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ぼっち、商人となる。

 VRMMOとMMOの違いは、リアルである事の他に、当人に戦闘のスキルが有るかどうか問われる事があげられる。
 逆に言えば、それ以外は普通のMMOと同じである。
 すなわち、それを極めるためには、膨大な知識、時間、執念、センス、頭脳、そして仲間が必要であるのだ。
 神崎彩海は、そのどれも持たなかった。
 神崎彩海がいくつもあるVRMMOから「それ」を選んだのは、ひたすらリアルで、ひたすら日常に近い毎日を送ることができるからである。PVPもシステムそのものがなく、初心者に優しかったのも理由の一つだ。
 日常を送りたいだけとはいえ、神崎彩海は全く努力をしなかったわけではない。
 モンスターの絵を描き、その特製や攻略法を書き記していく作業は神崎彩海がとても好んだ作業だ。
 唯一つ神崎彩海にカンストプレイヤーにあるまじき事がある。神崎彩海は、NPCを所持していない。それほどまでに、神崎彩海は基本的に人というものが苦手であった。
 そんな神崎彩海が、異世界へ……いや、ゲームの世界へ来てしまった事を知ったのは、幸いにも家の中であった。
 ログアウトボタンを押した途端、神崎彩海の背が小さくなり、胸が膨らみ、現実世界の体と服に戻ったのだ。

「え……?」

 神崎彩海は、眼を瞬いた。

「あ。え。えと……」

 神崎彩海は、服を、腕を、足を触れ、周囲を見回す。
 そして、目の前のステータスウィンドウに目を戻す。
 ステータスウィンドウのほぼ全てが空欄となり、残されたのは一つだった。
 すなわち、ログインボタン。
 恐る恐る、それに触れる。
 5つあるキャラ欄からただ一人作ったキャラを選択。
すると、彼女はゲームのキャラ、黒髪の美男子「カザ」に変わっていた。

「どういう……?」

そして、カザは外に出る。
そのVRMMOの家は箱庭形式であり、いつでも家に行く事ができる。
 出る時は、入った時と同じ場所。
 それか、移動呪文を使うしか無い。
 移動呪文を試してみて、カザは戸惑った。

「……移動呪文が、使えない……」

 戸惑ったカザは、外に出てみた。
 カザは確か、最後から三番目の街、ウルグルムの近くの森で箱庭へと移動したはずだ。
 カザは呆然と街を見た。
 そこにあったのは、純然たる廃墟だった。
 壊れた城壁からは、モンスターが自由に闊歩しており、城門は開け放たれている。
 不安に駆られたカザは走った。
 人のいる街を探そうと思ったのである。
 立ちふさがる魔物は切った。魔物を断ち切る感触に怯むが、一刀両断された魔物は消え失せて素材となった。その事に深く安堵する。これはゲームと変わらない。
 カザは、全方位平等に、全ステータス平等に上げたキャラクターだ。それゆえ、カザは最弱である。しかし、カンストされたレベルと課金アイテムを駆使した強力な武器が、この辺りの雑魚敵は一撃で葬ってくれる。
――バンドルム。
 ――ガーデルム。
 まさか、人類滅びたんじゃないよね。
 カザは廃墟を発見する度、焦燥に支配される。
 ――ルンデルム。
 中級レベルの街、ルンデルムのあったと思しき場所で、始めて大きな要塞を発見する。
 しかし、その警戒は明らかに強いものだった。
 兵士達が厳しい目で周囲を警戒している。
 森の木々に隠れ、大きく迂回して、更に進む。
 更に奥に行くと、見覚えのない街、村、要塞があった。
 カザはゲームの遙か未来に来たのだと悟らざるを得なかった。
 ……こうなれば、とことん遡ってやろう。
 カザは心に決めて、街の位置を確認していく。途中で乗り物「疾トカゲ」に乗った。
 移動魔法には、中にはいったウルグルム、バンデルム、ガーデルムのデータしか入っていなかった。
 当然、途中の街にも入りたかったが、どうやら検閲が行われているようだ。
 人々の様子も見る。
 装備に見た事のないものが多い。だが、総じて弱そうだ。
 一ヶ月かけて、時折「箱庭」に戻って体を休めながら、初めの街まで移動した。
 その頃には、どうしても時折「ログアウト」して休まないと体が疲弊する事に気づいていた。「ログイン」自体がチート能力というやつなのだろうか?
 トカゲから降りて、初めの街クーデルムまで近づく。大きな街がいくつもあったので、判別に苦労した。
 初めの街クーデルムは大きかった。活気もある。魔物を倒している人も数多くいた。その多くは子供だ。
 そして、唯一検問がなかった。
 カザは一つ息を呑むと、進む。
 カザ……神崎彩海は、人嫌いだ。けれど、人との関わりなしに生きていけると思っているほど馬鹿ではない。
 一ヶ月の旅で、食料アイテムが減っている。
 補充せねばならなかった。
 城壁の外には大きな畑が広がっており、食料は潤沢なようだ。
 外を見ていて一番多い服装、すなわち初期装備をしてカザは街へと入った。
 クーデルムは非常に雑然としており、雑多で初歩的な売り物が非常に多かった。
 このあたりは、薬草が取れ、兎肉が取れ、木材が取れ、鉱山もある。
 その上魔物も弱いのでは、栄えるのも当たり前なのかもしれない。
 言葉が通じることに安堵しながら、品を見て歩く。
 正直、心を惹かれるものが多い。貨幣が変わっているようなので、どうにか手に入れる方法を考えねばならないが。
 アイテムボックスがあるかわからない為、兎の皮をカバンに入れる。
 言葉は異国の言葉だが、翻訳装置を作動させる事で何とかなった。日本語の残滓がそこかしこにあった。
 文字は独自のものになっているようだったが、これもゲーム内の翻訳装置で事足りた。
 ギルドに行くと驚かれた。ついで、失笑。理由はわからなかった。
 
「……買取をお願いしたいのですが」
「ああ、どうぞ」

 渡された貨幣を貰い、そそくさとギルドを出る。
 さっさと買い物をして帰ろう。
 食料品を重点的に買っていく。
 
「にーちゃん、その年でまだ装備買い換えられないのかよ!」

 子供達のからかいの声。カザは顔を伏せて、さっさと買い物を済ませた。
 装備品、変えないと。
 「箱庭」に戻って、服を変える。普段着にちかいものだが、守備力はそこそこ高い。
 クーデルグでは、手に入る物が少ない。何か、身分証明になるものを手に入れねばならないだろう。
 冒険者ギルドは嫌だな。
 商業ギルドはどうだろう。
 商業ギルドに向かい、商人をしたい旨を話す。
 親切に資料室を示され、それを読んだ。入場料は銀貨一枚。商人の掟等が丁寧にわかりやすく書かれていた。特に、帳簿の書き方のルール。それは商業システムのおまけの帳簿システムと酷似しており、カザは深く安堵した。
 お金は掛かったけど、敬意を払った話し方が嬉しかった。こちらで良かったと安堵する。
 その資料の中に、商業ギルドでいつでも求めている品の一覧があり、そこにゲーム内通貨であるゴルドと課金通貨であるドルエンがあった。
天界の通貨、とか言うらしい。
 そういえば、ドルエンだけでなく、ゴルドでも色々と買えるものはあるのだ。
 逆説的に言えば、もうドルエンが手に入ることはないだろうし、手に入れるのも難しいだろう。ゴルドについては、システムウィンドウを見る。大丈夫。システムクエストはまだ残っている。ただ、恐らくNPCから依頼される形式のクエストは残っていない。残っていたら、ゴルドなんていくらでも手に入るはずだからだ。
 冒険者になる制度は今でもあり、教会で冒険者になる宣誓をした後、神から唯一贈られる物が初心者の装備だそうだ。それまで着ていた服は無くなってしまうのだという。
 ……システムウィンドウの使い方、一部の人が一部の機能を知るだけなのかな?
 冒険スタート時、初期アイテムはそれだけではないのだ。ゴルドから各種ポーションから、ひと通りあったはずである。レベル開放性で、十レベルまではレベルが上がるごとに色々手に入る。希少ということは、アイテムウィンドウに気づいていない可能性がある。
 というのも、私がゲームを始めた当初も、アイテムウィンドウの出し方がわからなかったからだ。あれ、でも素材はアイテムウィンドウに自動的に格納されるはずなのだが……。
 かと言って、ゴルドを集めるからには、システムウィンドウの売買システムを使っているはずだ。
 しばし考えてから、ゴルドを一枚手にとって悩む。
 希少性は文句なくあるだろう。だが、1ゴルドで買い物できる物と言えば、ごく普通の矢が一本ぐらいである。
 すごい珍しい一円玉がいくらで売れますか、と言う事である。
 これは高いか安いか。それが問題だ。どうあっても高くならない気がする。
 しばし考えた後、私はそれを持ってギルドに向かった。

「あの、新しく商売を始めたいのですが。まず両替をお願いします」
「かしこまりました」

 私はすっと100ゴルド差し出した。
 受付の人の目がまん丸になった。

「これを両替して下さい。貨幣は一揃いあると嬉しいです。特に小銭は多めに」
「は、はいっ」

 結論。百ゴルドは二百金貨になって帰ってきました。二百円が二百万円ぐらいだろうか?
 まあ、あくまでゲーム内の物価だから、一ゴルドが一円とは言わないけれども。
なんか申し訳ない……。
 商売を始めるにあたって、徒弟制度を使用するかと聞かれ、きっぱりと断る。
私は二百金貨をしっかりとカバンに入れ、商売の手続きをした。資本金は百金貨とした。
 親切にも帳簿をもらい、それにしっかりと資金を記述する。
 それと同時に、商売システムの資金欄に百金貨入れる。入るかな、と思ったけどちゃんと入った。そればかりか、値段設定で現地のお金も設定できるようになってる。
 その他に今まで作り貯めていた装備品の商品をいくらか入れ、仕入れと値段を適当に設定する。更に、諸費用として、手続き代五金貨を資金から引く。二金貨はチップとした。
 更に、少し悩んで売買チェックボックスにチェックを入れた。
 これで、システムの売買ウィンドウに品物が表示されたはずだ。
 プレイヤー商品は私の出す一つしかないから目立つけど、匿名で出せるから大丈夫だろう。人嫌いな私が、自分で直接売り買いするなどありえない。
 これで、人と接するのは物を買う時だけで済むだろう。
 証明書があるからどこへでもいけるし。
 ただ、定期的に帳簿を持って商業ギルドに行くか検問所で提示して、税金を収めないとならないのだが、これは許容範囲だ。
 見事証明書を手に入れた私は、店を回って満足するほど買い物した。その途中で、役所がオークション広場を覆っているのを見て納得した。
 そういえば、システムウィンドウを使わずとも、オークション広場に行けばシステムから買い物ができる。オークション広場には、実際に買い物しているような雰囲気が簡単に楽しめる様々なシステムが用意してある。
 そこが騒がしくなっていたのは、十中八九私の出したアイテムだろう。
なんとなく足早にその場を離れると、次の街まで向かった。
 町の外に出てから箱庭で一泊し、騎乗した私は一足飛びにルンデルムへと向かう。
 やはり、少しでも先の街の方が良い物が手に入るだろうという考えからだ。
 ルンデルムに入る直前、装備品が全て売れているのを確認。商業システムの帳簿を実際の帳簿にそのまま書き写す。
 ルンデルムに仕入れに来たと伝え、証明書を見せて税金を払い、帳簿のこの部分まで税を収めたという印をもらう。
 ついでに、商人のランクがGから一気にEに上がった。
 これは一定の時期の商売の利潤や信頼度などによって上下するらしい。
 Cまでは完全な利潤で判断、そこから上は信頼度も加味していくそうだ。
 Eは一応商売人、と言った所。

「仕入れとは妙な事を言うな。ここ、ルンデルムではいつでも物資が不足しているというのに」

 私は思わず顔を伏せた。私はいつも失敗ばかりだ。
 
「どうせ来るのなら、食料品を持ってきてくれればいいものを」

 検問の兵士はため息をつく。
 ……そんなに食料品が不足しているのだろうか。
 街に入ると、全体的にピリピリしており、品物の数も少ない。
 失敗したなぁ。

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