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宴会

「ザイル。私は少し疲れました。この後の事は任せます」
「はい!?」
「俺やセラが魔術学校をうろついてたら何が起こったかと思われるだろう。後で交渉の時になったらまた来よう。それと、チョコレートの事は他言無用だぞ。ハヤト殿の招待については、術具の功績を称えてザイル殿が招待した事になっている」
「そういう事です。後はよろしく」

 二人は人目を避けるようにさっさと出て行ってしまう。

「おお、凄いな…。ここは、誰かの仕事場かな?おや、手品の道具が。こっちは何かな?」

 ハヤトは早速研究室を見回し、実験器具等を調べていく。
風太もハヤトについて回って興味深げに見回し、ディーンが楽しそうに説明を始めた。
タケルはそれには興味がないらしく、ディーンや風太がはしゃぐ姿を優しげに見守る。
タケルは武術の師匠だそうだから、こういった事には興味が無いのだろう。
ディーンに術具の説明を乞われて、ザイルも術具をしまった棚に向かう。
魔力に関しての話は当然通じなかったが、それ以外の仕掛けの部分については話が弾んだ。
時々何か言いかけてやめる動作が気になったが、訳語が見つからないとの事だった。
意思の疎通が完全に出来れば、もっと話が進んだかもしれないのに。
通訳の術は確かにあるにはあるが、あまりにも高度でザイルの手に負えるものではなかった。
二時間もたった頃だろうか。数人の魔術師が突然杖を構えて研究室に入り込んでくる。
その中にはミグも混じっている。

「ザイル先生、早くこちらへ!」

 ミグが言う。1人の魔術師が風太に杖を構え、カマイタチを放つ呪文を唱え始めた。
不穏な空気を感じ、タケルとハヤトが瞬時に風太を庇う。
タケルが刀を抜き、ディーンが風太を背後に庇って魔術師達に向かっていった。

「なにするんだよ!危ないだろ!」

 ディーンが杖を奪おうとするが、魔術師はそれを振り払う。
ディーンが弾き飛ばされるかと思ったが、倒れていたのは魔術師だった。
ディーンの手にはその魔術師の持っていた杖がある。

「お前、妖魔を庇うのか!」

 倒された魔術師が叫ぶ。ザイルは今更事態に気づいて、叫んだ。

「その妖魔は危険は無い!私が招待したんだ」
「招待!?使役はされてないようですが…」

 魔術師の1人が風太に眼を凝らしながら言う。

「風太は俺の兄弟子だ!」

ディーンがなおも言い募ると、ミグが私に詰め寄った。

「どういうことですか、ザイル先生!!」











「あははははは!!タネを教えられても魔術じゃないと気づかない弟子に、羽が生えても妖魔と気づかない師匠!!あははははは!!」

ミグが笑い転げる。他の研究室の面々は、しかめっ面をしている。
ミグを注意しようとも思ったが、今回、悪いのは明らかにザイルだし、中にザイルがいるかもしれないからと、危険を冒して警備の魔術師についてきた事を考えると、何も言えなくなる。
ザイルは、タケルとハヤトに、失礼な生徒ですみませんと謝った。
 どうやら、研究室から妖魔の気配がしたとかで、緊急警報が出されていたらしい。
妖魔が来る事を言わなかったとかで、警備の者に物凄く怒られた。
研究室の面々にも思い切り迷惑をかけたので、謝り倒す。
すぐに厳密なチェックが行われ、どうやら安全らしいと確認した頃には日が暮れていた。
フェィクキッズの突然変異と言うことでまず召喚術の教師が調べさせろと乗り込んできて、それから術の体系を研究している魔術師が風太を祝福した神を教えろを言ってきたのだ。
ハヤトは祝福の事を知らないらしく、長い説明でようやくそれらしいものを思い出してくれた。
七五三とかいう儀式の時と年末年始に神殿に行って祝福を受けてきたらしい。
そもそも惰性の習慣でいっただけのようで、神って本当にいるんだと興奮していたのが印象的だった。
ただし、その神殿はなぜか紹介するわけにはいかないらしく、ハヤトは替わりにお守りを渡す。
小さい袋に入ったそれは確かに加護があるもので、魔術師は喜んで帰っていく。
この頃には若干空気が和んできていたが、やはり使役もされていない妖魔というのは怖いらしい。
風太の周りには微妙に空間が開き、自然部屋も皆とは離れた所に決まる。
責任持ってザイルたちの面倒を見る事を約束し、解散した後ザイルは風太に言った。

「少し不便ですまないが…私も隣に泊まるから、何かあったら言って欲しい」
「えー。1人部屋?わし、ディーンと風太と同じ部屋が…がふぅっ」

 タケルはハヤトを殴り、部屋を用意してくれた事に礼を言う。

「食堂は使えないけど、料理持ってきてあげたわよ」

 ミグが持ってきてくれた料理に、ザイルは相好を崩す。お客が来るからと食堂のものが気をつかったらしく、
食事は豪勢だった。

「ディーン。水場はどこかね。米をとがないと」
「こっちです師匠」

 そそくさと移動するハヤトの首根っこを、タケルが掴んだ。

「せっかく用意してくれたのだから、頂きましょう」
「タケルが1人で食べてくれ。ディーンの料理事件を忘れたのかタケルは」

 ハヤトがきっぱりと言う。ディーンが慌ててフォローした。

「タケル師匠、許してあげてください。風太もハヤトもパンすら食べられないんですから。タケル師匠も、無理をしないで」

 タケルはため息をついて、ハヤトの襟を放した。

「仕方ありませんね…。ハヤト、私にもおにぎり一つ」
「パンが食べられないって…それじゃ食事が出来ないじゃないか」

 ザイルが驚くと、風太が説明した。

「師匠の国では、お米という穀物を食べるんです。少しいかがですか」

 興味を持ったので、ありがたく頂く事にする。
ハヤトが持ってきた奇妙な調理器具で作られたそれが、器に盛られる。
全く持って美味しそうではない。卵の山盛りみたいで食べる勇気が出ない。
向かい側を見ると、立場は違えどタケルも同じ心境らしく、出された料理を見て固まっていた。

「無理するなよ、タケル師匠、ザイル先生」
「食事はおいしく食べてこそ、ですよザイル先生」

 ディーンとミグが、両方の料理をつつきながら言った。
若者は順応が早いらしく、風太も恐る恐るミグの持ってきた料理を口にしている。
勇気を出してぱくっといくと、粒々の柔らかさがそれっぽい。
決してまずくは無かったが、火吹きトカゲの肉を口に頬張ってその辛さで感触を忘れる事にする。

『どうしてこっちの料理は嫌なサプライズが多いんですか!』

 タケルも、異国後で悲鳴をあげた後、涙目でコーラとかいうものを飲み干していた。
目の前のお皿からはカト虫のオムレツに一口分の穴が開いていた。それは私の好物だったが、ハヤトには私にとっての米程に強敵のようだった。今更ながらに、ハヤト達が異国の人間なんだと実感する。
隣ではディーンとミグが、あれが美味しいだのこれが苦手だの楽しげに話している。
ミグは米をいたく気に入ったようだ。
ハヤトは黙々と自分の持ってきた食料のみを食べていた。

「そうだディーン、明日、授業が終わったら皆の前でお師匠様と二人でテジナして欲しいって。明日の授業は免除って言ってたわよ」

 ミグが言うと、ハヤトはにこやかに答えた。

「おお、そういえば手品が流行っているのだったな。でもワシよりディーンの方がうまいぞ」
「でも、始めたのはハヤトさんなんでしょう?そんな派手じゃなくていいから、お願いします」
「師匠、テジナしてるとトリック知りたくて透視の術かけてくるのがいるけど、大丈夫だから心配するなよ」

 ミグが頼むと、ディーンがアドバイスする。最近は、透視の術にも随分なれてきたようだった。

「透視の術!?わしの可愛いディーの柔肌を透視だと!?許さん、断じて許さんぞ!!」

 途端に怒り出したハヤトに、タケルがスパンと小気味いい音を立ててハヤトの頭を叩く。

「どうしてそういう発想になるんですか!」
「透視って言っても、見えるんじゃなくて何があるか把握するだけだって。あ、じゃあ俺、そろそろ風呂に入ってくるな」

 ディーンが席を立つと、ハヤトも席を立った。この学院には専用の浴場があった。
ディーンは毎日風呂に入るのを欠かした事が無い。風呂は家で用意するにしろ、公共のものを利用するにしろ、凄まじい労力なり、経費なりが必要とされる。大量の水を汲み、沸かさないといけないのだから当然だ。
学院の浴場なら確かに無料で利用できるが、流石に毎日利用するのはディーンぐらいしかいない。
普通は風呂は時々で、後は体を拭くだけだった。
最近はディーンに影響されて、ザイルやラキやミグも頻繁に入るようになったが。
なにせ、ディーンは実験等で汚れたり、汗を掻いたりするとすぐに風呂に追い立てるのだ。

「ワシも~風太もおいで」

 ハヤトが風太を抱き上げると、タケルがその裾を掴む。

「待ちなさい。ハヤトは後で入ってください。一人で」
「嫌だ!家の風呂狭いんだから、ディーンと風太と一緒にお風呂に入れる機会を逃すかぁ!」
「危なくてディーン達と一緒にお風呂にいれられるかぁ!鼻血を拭けこの変態が!」

 嫌がるハヤト、カタナを持ち出すタケル。
そろそろ二人の喧嘩に慣れてきたザイルは、風太を救出するとミグと3人で後片付けを始めていた。



「ディーーーーー!がんばれーーーーーーーーー!!!」
「こんな大掛かりな手品、大丈夫なんでしょうか……」

 ディーンはハヤトに、苦笑いしながら手を振った。
ディーンは今回、術をかけた振りをするだけの役だった。
ディーンの後ろでは、道化師ミシェルが幾重にも鍵をかけられた箱に閉じ込められて水中に投げ入れられた後、脱出するという手品をしていた。
これは危険度が高く、手品師にかなりの技量がいるものだ。
当然ギャラリーも緊張し、かたずを飲んで見守る。
透視の術が水槽に張り付こうとするが、ディーンが体で止める。

「お客様、透視はご遠慮願います。叡智を誇る魔術師ならば、その頭脳で謎解きをお願いします」

 にやりと笑って丁寧にお辞儀するディーン。ディーンの挑発に、会場がざわめいた。

「かっこいいぞディーン!」
「トリックくらい暴いて見せるわー!」

 ディーンは、すっと杖を持った片手を挙げて、叫んだ。

「いちっにっうわっ!?結局魔術使うのかよ!」

 一際複雑になった透視の魔法陣が四方八方から水槽に襲い掛かる。
ディーンは何とか止めようとするが、流石に全部は止めきれない。
一部はディーンに止められ、一部は水槽の壁に阻まれるが、それでもいくつかは箱に張り付くことに成功する。

「その箱は既に無人だ!」
「何!?ミシェルはどこにいったのだ」

 勝ち誇った叫びのすぐ後に、ミシェルを探そうとする魔法陣が飛び交う。
それはディーンにも多数襲い掛かった。

「やめてくださいやめてくださいやめろってこわいって」

 ディーンが丸まっていると、ディーンの弟子達が端から出てくる。
魔法陣を掻い潜り、ディーンの弟子達が舞台の中央で箱を組み立てる。
弟子達が声をそろえて三つ数を数えると、その箱が四方に倒れて中からミシェルが出てきた。

「ミシェルに拍手を!」

 気を取り直したディーンが言うと、盛大な拍手と、ミシェルの場所を見破れなかったという野次に溢れる。



ハヤトが来るという事で、教師達は特別にディーンの弟子を招きいれ、手品のショーをやる事にしていた。
幸い外部にも解放している講堂があり、そこで一日かけて準備する。
始めはディーンのクラスの生徒と、興味のある教師達、それにハヤト達というメンバーでする予定だったが、
せっかくだからと道化の顧客や孤児院の子供達も来る事になり、集まってきた外部の者達に不思議に思った学院の者達が集まってきて、講堂は徐々に埋まって行った。その頃には手品をするという噂も広まっていて、最終的には講堂が全部埋まってしまったのだった。
手品だけでなく、道化も自分の固有の技を披露してくれて、ショーは大いに盛り上がった。
ナイフ投げ等の道化の洗練された技に加え、ミグの作った物を主とする悪戯用の魔術、あまりに大技なので練習でも滅多にしなかった秘蔵の手品。盛り上がらないはずはなかった。
ハヤトは大いに喜び、タケルも洗練された手品にため息をつく。
ディーンは風太が見当たらない事に気づき、首を傾げたが、今日の手品は気を抜いて成功できるものではなかった。
この学院で何かあるはずも無い。頭を振って心配を振り払い、シルクハットを振る。
中から出てきた鳩が、講堂の天井を一周した。

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