Episode 04 〜優越感と劣等感〜
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目覚ましを止めて学校に行く支度をする。今まで学校はつまらなかったけど今日は結構ワクワクしてる。そりゃそうだ。喋ったことなどないとはいえ同級生が一人死んだのだ。わくわくしないほうがどうかしてる。テレビをつけるとうちの学校が映っていた。
「ちょっと、これ菜々の学校じゃない?あの自殺した子のことよ。お母さんもなんか他のお母さんにいろいろ聞くけど可哀想ね。」
「まあね。」
もう他のお母さんと仲良くなったのか。
「ちょっと菜々!まあねって何?」
「お母さんテレビ聞こえない。」
「んもう。」
テレビのリポーターは色々な勝手な憶測を繰り広げていた。分かる人には分かる、というミステリーっぽい書き方が良いのだろう。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
「はーい。」
うちは他の子に比べて母親と仲がいい方だ。でもたまにうざいと感じることがある。そしてそれを反抗期だの一言で片付けられてしまうところが気に障るが、そういうふうに考えることがそれこそ反抗期だと言われてしまうので言わないようにしている。
学校につくと用意しておいた文庫本を取り出し読んだ。ミステリーだ。
自殺と警察が判断したが探偵は他殺だと言って捜査する、ありがちな設定だが今の私には特別だ。何か得られるものがないかとこの手の話を探しては読んでいる。可奈が教室に入ってきた。みんなにおはよーと言い、自分の席についた。そして、私のことを軽く睨んだ、気がした。
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もやもやしたものが残ったまま学校に行くことになった。仲の良い友達が自殺したのでお母さんは朝から私に質問攻めだった。それらしいことを言って質問を交わして学校に行くと桜咲がすました顔で本を読んでいた。私の好きな小説家だった。しかもあの本の中の被害者は自殺に見せかけた他殺だった。本当に単純な脳だ。せめてブックカバーをつけて読めばいいのに。明里たちは桜咲をチラチラ見ながら不謹慎だとかなんとか言っている。ま、私には関係ないけど。そんなことより杉原だ。
「桜崎さん?先生が呼んでたよ。職員室まで連れて来いって言われたからちょっと来てー」
「分かった。」
桜咲を廊下までよびだして言った。
「あのさ、昨日のことなんだけど。」
「先生は呼んでないわけね。」
「うん、まあね。」
「昨日のことなら誰にも言ってないよ。」
「わかってる。そのことじゃないの。昨日の夜駅の前のコンビニでさ、杉原と一緒に歩いてたでしょ。」
「え?なんで知ってんの?」
「やっぱり... どういう関係なの?」
「そんなこと可奈には関係ないでしょ。」
彼女への嫌悪感が募っていく。
「可奈って呼ばないで!」
一瞬驚いて目を見開いたがすぐに言い返してきた。
「あんたが自分でそう呼んでいいって昨日言ったんでしょ。」
「でも学校ではやめてって言ったじゃん。」
「あーはいはい。っていうかなんでそんなムキになってんの?あんたさ、海人のこと好きなんでしょ。それでヤキモチ妬いてんでしょ。単純だね〜。」
頭に来るが、図星なので何も言えなかった。
「あ、今日時間あるー?」
今日は何もない。でもこんな奴と放課後一緒にいる気にはなれなかった。
「沙織たちと遊ぶ約束してるから。ぼっちのあんたと違ってね。」
「別に自分で望んで一人でいるんだからいいでしょ。」
「悪いとは言ってない。ただ可哀想だな〜と思ってるだけ。」
「私から見ればソッチのほうが可哀想だよ。」
「っていうか今日私と何したかったの?」
「雪乃さんのことについてちょっと面白いこと聞いちゃったから。」
「何?」
「あなたはあの素晴らしいお友達と遊ぶんでしょ?何すんのか知らないけどどうせくだんないんでしょ。」
「まああんたに言わせれば多分くだらないよ。ゲーセン行ってプリクラとって新しく出来たケーキ屋でも行くんじゃない?あ、でもカラオケのクーポンあるからカラオケいくかも。」
「まあそっちを優先するならそれでも良いけど。」
「今日じゃなきゃ駄目なの?」
「明日でも良いよ。じゃあ明日駅前のコンビニでね。」
半ば強引に約束を取り付けられてしまった。わざわざ昨日杉原と一緒に歩いていたところにするなんて正直うざいけど雪乃についての情報を聞き逃すわけにはいかない。
「あ、可奈ー!遅かったね〜。」
「うん、ごめんごめん。職員室からの帰りの道まで案内してたからー。」
あいつと一緒に教室に入ってきてしまったため一応言っておく。
「そっか〜。大変だね〜。あんな愛想悪い可哀想なやつの案内なんて。」
「うん、まあね。それよりさ、今日カラオケのクーポンあるよ!行かない?」
「行く!いくいくいくいく!」
桜崎が一瞬私の方を見た。もともと約束なんてなかったことに驚いているのだろう。少しいい気味だった。
杉原は他のクラスの男子と喋っている。すると突然こっちを向いて目があってしまった。私は焦ったが、彼はニコリと笑ってまた喋り始めた。
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まさか可奈が海人のことが好きだったとは。てっきりそういう色恋沙汰とは疎いと思っていたが意外と普通の女の子だった。
なんだか微笑ましい。海人がモテると言うのは直感的に分かった。
だからこそ彼が私を選んでくれた時はとっても嬉しかったのだ。
転校初日の放課後雨が降っていた。傘は持ってきていなかったので昇降口で途方にくれていると彼が来たのだ。
「えっと、桜咲さん?傘ないの?」
恥ずかしいところを見られたと思ったがないと伝えると彼はじゃあ俺の傘使う?と言ってくれたのだ。
「でも、そしたら濡れちゃうよ?えっと...」
「杉原だよ。じゃあ、一緒に入る?」
「え、いいの?」
「うん、桜咲さんが嫌じゃなければ僕は全然いいよ。」
こんな簡単に相合傘させてくれるイケメンはなかなかいないだろう。顔もイケメンだが性格もイケメンだとは。
結局二人で相合傘した。家の方向は同じだったので私たちはずっと喋った。海人といるとすごく楽しかった。
「じゃあ、ここで。また明日ね!」
「うん、ありがと。」
「あの、さ、」
「ん?なに?」
「明日も一緒に帰らない?あんまり帰宅部のやついなくて。」
「わかった!」
「オッケ!じゃあね!」
そしてそれから今日に至るまでずっと二人で歩いて帰っている。彼は自分で俺のことは海人でいいよって言ってくれたからそういうふうに呼んでいる。可奈に目撃された日はたまたま時間があったのでコンビニに寄ってお菓子を買って公園で二人で食べただけだ。なんだか小学生みたいだった。コンビニでお菓子を買って公園でゆっくり食べるなんてきっと小学生以来だ。それだけなのにこんなに楽しかったのは初めてかもしれない。私たちは出会って一週間で付き合い始めた。早いとは思う。でも別に待つ意味もないし私は彼を運命の人だとすら思っている。可奈の好きな人の好きな人なんて優越感が半端ない。私は凄くいい気分で眠りについた。
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カラオケで私はいつも以上に歌った。明里と沙織といるとやっぱりそこそこ楽しい。ストレス発散だった。
「あ、ねえねえそういえばさ、」
ここ一週間オリコンチャート一位を記録している歌を歌い終わると私は我慢できなくなって吐き出した。
「昨日あの愛想悪い転入生が杉原と一緒に歩いてたんだよね。コンビニの前でなんかイチャイチャしてたんだけどさマジキモかったわ。」
「マジで?ないわー。杉原ってああいう女が好きなんだー。やっば。」
沙織はなぜかすごい嬉しそうに言った。沙織は何か新しい学校のゴシップ情報を手に入れるといっつも嬉しそうにする。
「ねー。マジで何なの。男好きかよ。ふざけんなー。」
明里も乗ってきた。でも明里は沙織と違って本当に怒っているようだった。顔は笑っているが声が笑っていない。明里は自分が男好きのくせに男好きの女子が嫌いだ。同族嫌悪みたいなものなのだろうか。
「女の友達すらまともにできてない癖に何男に媚び売ってんの?ッて感じだね」
「そうそう。うけるよねー」
「うん。ま、とりあえず歌おうよ!」
その日は全く勉強しなかったが全く不安にもならなかったし焦りもしなかった。転入生のもやもやも少し減った気がする。俗に大人が言う質のいい友達家と言われれば違うだろう。ふたりとも成績も口も悪いし、先生にも気に入られてはいないけど、でも、子供の価値観と大人の価値観なんて結局違うのだ。桜咲菜々は自分が周りより大人だと思って背伸びをして目線を大人に合わせたから一人でいるという馬鹿な結論にたどり着いたのだろう。つくづくくだらないと思う。彼女からしたら私のほうがお子様なのだろうが、実際はどうだろう。