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ぼっち、弟子をとらされる

 少なくとも、移動呪文は覚えた。
 オークション広場は全ての街にあるし、クーデルムでちょこちょこ食料を買って商業システムを利用して売ればそれなりにお金になるのではなかろうか。
 実際にためしてみると、食料品は面白いように売れた。
 といっても、あまり高い値段設定はしない。飢えるのは辛いから、そこに付け込みたくはなかった。
 それに、お店の人にもあまり買うと物価が上がってしまうと釘を差されたし。
 当座の資金を稼いだ私は、異世界の料理法の模索など、日常の建設を急いだ。
 弱い装備品も、作っては売っている。
 城壁のある街の中はある程度安全という事もわかったので、神崎彩海で活動することも増えた。それに、神崎彩海を出さねばならない理由があった。カザはそろそろCクラス。
 Cクラスから、徒弟を必ず付けなくてはならないのである……。
 予め書いたカザの推薦状を持ち、神崎彩海は商人ギルドへと向かった。

「あの、私はカンザキと言います。商人ギルド加入希望で、徒弟制度を使いたいのですが。カザの徒弟にして下さい」
「かしこまりました」

 私はホッとして、一旦商人ギルドから出て、カザになって商人ギルドへと入り直した。

「徒弟の登録をしたいのですが……」
「カザ様、お待ちしておりました。現在、四名の徒弟が登録されています」
「四名!? あ、いや。断ればいいだけか。カンザキだけお願いします」

 受付の女性は困った顔をして告げる。

「そのような事はできません。徒弟制度は義務ですから、最初に入った三名はどうあってもカザ様の方で育てて頂きます。最大何名徒弟を持とうとカザ様の自由ですが、希望があった以上、Cランクの方は三名までは義務で育てて頂きます。先着順です」
「そんな……。生活費とかも全部師匠持ちですよね。一人と三人じゃ負担が全然違いますよ」
「申し訳ありませんが、義務ですので……。ただ、期間中弟子の稼いだお金も師匠のものになりますので……期間も最低義務年数は一年ですから、気に入らない弟子は契約年数を更新しなければいいのですし」
「その場合、また一人雇わないといけないんですよね。一人で旅をしたい場合とか、どうなんですか。商人はそういった事は出来ないのですか」

 驚愕して私は問う。

「徒弟制度中にCランクに育てた弟子がいた場合、その弟子に依頼で委託することは可能です」
「そんな……有望な子がいなかったらどうするんですか」
「ですから皆さん、たいていは自分で弟子を連れていらっしゃいますよ。カンザキさんというカザさん推薦の子がいるんですよね。その子に覚えさせればいいじゃないですか」

 目の前が真っ暗になる。
 三人……。嫌だなぁ。

「……どんな人が来るんですか」

 どんよりとした様子で聞く。

「えっとですね。冒険者ギルドの子達です。護衛にも使えますよっ スキルアップのためによく他ギルドの人達が来るんですよ。もちろん、二番目以降に入るギルドは副業ギルドとなり、……ちょっと、弟子を任せるのは無理になっちゃいますが……」

 説明を聞いて、私は絶望した。
 最悪だ……。副業ギルドというのは、言ってしまえば他ギルドへの留学という事にすぎない。例えば冒険者ギルドなら、商業ギルドで基礎を学び、冒険者ギルドで商業ギルドとは違う特殊な帳簿付けの仕方を学び、税金等も冒険者ギルドを通して払う。要するに、専門家の所に勉強に来る留学生といったところだ。
 当然、本職の商人の弟子を預かる資格は発生しない、ということらしい。
 
「将来有望そうでちゃんと人を育ててくれそうな性格の徒弟希望の子っていますか……」
「うーん、そういう子は大抵師匠を予め決めて来ますし、失礼ながらちゃんとした所の子はAランクの商人の弟子に回すので……」
「ですよね……」
「あっあのっ俺、真面目に頑張ります! 弟子にして下さい!」
「良ければ、私が弟子になりましょうか?」

 私の足に縋ったのは、ボロボロの服の獣人の男の子。年は10歳ほどか。
 私に問うたのは、服は普通だがやけに身奇麗なエルフの男の子。こちらは12歳ほどに見える。
 私はしばし考え、頷いた。

「この二人を徒弟とします」
「そこの獣人の子は、商人ギルドの加入料も師匠負担となってしまいますが……」
「弟子を引き受けてくれるならなんでもいい。ただ、これ以上の徒弟は受け入れない」
「かしこまりました。では、登録いたします」
「お願いします」

 私は六金貨支払い、二人の登録手続きをして、受付で何種類か帳簿を買って近くの店に向かった。適当に三人分頼む。

「まずは、自己紹介からいいかな。私はカザ。それと、カンザキって姉がいる。名目上は弟子だけど、私に対するのと同じ態度をとるように」
「カザ師匠。私は、ベルンツハイムです。修行の為、しきたりに従い、この始まりの街クーデルムに参りました。今は目的を言えませんが、夢を叶える為、手始めに大商人になりたいと思っています」
「俺はガウル。俺、孤児で……。家をふっこーしたい。俺の血筋は、昔偉かったんだって。でも、それにはとうちゃんみたいな傭兵じゃ駄目なんだ。だから、その為ならなんでもする」

 その言葉に、ベルンツハイムはビクリした顔でガウルを見る。
 私はコクリと頷いた。
 
「帳簿は付けられる? 字と数字は書ける?」
「はい」
「うんっ」

 そこで、私はお小遣い帳と金貨一枚分のお金を渡す。

「今から、使うお金は全部そこから出すこと。それで、欠かさずお小遣い帳に書くこと。期間は一年。まずそこからね。他の徒弟と合流するのは三日後らしいから、まず教会で祝福受けようか」
「は、はい」
「うんっ」

 そして、二人の子供を連れて教会へ行く。教会は、儀式を受けて冒険者になるところだ。オープニングで見たことがある。
 教会でお金を払い、二人が禊をして、祝福を受け、初心者の装備に変わる。
 それを見ながら、私は考えた。まだ良く知らない子達を「箱庭」に呼ぶなんて絶対に嫌だ。
 かといって、あれぐらいの子供達を一人で宿に泊まらせるのもいかがなものか。常に6人もの人間が泊まれる宿が用意できるとも思わない。
 となると、ギルドキャッスルか……。とんだ出費である。
 もちろん、最下級の、何の設備もない、10人くらいの設備のギルドキャッスルにするつもりだが……。
 それでも10Kゴルドは掛かるのだ。ちなみにKとはキロ、すなわち1000の略である。
 これはこの世界での今までの稼ぎを軽く凌駕する量である。
 更に、これプラス素材である。
 やれやれとため息を付いて、システムウィンドウを開いてギルドキャッスルをデザインする。
 最小のギルドキャッスルの敷地に、最小の部屋数のそこそこ可愛い屋敷を作る。
 デザイン以外はほぼデフォルトだ。
 後は、出現させた紙にギルドマスターと二人分のサブギルドマスターの名前を書けば終わり。

「じゃあ、街の外に行こうか」

 二人を手招きして、町の外まで行く。

「二人共、ここにサインして」
「……これ、古代語の魔法の契約書では?」

 ベルンツハイムが初めて警戒した瞳を見せた。

「私もサインするよ。大したものじゃない。これがないと、始まらない」

 ベルンツハイムはじっと契約書を見る。ガウルも見つめた。

「ギルド……キャッスル……建設……主……?」
「奴隷とか従えとかそういう単語はないな」

 ガウルの言葉に、ベルンツハイムは驚く。

「っていうか、ギルドキャッスル建設に承諾しますかって一文だけなんだから、そんな怖いこと書くスペース無いよ」

 私が言うと、二人は恐る恐るサインする。
 三人のサインが終わると、契約書は消えて私の手に八個、そしてベルンツハイムとガウルの手に一個ずつ鍵が降りてきた。
 
「じゃあ、鍵をこうカチャってやってドアをあけるように引いてみて」

 すると、私の目の前にドアの形に空間が切り取られ、ギルドキャッスル……というのもおこがましい、小さな一階建て屋上付きの屋敷が現れる。
 ちなみに、食堂一つ、浴室二つ、小部屋は十、それとは別にギルマスとサブマスの合同執務室が一つにそれぞれの個室が別に三つ。計17部屋である。
 私は呆然とする二人を尻目に、容赦なく扉を閉めた。
 さて、屋敷の私の部屋を整えよう。

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