バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

同僚が家へ来た


『お願いです、サムライ将軍ゴザール様!俺、科学戦隊メカリオンのファンなんですよ!
一度だけで良いから、疾風魔王とか麗しの悪魔将軍サファイア様とかに会わせて下さいよ!』
『ああ、もう! アレは私達とは全く何も関係ありません!世界征服も企んでません!
変身なんてもってのほかです!お願いですからその名前で呼ばないで下さい!!』

 新人自衛官が、タケルに必死でお願いする。
最近大ヒット中の子供向け番組科学戦隊メカリオン。何か最近自分を見る眼が変だと思っていたら、その番組の登場人物そっくりだという。
しかも、タケルの周囲の人間も含めて。
全く持って不名誉だ。
世界征服を企む魔王とそれを阻止しようとする超兵器を駆使する科学戦隊メカリオンというお決まりのストーリーなのだが、メカリオンならまだしも敵側にそっくりだという。
サムライ将軍ゴザールがタケル、ゴザールの弟という設定の悪魔将軍サファイアが風太。
機械将軍ロバートがロビーで、裏切り者の獣将軍ショカツリョウがシバイらしい。
疾風魔王のハヤトに、幼い王子レッドのディーン。
はっきり言って全然似てないし、失礼だ。だって皆変態だから。
ゴザールは動物に目がないし、サファイアはお菓子が大好きで女装好き。料理下手なレッドに、乙女チックなショカツリョウ。
ちなみに疾風魔王の恋人はゴザールだ。ゴザール以外には興味も示さないという設定だが、息子はどうやって作ったのだろう。
そんな突っ込みどころ満載の番組だ。
タケルは一話で見るのを断念したが、何故あれが大人気なのかさっぱりわからない。
というか、この若い隊員は子供番組を見ているのか。
そしていい年して作り話と現実の区別もつけられないのか。
最近送られてくる怪文書がただのファンレターだとわかったのはいい事だが、それだって番組さえなければ来る事はなかったのだ。
ため息をつくタケルに、同僚が笑いながら提案した。

『よーし、じゃあ本当かどうか確かめに行こうじゃないか!帰宅組みは集合!』

 止める間もなく歓声が上がり、寮に住むものはブーイングする。
寮生活のものは門限がある為出掛ける事は難しい。

『困りますよ!勝手に……』
『まぁまぁまぁ。今日はディーンさんが来てるんだろ?おいしーい料理をたっぷり作ってな!お前が持ってくる差し入れ、凄くうまいからな。いいだろ?』

 言われて、タケルはしぶしぶ承諾する。

『まあ、確かに……あんな番組と全然違うってわかれば、少なくとも隊内では
絡まれなくてすみますか……』
『ありがとうございます!ゴザール将軍!』
『その名で呼ばないで下さい!!』

 そうして、一同は研究所に向かう。

『相変わらずものものしいな、お前の家。また設備増えただろ』
『研究所ですから。実際テロとか何度かあってますし』
『前は事故で犯人全員死んでたんだっけ。今は気絶して見つかるみたいだけど』

 同僚の言葉に、沈黙が落ちる。ニュースでも少し出ていたから、
事実だという事はすぐに飲み込めただろう。
子供達の誘拐事件もあったし、研究所のセキュリティは恐らく下手な国家機関より上だろう。

『「事故」が起こらない様、十分に指示に従ってくださいね。
勝手な行動されると、本当に事故死しかねないですから。とりあえず、
私が許可した扉以外は絶対に開けてはいけません』

 同僚は任務、私事の両方で何度か来た事があったから慣れたものだが、新人隊員は緊張している。

『タケルの言ってる事は本当だぞ。ここに忍び込んで消えたのは100人を超えるって話だ。
発覚してないだけでな。本当は「事故」が起こらない様捜査させて欲しいとこなんだが…』
『勝手に忍び込んだ人間が怪我をせずに安全に装置を盗めるようにしろ、と言われてましても…。私にはハヤトを説得できませんね』
『まあそうだよな。普通だったらそれでも無理やり押し通せるんだが、ハヤト博士は違うからなぁ。
確かに捜査はさせたが、研究資料流出させた事の証拠しっかり取られたし。事件の方も、あくまでも操作を知らない奴が勝手に機械をいじった事による事故って形を取られたし、もう捜査は無理だろう』

 新人隊員は、不安そうに辺りを見回した。

『行方不明者の出る家があるから、ここら辺は家がないんですか?』
『いえ?研究資料が流出した時、当然それを試そうとした人がいたんですよね。よく調べようともせずに。その結果、作られた機械が爆発して辺り一帯が…。まあ、ハヤトの物を勝手に構うなって警告ですね。一応自爆の警告は出たから被害者は出なかったらしいですけど。それからあえてハヤトの研究室の近くで住もうという人はいなくなりました』
『普通そこまでやれば相手側が悪くても逮捕できるんだけどな。
ハヤト博士の場合法律と物的証拠をうまく使うのもあるが、怒らせると何されるかわからないからな。
旅行中に風太が誘拐された時なんて、現地で原因不明の病が広まったからな。
あれもハヤト博士だろ?いくら天才っつっても、ワクチンのできるのが早すぎる。しかもワクチンが風太と引きかえってなぁ』
『さぁ?ただ、あれは仕方ないとはいえ、体内に埋め込まれた発信機を無理やり取りましたからね。ハヤトが心配するのも当然です。あの人は手段を選びませんから』

 タケルは話しながら、手を門につける。
カメラがタケルを映し出す。

『タケル様。おかえりなさいませ。お客様ですか?』
「遊びに来たそうです。新顔は新人隊員が3名、初めて来た同僚が2名。警戒レベル2にセット」
『確認しました。どうぞ』
『今何語を?』
『パスワードですよ。長くて覚えるのが大変です。
さあ、真っ直ぐついて来て下さい。それるとトラップありますよ』

 門が開いて、タケルがスタスタと入っていく。
新入隊員はおずおずと、タケルの同僚は鋭く目を配りながら後へと続く。

『タケル師匠ーっお帰りなさい!』

 中庭で剣の稽古をしていた風太が、駆けてくる。

『悪魔将軍サファイアだ!!』

 そこで初めてタケルの家に来た隊員の反応が分かれた。
2名は、風太の元へ。3名は、刀を持った風太の事を恐れて下がる。
その時、地面から何か弾ける様な音がして、次の瞬間には風太と隊員の間に柵が存在していた。
と同時に、後ろに下がった隊員達の方にロボットがどこからかやってきて、何か庭にごようでも、と聞いてくる。

『道から出ると危ないですよ。侵入者とみなされます。風太、ただいま帰りました』

 風太はローブを翻らせて、くるりと回った。

『タケル師匠、新しいローブが届いたんです。どうですか?』

 それはサーデライト学園に新しく出来た外科のローブだった。
肉と骨を模した荒々しくも美しいデザインで、それを着た風太は勇ましかった。
ついに外科が治癒学から分離したのだ。そして、風太はこの若さでそれを率いる教授となる。こちらの世界では精霊石の分野で目覚しい効果を上げたし、誇らしいことこの上ない。

『ええ、素晴らしく似合っていますよ』
『ありがとう、タケル師匠。あっそうだ。今日は、新しい生贄届いてるよ。ちっちゃい男の子』
『それは楽しみですね、早速行ってみます』

 言って、先に進んで戸を開ける。そして皆を振り返って、ようやく隊員達が固まっているのに気づいた。

『どうしましたか?』
『いや、生贄って…』

 おずおずとした言葉に、タケルは一瞬目を見開いてから笑った。

『ああ、孤児を世話するだけですよ。お風呂に入れたり、食事をさせたり。
よく孤児を預かるのですが、最初のうちは嫌がるので生贄なんて呼んでるんです』
『そ…そうか、そうだよな!』
『まさか本当に生贄なんて、ねぇ…』

 乾いた笑いをする隊員達を家に招きいれ、タケルは玄関の壁に
設置されたパネルに触れて、マイクに口を寄せてディーンを呼んだ。

『ディーン。今日の食事はもう作ってしまいましたか?お客さんが来てるんですが…』

 すると、すぐに返答が帰ってくる。

『任せとけ!今日の料理はかなり自信があるぜ!もう少しで出来上がるから、
先に黒太と一緒にお風呂入ってくれよ。もちろん皆泊まってってくれるんだろ?
お酒も届けさせるけど、飲みすぎんなよ』
『いきなり風呂か』
『泊まりかぁ。俺はいいけど……わるぃなぁ』
『ディーンさんの手料理は久しぶりだな。和洋中、どれ作っても美味しいんだ』

 朗らかなディーンの声に、緊張気味だった隊員達は気を抜いて笑いあった。

『新しく入った子は黒太って言うんですか。相変わらずハヤトはネーミングセンス無しですね』

 研究室の風呂場は、大浴場となっている。獣人たちを預かるようになって、改築したのだ。
その洗い場の真ん中に、鎖につながれた泥だらけの小さな黒い塊があった。
黒太というだけあって、少し固めの黒くて立派な毛皮の持ち主だ。まるで狼の容貌だった。

『うわっ酷い!!大丈夫か!?』

 隊員の一人が黒太に駆け寄るが、獣人の少年は牙を剥いて威嚇した。
幼くともその牙は人を狩れる。隊員はそれに気づき躊躇する。

『危ないですよ。その子まだ教育してませんから、下手すると食いつかれます』

 言って、タケルはシャンプーを手にたっぷりと盛り付ける。
にっこり笑ってシャワーをかけてやり、モフモフの黒い毛皮を洗っていく。
楽しい。とても楽しい。モフモフと毛皮を洗う時と撫でる時より幸せな時間はそう無い。
本物の犬を洗ったことはあるが、獣人の毛皮の手触りの方が断然いい。
振るわれる爪も剥き出される牙も、いい加減慣れた。かすり傷一つつけさせない。
しっかりとあるいは押さえつけあるいはいなして毛皮を洗っていく。

『ああ、この毛皮の感触が……』

 恍惚とした口調で言うタケルに隊員はドン引きする。黒太も明らかに怯えている。
注意しようと勇気ある隊員が進み出たところで、大人の獣人がお盆に酒を乗せて現れた。

「諦めろ、お前は今日から黒太。獣人じゃなく愛玩動物だ。おとなしく教育課程を終わらせるまでな。それにもう元の場所には帰れない。ただし、教育課程さえ終わらせればどこへ行こうと自由だ。俺達の体質は貴重だから、大抵の国じゃ歓迎してくれる。狩はもう許されないが、贅沢言わなきゃ食事だって手に入る。俺は言語学習含め、一ヶ月で終わらせたぞ。お前も自由が欲しかったら頑張れ」
「愛玩動物は酷いですよ。私はただ子供の世話をしているだけなのに」
「……タケル様。ハヤト博士がディーン様や風太様の肌を撫で回して洗ったら即刻刀で切るでしょうに。
黒太、よく覚えておけ。日本は一番俺達の事を優遇するが、一番俺達の事を犬扱いしてくる。
だから、タケル様の扱いに慣れてうまく対処できるようになっておけば絶対に得をする。
逆に言えば、タケル様一人をあしらえない様でこちらの世界で生きていくのは辛いぞ」
『お客人の前で失礼しました。黒太にすこしおとなしくするように言い聞かせていました。
ちょうど晴れですから、屋根は開けてしまいますね。ちょうどいい夕焼けが見えますよ』
『うわっ天井が開くのか!すげぇ!』
『風流だな…』
『じゃあ、まだ早い時間ですが一杯飲みましょうか』

 黒太を抱いて湯船に入れる。獣人は獣化したまま湯船に入ってはいけないのが一般の風呂場の決まりだが、それは大きな間違いだ。
獣人の毛皮の、湯船の中のふんわりした手触りが広く知られていないのは世界の損失である。
何故かタケルが世話をすると、必ず数日以内に獣化を自在に解く術を覚えられるので、下手をすると今日だけかもしれない至福。タケルはぎゅっと黒太を抱きしめた。

『前ニュースでやってた獣人のセクハラ問題ってこれが原因ですか……』
『何度も法律で禁止する案は出てるんだけどな。根強い犬好きの反対で通らないらしい』

 隊員達の呆れた声が聞こえるが気にしない。
確かにタケルもむやみに抱きしめられるのは好きではない。しかし、しかし。
そこに愛らしい耳が立ってたら触る。そこにモコフワの毛皮があったら触る。
それは人として当たり前の衝動であり、抑制するなど不可能だ。
そこの所を、獣人はどうして理解できないのだろうか。
不思議でならない。
風呂から出ると、着替えが置いてあった。
それはいい。それはいいが、何故獣人用の軍服なのだ。
獣化しても破れない為の、ゆったりとした、かつ動きやすい服。
タイプCだから肌触りを優先してあるとはいえ、これを来て寝るのは気分的に落ち着かない。
執事に内線で連絡する。

『誰ですか、客人の着替えを用意したのは。すぐ呼んでください』

 いくらも経たないうちに、獣人……ドロアが掛けてきた。

『これから戦争にでも行くつもりですか。普通のパジャマはどうしました?』
 
 獣人は何も言わず、尻尾を丸めたまま俯いている。
声を聞いた時に耳がピクッと立ってすぐ寝てしまった事から、言葉が理解できないと推察できた。
案の定、ゆるりと獣人の思念が触れてくるのを感じるが、タケルは心を鬼にして拒絶した。
本当は可愛いから許すと言ってしまいたいところだが、この獣人はもうすぐ外へ働きに出る事になっている。
言葉がわからない事も、こちらの風習がわからない事も、困った時にすぐに人の心を読もうとするのも、外で生きていくには致命的だ。
特にこの獣人は、獣人の集団の中で生まれた為かテレパシーが異様にうまい。
魔術も併用する事で、本来獣人間でしか使えないテレパシーを普通の人とも使う事ができる。その分、人と会話しようとせず、心に触れた印象だけで全て判断してしまうのだ。
テレパシーを使わない会話だと、向こうの言葉にすら苦労するような子だ。
本当はまだ外へ出すべきではない。むしろ獣人の集団から出すべきではない。
なのに、好奇心だけは旺盛で、しきりに外へ出たがって。獣人の従業員を探しに来た企業の要人とテレパシーを交わし、さっさと話を纏めてしまった。
タケルがちょっと表情をきつくして、もう一度普通のパジャマを、と繰り返す。

『いいですよ、僕これが着たいです』
『そんなに怒るなよ。浴衣みたいだし、面白いデザインじゃないか』
『肌触りいいなぁ、これ』

 すかさず隊員達が着替えを賞賛し、初めて見る服に袖を通してこの紐はどこと結ぶんだろうなどと騒ぎ出す。
獣人の耳が立って、尻尾をパタリパタリと振って着替えるのを手伝いだすと、隊員は口々に獣人に礼を言った。
隊員たちに変化がない所を見ると、テレパシーは使わずに意思の疎通を果たしたようだ。
客人が喜んでいるなら、タケルも怒る事が出来ない。元々タケルに獣人を怒る事は難しい。
だから獣人たちは、仕事中は獣化してタケルに撫でられかけると獣化を解く。ずるい。
タケルが着替えに手を伸ばすと、許された事を悟って獣人が更に尻尾を振る。
くしゃりと獣人の頭を撫でて、食卓に向かった。



タケルは猛烈に後悔していた。しまった。和食にするよう言うのを忘れた。
ディーンは何時も以上に気合を入れて料理を作っている。
流石に客人が来てるとの事で向こうの食材は使われていないが、
ディーンはこちらの食材で向こうの食材に似たものを探すのに余念がない。
なので、ディーンの好きな虫入りスープもしっかり用意されている。
いい加減向こうの料理にも慣れてはいるが、虫料理だけはタケルは苦手なのだが。
慣れているタケルでさえ躊躇するのだから、隊員たちはなおさらだろう。

「すいません、和食にするのを忘れてました…」

 言って黒太を抱き上げて、ディーンが作った獣人用ランチを黒太に食べさせる。
代替物はもうハヤトが開発したから、獣人は人を食べる必要はもうない。
向こうで広めた代替物は数十種類に及ぶし、獣人たちが購入する為の支援金を国が出している。
だから、都市部で新規に発生した獣人は教育の必要がない。
獣人になったら、国に申請して、格安で薬を買って、週に一度飲んでそれで終わりだ。
まだまだ問題はなくなりきってはいないから、獣人になるとハヤトの所に来るものも多いが、少数とはいえそのまま以前の暮らしを続ける者もいる。
だが、人里離れた場所で発生した獣人や、以前からの獣人、その獣人の集団の子供などの中には、まだ人を食べる獣人はいる。そんな獣人達にいきなり人と暮らせ、もう人肉は食べるなといって代替物の薬を渡しても、うまくいくはずはない。彼らにとってそれは生きる為の当たり前の行為だ。
それを否定し、罪を突きつけるのは…薬さえあれば人を食わずとも良かったのだと無責任に断罪してしまう事は、タケルにはできなかった。だから、タケルが考え出し、ディーンの協力を得て作り出したのが獣人ランチだ。
薬や代替物は飲んでもらうが、豚肉のミンチで作った人そっくりの獣人ランチも食べてもらう。
それで、徐々に獣人ランチを普通のハンバーグやカツ丼や焼肉に移行していき、ごく自然に慣れてもらうのだ。
そしてどうしても人を食べたいという衝動に襲われた時には、この獣人ランチをご馳走する。
我ながらなんて素晴らしい計画だろう。
隊員たちに謝り、味は良い事を説明し、どの料理がどんな味付けか説明しながら黒太に獣人ランチを食べさせる。
黒太はまだ心を開いてくれないのか、かたくなに口を閉じている。

「黒太、どうしたんですか?本物の人でなくてすみませんが、見た目はそっくりでしょう?
これで我慢してください」

 黒太は、きっと睨んでいった。

「ああ、そうだ!僕は、僕は人を食べてきたんだ。だから、だからこのくらい…っ」

 涙目で食べ始める黒太の頭を撫でる。辛い目にあってきたのだろう。かわいそうに。
それはそうと、何故隊員達の目が冷たいのだろう。

『おっとワインを零したぁっすまん、黒太くん!』

 同僚が獣人ランチを台無しにしてしまう。

『すまんなぁ、黒太くん。おわびにお兄さんのを分けてあげよう』

 そういうと同僚は、唯一まともそうに見えるステーキを黒太の方へ押しやる。

『何やってるんですか先輩。じゃあ、僕からはパンを』

 黒太はきょとんとしていたが、ガツガツとそれを食べる。
なんだかよくわからないが、食欲旺盛なのはいい事だ。しかも、普通の食事。

「薬を得てなお、人を食らうものがいるのは、飢えを恐れる本能的な恐怖の為。
……食べなくても良かったのだと認めれば、今まで命を奪ってきたのも無駄という事にもなってしまいますしね。
どんな獣人だって、望んで人を襲うわけじゃないんですよ。
ただ、自分を誤魔化す為に望んで襲う振りをしているだけ」

 給仕をしていた女性の獣人が、苦笑して言う。ちなみに、この獣人は今獣化していない。
長い黒髪に、お人形のような整った顔立ちだ。
こちらに来た当初は随分荒れていたが、元からの育ちが良かったらしく、
数日後には大和撫子となってタケルを驚かせた。
彼女の言葉を聴いて、眉を顰める。
このランチは、獣人の為に作っている。当の獣人が嫌がっているなら、本末転倒だ。

「迷惑でしたか?今まで、そんな話を聞かなかったので」
「今までの自分と決別するきっかけに最適ですので。皆これを作ったタケル様を見返す為に猛勉強するんですよ。
私もいつか人の中で普通に生活できるようになって、その後にタケル様を平手打ちする事のみを夢見て頑張りましたから」
「私はいつか平手打ちされますか?」

 それはあまり喜ばしい事ではない。だが、それで獣人が完全に過去から決別出来るならいいか、とも思う。
ところが、獣人は首を振った。

「犬扱いしかしなくとも、たまに酷く失礼な勘違いをしていようとも、タケル様は命を賭して私を守ってくれていたと気づきましたから。
私が人を食わないと確信できるまで、ずっと寝食を共にしてくれたでしょう?
だから、タケル様の獣人の安全を保証する推薦状は、どこも受け入れてくれるのでしょう?」
「他の人を襲えば問題にもなりますが、私だったら襲われてもどうにかなりますしね。
たとえ失敗しても、その時には私が悪いのですし」
「タケル様のそういう所、好きですよ」

 ニコリと笑う彼女にワインをついでもらい、これはチャンスと誘いをかける。

「私も、貴方の事が好きですよ。美しい金色の毛皮には、ウェディングドレスがぜひ似合うと……」
「ふふふ……。タケル様の毛皮しか見てない所は今でも嫌いです」

 きっぱりと断られて、がっくりくる。

「ばーかっ」

 黒太がパンを齧りながら言ってくる。更にがっくりきてしまった。
言葉もわからないくせに、振られたな…という言葉が聞こえてきた。
先ほどの言葉が通じないのに若い獣人を庇った時といい、
同僚達のコミュニケーション能力は存外高い。
ディーンが笑顔で勧めれば誰でもにっこり笑って食事を口に入れてしまうものなのに、躊躇する余裕もあるし、情報収集らしきものもしている。
いつも一緒にいるのに、全然気づかなかった。
自分も口を滑らせる事があるかもしれない。注意しようと、気を引き締めた。



既に遅かったらしく、同僚から戦闘技術の情報漏えいについてかなり叱られた。



食事を終わらせると、ディーンが手品でも見ないかと言ってきた。
最近はディーンはよく出張しているので、ゆっくり手品を見ていない。
隊員たちも賛同し、風太がお菓子を大量に持ってくる。

『手品見ている間、僕はお菓子食べてますね』
『それ全部自分用ですか…?全く、少しは大人になったと思ったのに』
『ええー!?そりゃないだろ』
『つまみ用意したから、食べてくれよ』

 ディーンがつまみを用意してくれて、獣人達も集まってきた。
まずは定番の鳩。国旗。スカーフがシルクハットから出てくる。
それから、渋る風太を説得して大技の手品に入る。
大盛り上がりのところで、ディーンが歌うように言った。

「光よ、我が願いに答えて集え。その形は小さき鳥。
その翼は白く輝き、その目は蒼いサファイアのごとく、
その足は金。我が周囲を舞い踊れ!」

 ディーンの願いに答えて、光の精が鳥の姿をとる。

「ちょ…ちょっとディーン!駄目ですよ術を使っちゃ!!」
『うわ、ディーン凄い手品ですね!どっから見ても手品です!』

 あわててごまかすが、もはや手遅れな気がする。

『うわ、すげぇ魔術!』
『さすがレッド王子』
『手品ですって!!』

 それでも押し通すが、ディーンは気にせず更に鳥を出そうとする。
ディーンの手品の中では一番の人気らしいのだ。
大いに盛り上がる部屋の中に、ロビーを引き連れてスタスタとハヤトが入ってきた。
顔にも服にもキスマークが一杯ついている。

「全く、タケル以外目に入らないって言ったのにハニートラップなんぞ仕掛けおって……」

ハヤトは以前、ディーンが誘拐されてからそう公言している。
ハヤトが大切なのはタケル一人。
誘拐するならタケルを攫えというわけだ。
酷い言い様だし、真意は誰が見てもわかるだろうが、ハヤトがそれで落ち着くなら構わない。
実際、タケルが攫われればハヤトはタケルが大切だと言う振りをするため、対応が風太やディーン、獣人を攫った時より柔らかい。
その為、標的をそらすという役には立っていた。
タケルは自衛隊員だから、何かあっても対応できる。
昔、風太とであったばかりの頃は、いつも迷ってばかりで、自分の力のなさに嘆いていた。
今は違う。この小さな楽園を守っているのはタケルなのだ。

『救援が欲しければ、いつでも呼んで下さい。私が盾になりますから』
『思い上がるな。お前は自分を粗末に扱いすぎる。捨石がかっこいいとでも思うのか?』
『思いますよ?私が倒れれば皆が困りますから、そう簡単にはやられませんけどね』

 にこりと笑うと、ハヤトは不機嫌そうに黙った。

「ちょっと、二人とも、私のことを忘れないでよ」

 獣人のアリアがやってきて、ハヤトの顔をぬぐう。

「もう、ハヤトったら何時になったら私が一番大事だと公言してくれるの?結婚だってしてるのに」
「アリア、わしはアリアが好きだ。浚われたくないと思う」

 素直に言うハヤトの言葉を聞き、ハヤトも大分柔らかくなったと思う。
大切なものが一つ増えるたび、ハヤトの冷たい瞳は和らいでいった。
他の人間など路傍の石程にも思ってなかったのに、今は踏み潰すのが惜しい花程度には思っている。
それをタケルは好もしく思っている。
利用する相手としか扱っていなかったタケルの事も、気遣ってくれるようになった。
けれど、それはハヤトがハヤトでなくなる事を意味している。
きっと、タケルもハヤトの「大切なもの」に分類分けされる時、タケルを攫った狂科学者ハヤトは消えるのだろう。
10年前に待ち望んだ未来が目の前にある。
だというのに、その未来を得てしまう事がタケルは少し怖い。
我侭だなぁ。思ってタケルは苦笑した。



ガタガタガタッ



 獣人がディーンを素早く庇う。

『研究室か?』

 ハヤトは銃を出そうとして、思いとどまる。ここには自衛隊員がいる。銃は不味い。
部屋の中に、サイレントバットが飛び込んできた。
獣人が風太の食材を取り逃がしたか。
セキュリティレベルを客人の為に大分下げておいた為に、逃げ出したサイレントバットがここまで来れてしまったのだろう。

『ロビー!刀を!』

 軍服の補助結界を作動させ、ロビーのペッと吐き出された刀を掴み、一気に踏み込んで一閃する。
 補助結界の展開の為ふわりと広がっていた袖がぱさりと元に戻り、
 サイレンバットが真っ二つに両断され、落ちた。
 何故か、ぱらぱらと拍手が起きる。

『おおぉ~。さすがゴザール…』
『なんだよ仲間割れか?』
『違いますよ、地下に蝙蝠がいてですね…ちょっと大きいのもいるみたいで』

 慌てて否定しようとすると、ディーンが駆けてきた。

『俺はもう庇わなくても平気だって何度言えばわかるんだよ。大丈夫か?タケル師匠。怪我は……ないな』

後ろにばかり隠れていたディーンは、最近では前に出て戦うようになり、タケルやハヤトを気遣うようになってきた。
もう年だと認識されているらしい。失礼な話だ。

『わぁ、おいしそうですね』

 風太が目を輝かせ、ハヤトが焼くか、と掴みあげる。
 勇気ある隊員の一人が、ご相伴を願ってきた。

『その蝙蝠、毒ありますよ』
 
 言ってから、しまったと口を押さえるがもう遅い。
風太が食べると言うのに、毒があるというのはまずい。

 『そっか……。サファイアは悪魔将軍だからな』
『違います、特異体質なんですよ! あー、もう寝ましょう。明日早いですし。
寝て全て忘れてしまってください』
『『『えー?』』』

 不満そうな声を漏らす隊員たちを部屋へ追いやる。
 そして黒太を抱っこする。

『獣人を抱きしめて寝ると幸せな夢が見れるんですよね。私ももう、今日は寝ます』

 黒太は蝙蝠の出現でまだ毛を逆立てていたが、頭をなでていると徐々に落ち着いてくる。

「大丈夫ですよ黒太。私なら大抵の魔物は追い払えますから」
「ふざけんなっ僕は一人でも平気なんだ!」
『しかしタケル、お前いつまで獣人の世話するんだ?俺達そんなに暇ないだろう』
『私がいない時は他の者が面倒を見ますし、基本的に私は人を攻撃しなくなるまで傍にいるだけですから。
一日私を襲おうとしなかったらべったり見張るのをやめて、
大体1週間私に牙を剥かなかったら合格証持たせて獣人の教育係に渡します』
『……タケルの教育ってもしかしてそれだけ?』
『大事ですよ。一週間って獣人が必要な栄養を摂取せずに生きていられる時間なんですよ。
代替物を信用してくれない子は、この期間内に必ず襲ってきます。
これと食事の管理が出来ないと、まず外へはやれません』

 二人は、タケルの腕から抜け出そうと爪を立てて暴れている黒太を見た。

『頑張れよ、黒太くん……』
『ゴザールが挑発を続ける限りは難しいですよね……』
『挑発なんてしてませんよ。失礼な』

 大体、そうすぐに成長なんてしなくていいと思う。
 ディーンも、風太も、獣人達も、あまりにも早く巣立ってしまう。
 それがタケルには寂しい。タケルは、愛情を注ぐのが好きだから。



 翌朝、ディーンは懐石料理を作ってくれた。
 朝からまた、重たいものを……。
 ディーンが来ると、食費が跳ね上がってしまう。
 とにかくディーンは、様々な料理に挑戦するのが好きなのだ。
 手の込んだ料理を作る時の笑顔が好きで、ハヤトもタケルも
 中々質素な料理を頼めない。
 タケルとしては、一汁三菜で十分なのだが。
 黒太は白米が苦手と聞いたので、昨日の料理だ。
 子供は好奇心が強いらしく、ちょこっと味見しては気に入ったものに齧りついている。
 ただ、あの料理よりも白米が嫌と言うのは悲しいものがある。

『ハヤト博士。今日のニュース一覧です』

 ロビーが書類の束をハヤトに渡すと、ハヤトは素早く目を通していく。

『タケル様、ディーン様、風太様、今日のニュース一覧です』
『あれ、厚さが違いますね』
『必要とする情報が違いますから。例えばディーンは食材のニュースが主ですし、ハヤトは研究とそれに関する法律のニュースが主ですし』
『毎日纏めて貰ってるんですか!?』
『ハヤトが始めたんですよ。自分に関わりのある一部のニュースを見逃さないために
テレビを見たり新聞を読んだり、ネットを調べたりというのは手間ですからね。
その為のチームが毎朝作ってます』
『見てもいいか?』

 興味を惹かれた様子の同僚に、謝罪する。

『すいません、獣人達の指導についての情報もあるので、見せられません。
他の人に見られてもいい資料だけで出来ているのはディーンくらいでしょうか』
『駄目。新しい料理法とかも載ってるから、これみせたら作った時驚いてくれないだろ?』
「まだですか。まだ試行錯誤するんですかディーンは」

 最近食べられないものを食べられるようにする研究も始めていて、怖いものがある。
 「中国人は机の脚以外はなんでも食べるんだぜ?俺は机だけじゃなくて椅子とかその他の家具とかも食べられないけど、それに近づけるようにはしたいよな!」などとディーンが言い出したときは本気で慌てた。

『しかし、新聞がないのは辛いな…。せめてテレビはないか?ニュースが見たい』
『一応、あるにはありますよ。少し旧型ですが』

タケルがテレビを引っ張り出して電源をつける。
ちょうどニュースのチャンネルだったらしく、テレビの隅に大きな見出しが出ている。

――驚愕!アメリカの邪教集団が魔王召喚に成功!?

『はぁ?なんで朝からこんな番組』

 タケルが見出しに首をかしげ、チャンネルを変えるが全てのニュースチャンネルが同じ
内容を出している。

――邪教集団の信者の一人がビデオを撮っていました。

 その一言と共に、映像が流れ出す。会話は全て英語だったが、ご丁寧に既に字幕がついていた。
 そこでは不機嫌なハヤトが、ロビーに女性を押さえつけさせていた。

――やめるんだ魔王!
――その女性を放すんだ魔王!

 アメリカの獣人保護部隊がハヤトに訴えかける。
 ちなみに、獣人保護部隊とは、獣人の受け入れにしたがって
 アメリカが作った獣人の監視・保護を目的とする部隊だ。
 本来は力の強い獣人による普通の警察には対応不可能であろう犯罪を未然に防ぐ為に結成されたのだが、
 獣人の起こす問題よりも獣人が事件に巻き込まれる方が多かったので今は保護が主な任務となっている。
 シバイも正式な隊員ではないが、よくアドバイザーとして協力している。

――この女はワシを呼ぶ目的でワシの犬を監禁し、汚らわしくもこのワシに擦り寄ってきおった。犬を無事に取り戻した以上、この女を排除しない理由はあるまい?

 ハヤトがゆっくりと問いかける。確かに獣人を攫ったのは許しがたい。
 日本では力の強い獣人が攫われる事はそうそうないが、外国には銃があるのだ。
 獣人もさぞ怖い思いをしただろう。
 ハヤトの瞳は、冷たく輝くようだ。魔物さえ追い払う氷の瞳は、まだ健在のようだ。

――終わりにしよう。馬鹿げた祭りを二度と開く気も起こさぬように。

 ハヤトが術具を取り出す。魔力のない人間でも発動できる術具だ。
 用法は簡単。地面に叩きつけて、割るだけ……って、人前でそんなもの!!
 タケルは思わず立ち上がりかけるが、もう終わってしまった事だ。

――待て!それが病原菌のカプセルか何かは知らないが、令嬢は丁重な扱いをされていたと聞いている。落ち着け!!無関係な罪のない人達を巻き込んではいけない!そして間違えるな!それはイギリスのご令嬢で隣にいるこれはアメリカの犬だ!獣人はお前の物なんかじゃない!

 慌てて獣人保護部隊の一人が止める。そこで、ハヤトの足元に蹲っていた毛の塊が動いた。………まだ幼さの残る、獣人の少女だ。あれは、ケティ。
 ハヤトに預けられたものの、まだ人を食べた事がなかった為教育の必要なしとそのまま
養子に出された子だ。本当はタケルがこの手で育てたかったが、家柄の高さゆえに由緒正しいイギリスの家に預けられたのだ。
 親切な新しい両親に迎えられて、幸せそうにしていたのに。
 ケティが目覚め、流暢なイギリス英語を話しながらハヤトに縋る。

――神様…?神様、ごめんなさい…。
――ケティの魂は神様のもので、けーやくは絶対ですのに。
――人を食べない代わりに最高のお父様とお母様をくれるってけーやくですのに……。
――食べちゃいました……お薬、もらえなくて……ケティ、いっぱい食べてもお腹空くようになって……。
――おじさまのおててから流れた血、舐めちゃいました……。
――ケティ、どうなりますの? もう、一人は嫌ですぅ……いやぁ……。

あれほど異国の言葉を話せるようになるまで、どれほど苦労したろう。
獣人になって、幼いながらにもう元の両親とは暮らせないと理解して。
人を食べればまた両親との別れを味わうのだと理解していて。
どれほど怖かっただろう。どれほど辛かったろう。
許せない。あの場に、ハヤトは何故呼んでくれなかったのだろう。
啜り泣くケティに、獣人保護部隊は激昂した。

――おまえぇぇぇぇぇぇ!!外交問題にしない条件無事に帰す事だったんだぞ!?
――ハヤト様!!それでも、それでも彼女は法の元で裁かれるべきだ!どうか、過ちを犯した者に慈悲を!でなくば、私に慈悲を下され!それを使えば、私も、私の仲間も、私が守るべき無実の市民も犠牲になる!

――ワシの命を破らせた罪は重いぞ。
――あははは、我が願いは叶えられたり!魔王よ、怒りのままに世界を滅ぼしてしまえ!!

ハヤトは女の声を聞き、ため息をついた。

――誰がお前の言う事など。シバイ。それほどいうなら慈悲はくれてやる。
――ただし、行使の権利はケティにやろう。好きにしろ。これをもって許しの証とする。

 ハヤトは、ケティに薬瓶を持たせ、術具を叩きつける。
 シバイが、大物が出てくるのを恐れて獣化した。
 パリンと術具が割れて、巨大な蝶が出現する。
 蝶は哄笑する女の真上で羽ばたき、鱗粉をばら撒いた。
 獣人保護部隊が蝶を銃殺する。
 それと同時にロビーが煙幕をばら撒き、ハヤトは消えた。

――ケティ殿……。

 シバイが躊躇いがちにケティに話しかける。女が、鱗粉を浴びて動かなくなっていた。

――毒か!?
――鱗粉による麻痺毒だ。薬を飲まぬ限り、手足が動かせぬ。気をつけられよ。

 薬、と聞いて自然にケティの薬瓶に注目が集まる。

――神様は私をお許しくださいましたわ。お父様とお母様だって、いつもケティを許してくださいますわ……。

ケティが薬を差し出した。シバイが、押し頂くように薬を受け取り、女に使う。

――ところでオリバー殿。先ほど私の事をアメリカの犬と……? オリバー殿だけは私を犬扱いしないと信じていたのに。

――そうだぞオリバー、失礼だぞ。

――バっバリー殿っ そういいながら尻尾をつかまな……ああっ耳は駄目だと……くぅ、これだから人前で獣化すると……!セクハラで訴えられたくなくば手を離されよ!

……そこで映像は途切れていた。毒気を抜かれてしまったタケルは、息を吐く。
ケティのご両親は出来た人だから、これくらいでケティを拒絶する事はないだろう。

――というわけで教祖は逮捕されたわけですが、衝撃映像でしたね。
――ええ、まさかハヤト博士が暗黒神だったとは……。

ニュースキャスターの声にタケルの目が点になる。

『化け物召喚してたぜ……。やっぱりハヤト博士って』
『あれはワシではない。ワシは昨日ここにいただろう。ワシが魔王だの暗黒神だの、馬鹿らしい。アリバイの証言には協力してくれると助かるのだがな』

 ハヤトが一笑に付す。
 確かに、時差の問題をクリアできなければあれがハヤトと立証は出来ない。
 ハヤトの顔は良くある顔だし、他人に名前を騙られたと言えばそれで終わりだ。
 今まで、それで終わりにしてきた。
 ニュースに見入った為に、時間を浪費してしまった。
 タケルは急いで食事を食べ始めた。



 研究室を出る。いい天気だった。

「ほら、やっぱり科学戦隊メタリオンなんて番組、
 私達とは無関係だったでしょう?
 いい大人が、フィクションと現実を混同してはいけませんよ。
 で?何か質問はありますか?」

 なんとかごまかしきったと、タケルがにこやかに問いかける。
 確かにごまかさなければならない事はいくつかあったが、答えはもう用意してあるし、メタリオンなんて番組が嘘な事は真実なのだ。何も問題は無いだろう。
事の発端となった新入隊員も、にこやかに答える。

「日本は戦隊物の本場なのに、アメリカにしかメカリオンがないなんて酷すぎます。
僕、仲間を集って絶対メカリオン作りますから!」

 すると、同僚が言った。

「いや、疾風魔王の目的が世界征服とは限らんぞ。獣人達と人類の融和が目的かもしれないじゃないか。俺は定年迎えたら疾風魔王の配下になるぞー!」
「私はメカリオンで!疾風魔王が変身する姿見てみたい!」
「信じてる人増えてる!?何故ですか!??」

 動揺するタケルに、笑顔で隊員たちは追い討ちをかけた。

「「「そういうわけでよろしく、ゴザール(様)!!」」」
「その名で呼ばないでくださーーーーーーーーーーい!」

 タケルの悲鳴も聞こえないと、隊員たちは基地へと駆ける。
いっぱいの土産話を胸に抱えて。


後日、科学戦隊メタリオンの作中で疾風魔王は暗黒神へと進化を遂げた。
ちょうどその頃、獣人がネタに行き詰っていた友人に研究所の情報をネタとして流し続けていた事が発覚し、
日が暮れてまた上るまでタケルの説教が続いたのだった。

しおり