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獣人狩り

 今日は初の戦闘実習だ。ディーンは胸をどきどきさせた。

「前はヴィレッジイーターが出たんだよね……。怖いなぁ」

 ラキの弱気の言葉に、ディーンは力づける。

「大丈夫だよ、師匠が倒したって言ってたし」

 そういうディーンも本当は不安だ。
 こっそりと通信機を胸元に忍び込ませた。
 ディーンはいつも隠れてばかりだった。それだけでは、夢は叶えられない。
 幸い、ラキと一緒の藩になれた。
 それだけでも僥倖だ。

「やばかったらいつでも魔力暴走してくれよ、ラキ。頼りにしてる」
「魔力暴走してくれなんていうのはディーンが初めてだよ」

 ラキはにっこり笑って言うと、ディーンにこっそり短刀を見せた。

「なんだよ、二人だけで通じ合って。俺達も同じ藩なんだからな」
 
 サティだ。平民出の、青い短髪に目、やや幼げな顔立ち。彼は15歳で学院に来た。

「うふふ。仲がいいんだから」

 エルガリーゼ。27の長い緑の髪の茶色い瞳の細い女性で、子持ちの貴族だ。

「遊んでおらんと、早く行くぞ」

 ライド、40代の金髪に緑の目のがっしりした男性。
以上が、ディーンの所属する藩だ。サーデライト学院には色んな者が来る。
 ディーンは、急いで皆の輪の中に入った。
 外から森を見つめる。上級生が入ったばかりだから、大物は大体倒されているはずだ。
 ディーン一行は、他の藩に比べ積極的に森の中へと入っていった。
 ある程度奥まで入ると、ディーンは辺りを見回した。

「奇襲をかけられればいいんだけどな…。あ、フライグリフ!」

 頭と翼は鳥、他は馬のその隼人の国ではグリフィンと呼ばれるそれは、ディーンにはおなじみの魔物だ。

「ラキ、居合い切り頼むな、ライド、倒せなかったらすぐ結界張ってくれ。エルガリーゼ、サティ、一斉射撃」
 呆然としていた四人は、ディーンの指示に従っていく。
 ディーンはボウガンを構える。魔物を倒すのに、魔術でなくてはいけないという規則は無い。
『風よ、我が祈りに答え、収束して吹け!』

 射出と同時にボウガンに風の呪文を付与する。
 それは見事にグリフィンの体に刺さった。
ラキの渾身の居合い切りがグリフィンに傷をつけ、エルガリーゼとサティの攻撃呪文が追撃をする。
ディーンは短剣を持ってグリフィンの喉を裂き、戦闘を終えた。

「不意をつけたから、今回は楽だったな」

 ディーンの言葉に、無我夢中で戦っていた4人は我に帰る。

「私達だけ…私達だけでフライグリフを倒した!」
「卒業までには一人で逃げられるか倒せないといけないんだよな。先は長いぜ」

 喜びかけた一同だが、ディーンの言葉に動きを止めた、
 そうだ、卒業したらそこにいる者たちだけで魔物に対処しなくてはならない。
 特にライドは、治癒学を学んで村に戻りたいと思っていた。
 村に魔術師はいない。これは頭の痛い問題だ。
 ディーンはグリフィンの翼を切り取り、冥福を祈ってから戻った。

「運ぶの、手伝ってくれよ。これで課題は完了だな」
 
 ディーン達が戻ると、攻撃呪文科の教師、アルはとても喜ぶと同時に、眉をひそめた。

「最近、強い魔物が多いな……。早速会議を開き、セラフィード様に報告しなくては。ディーン、お前の師匠の提案した魔物分布を纏める調査、役に立つかもしれない。とにかく、お前達の成績はAだ」
「ありがとう、アル先生。これで孤児院の子供達に自慢が出来る」
「いや、それはやめて置け。最近、城下町がきな臭くてな。代筆屋の件があって、魔術師が全ての仕事を奪うつもりだと噂が出ている」
「代筆屋さんには無料で技術提供したらどうだ?オーギュスト教授だって文字教えるの頑張ってるし、サーデライト学園はお金には困らないだろ?」

 ディーンが言うと、アルが目を見開いた。

「それで治安が戻るならいい事だな。とにかく、魔術師と普通の人との確執を無くして行きたいのだ。その為の医者病棟設立になるわけだしな」
「いずれ、魔術師じゃない人も通えるようになるといいな。呪文の開発は魔術師じゃなくてもできるわけだし、医療の分野以外にも建築とか語学とか色々あるわけだし」
「……今なんといった?」
「魔術師じゃなくても、魔術や術具の開発は出来るよな?実際に試せないだけで」

 アルは、その言葉に酷く驚いたようだった。

「試せない呪文を作ってどうするんだ」
「魔術師に使ってもらうに決まってるだろ?」

 ディーンにとって、それは常識だった。
 何故なら、ハヤトがディーンの教科書に所々メモを書き込んでいたからだ。
 それを見ると、一層理解が深まった。
 魔術の研究は、魔術師以外にも出来るのだ。
 この一言が、サーデライト魔術学院のありように一石を投じたことを、ディーンは知らない。
 


 
「獣人狩りに一緒に?」

 放課後、セラフィードに呼び出されたディーンは眉をひそめた。
 ディーンはまだ学生である。獣人との戦いの事など良く知らない。

「ディーン、貴方には獣人の事を良く知ってほしいのです。貴方の戦闘成績はAでしたし、もちろん、護衛はつけます」

 セラフィードは答えた。

「ああ、わかった」
 
 セラフィードは頷き、セラフィードと護衛と共に移動呪文を使う。
移動呪文を使った先は、なんと宰相の屋敷だった。

「ああ、ケティ、ケティ…」

 いかにもタケルの好みそうな、ふわふわのもこもこの、愛らしい獣人の小さい子供を抱いた貴婦人が、泣きながら出てくる。

「ご令嬢は殺されはしないそうです。ならば、このまま処刑するよりは、国の為に役に立ってもらった方がいいでしょう」

 セラフィードの冷たい言葉に、ディーンは俯いた。しかし、こんな小さな子供でも獣人は獣人だ。本来ならば、セラフィードの言うとおり処刑されるはずなのだ。
 ディーンは、花を出した。それに、ケティは驚く。

「笑って下さい、ケティ様」

 泣いていたケティは、次々と繰り出されるテジナに笑みを浮かべた。
 それにディーンはほっとする。
 ケティを抱き上げる際、セラフィードは眠りの呪文を唱えた。
 ケティが深い眠りにつき、檻に入れられる。それを、痛ましい目でディーンは見守った。
 その時、声がした。

「ケティ様をお助けしろ!」

 灰色に近い青、硬い毛並みの獣人が現れ、炎を撃ち出して来る。

「やはり来ましたか」

 セラフィードは素早く結界を展開し、その身を守った。
 走りこんでくる獣人。
 護衛の一人が動き、後ろからセラフィードを襲った。

「危ない!」

 ディーンがとっさにスタンガンを作動させる。
 護衛は崩れ落ちていた。

「ダナイ!」

 ディーンを襲った護衛の名を叫んで、ディーンに殴りかかる獣人に、セラフィードは眠りの呪文を放った。
 しかし、獣人は飛んで避ける。

「ダナイが仲間だったとは……。貴方、もしかしてヨアートですか?以前逃亡した。ダナイとは懇意だったと聞きました」
「ドロス、アリア。一気に掛かるぞ」

 灰色に白の混ざったぼさぼさの毛皮の獣人と、黒い滑らかな毛皮の獣人が襲い掛かる。
 3人もの獣人に襲いかかられて、セラフィードと護衛は目を鋭くした。
 セラフィードの流れるような詠唱が始まり、護衛が応戦を始める。
 ディーンも、スタンガンを構えて応戦した。
セラフィードがスタンガンの存在に驚くが、ひとまず獣人に意識を集中する。
激しい戦いによって、セラフィード達は傷だらけになりながらもケティを含めた5人の獣人達の捕獲をした。

「彼等は仲間の間でテレパシーが使え、絆が強いのです。ゆえに、子供の獣人自体が無害でも一刻も早く処刑するしかないのです。わかりましたか、獣人の恐ろしさが」

 しかし、ディーンは獣人たちを見つめて悲しそうな顔をするのみだった。

「師匠だったら、助けてくれるよな」

 その言葉に、セラフィードはため息をつくのだった。
ディーンは翌日、学校を休んだ。
ディーンなりに、考える事があったのだ。
あの獣人達は助かる。けれど、他の獣人達は?
放課後、ディーンは通信機がなっている事に気づき、自室でこっそり電話する。

『ディーン?ちょっと困った事が起きた』
『どうしたんだ、風太?』

 風太が困るなどよほどの事だ。ディーンの心に不安が押し寄せる。

『帰ったら獣人達がもう来てたんだ。ハヤトは、彼等を助手にするって』
『助手に!?俺達の事は!??』
『ディーンは魔術の知識を出来るだけ集めて来いって。特に魔力の無い人でも使えるものを。ディーン……ハヤトは、もしも僕とディーンがいいなら、いずれこの世界を征服したいって』
『そんな事、駄目に決まってるじゃねぇか!』
『うん、大丈夫。まだ時間はあるし、僕達の言う事も聞いてくれる。だからディーン、絶対危険な目にあわないで。この世界を壊しても構わないと思わせないで』
『風太……わかった』

 ディーンは通話を切った。
世界征服なんて、そんな馬鹿な事できるはずない。出来るはず無いのに、ディーンは不安だった。何せ、相手はハヤトで、今絶対的な味方を集めている。
今だったら間に合うだろう。しかし、ディーンには密告する気は無かった。
ハヤトの支配する世界なら、俺のような子供は生まれないだろうか。ケティのような子は生まれないだろうか。
ヨアートは、ケティを、ダナイを助ける為、必死だった。
そんな彼等を、生み出さずにすむだろうか。
悩んで、ディーンは外へ月を見に行く。
その時、エルガリーゼが同じく月を眺めていた。

「どうしたんだ、エルガリーゼ」
「同じ藩でしょう?エルガでいいわ。ちょっとね。悩んでたの。二十歳の時に女の子が生まれたきりで、一人も生まれないから。私、もう子供生めないのかな……」

そこでディーンは、ハヤトの授業を思い出した。子供を作るタイミングの計り方と、体温計、妊娠検査薬を部屋から取ってきて渡す。

「それ、将来奥さんが出来たら使いなさいって言ってた大事な奴だから、子供が出来たら返してくれよな」
「ディーン!……いいの?」
「いいんだよ。俺の師匠だって同じ事してたと思う」

 そうだ。ディーンは思う。ハヤト師匠は優しい。きっと、ハヤト師匠には考えがあるんだ。
 ハヤト師匠を信じよう。
 今は、術具学に専念すればいいのだ。
二週間後、ハヤトから電話が来た。
 ディーンは緊張しながら電話に出る。

『ディーン、頼みがある』
『師匠……ものによる、けど。何だ?』
『丈夫な草は無いかね。雑草でもいい。それと、植物の成長を促進する術具を。凍った何も無い場所を緑の地にしたいのだ。どうだ、面白そうだろう。理論はこっちに送ってくれ。改良できるかどうかやってみるから』
『ああ、それならいいぜ!』

 ディーンは、ほっとして言う。

『世界征服の手伝いをしろとでも言われると思ったか?』

 笑いを含んだハヤトの声に、ディーンは硬直する。

『ディーンと風太の笑顔がある限り、わしにそんな事は出来んよ』
『そっか…ありがとう、ハヤト師匠』

 ディーンは安心して、ザイルの所まで赴いた。
 少なくとも、そんな大仕事をしている間は世界征服の準備など進まないだろう。
 ディーンは翌日、急いでザイルの所に向かった。
ディーンにせっつかれて、ザイルは考える。

「悪環境でも育つ草か……。雑草でもいいのかね?」
「植物なら何でもいいそうです。魔物はちょっとやめた方がいいだろうけど」
「そういう事なら、トリスがディーンに貰ったサツマイモを改良して、何処にでもなるようにしたそうだがどうだろうか。味は大分落ちたそうだが…。成長促進の術を掛ければ生えられない所は無いだろう。植物の成長を促進させる術を術具に込めるのは簡単だ。用意しよう。特別だが、理論の方もハヤト博士に送る事にする」

 そうして理論と植物は送られ、改良されて帰ってきたのは6ヵ月後だった。
 それはザイルを驚かせることになる。
 そしてディーンは、ザイルと会話を終えた直後、ディーンは子供が出来ない貴婦人たちの集団に連れて行かれることになる。

しおり