自分ではない、
自分は昨日からここにいただろうと一笑された。
後ショカツリョウが何かヒロインっぽかった。
こうして、疾風魔王の秘密基地観光ツアーは終わった。


〇月△日3。
「ほら、やっぱり科学戦隊メタリオンなんて番組、私達とは無関係だったでしょう?
いい大人が、フィクションと現実を混同してはいけませんよ。で?何か質問はありますか?」

 ゴザールがにこやかに言ったので、僕は答える。

「日本は戦隊物の本場なのに、アメリカにしかメカリオンがないなんて酷すぎます。
僕、仲間を集って絶対メカリオン作りますから!」

 すると、先輩が言った。

「いや、疾風魔王の目的が世界征服とは限らんぞ。獣人達と人類の融和が目的かもしれないじゃないか。俺は定年迎えたら疾風魔王の配下になるぞー!」
「私はメカリオンで!疾風魔王が変身する姿見てみたい!」
「信じてる人増えてる!?何故ですか!??」

 何故か動揺するゴザール。あれでごまかしきれてるつもりだったのだろうか。

「「「そういうわけでよろしく、ゴザール(様)!!」」」
「その名で呼ばないでくださーーーーーーーーーーい!」

 ゴザールの悲鳴を聞き流し、僕は日本版メタリオンを作る為、なんとしても出世する事を誓うのだった。



おまけ


「ザイル教授、見てください!変身!!」

 ミグが術具に魔力を送ると、パリンと術具が割れた。
 ヒラリと落ちるローブを被り、落ちてくる杖を受け取る。

「おお!? 魔物の代わりに術具を代用したのか! まだまだ改良の余地はあるが、中々役に立ちそうじゃないか。私の理論をここまで応用するとは、さすが次期教授候補だけあるな!」
「いつまでも役立たずのおもちゃしか作れないとは言わせませんよ! それに、我が研究室の経済に一番貢献してるのは私ですから。物をコンパクトに入れておく術はハヤトの国にもありませんよね? ハヤトの国でも売れる見込みはあるかと。
ザイル教授、手順の簡略化はお願いします!」
「任せておけ!」

 喜びに沸く研究室。

 超高額、一回きりの変身セットが日本で大ヒットするのは一年後だった。


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