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第四十四話



 部屋を真っ白に染めるような、閃光が辺りに迸り広がっていく。



 「あ、あなたはっ……」

 随分と、高さの上がった視線。
 おれっちは僅かばかり、視線を下げてみて。



 「『おおいなるひかりのゆうしゃ』。略しておしゃ。……ちょっくら、魔王退治と洒落込みますかね?」


 おれっち……ヨース・オカリーは、ユーライジア式の騎士の礼を一つして。
 にこりと笑ってみせて……。






 ズキズキと全身を、頭を襲った痛みの原因。
 それは、ごしゅじんがおれっちに隠し事をしていると言う衝撃によるものだと思っていたけど。


 それは半分正しくて、半分は間違っていたらしい。
 その痛みは、おしゃがヨース・オカリーと等号で結ばれることを思い出そうとし、記憶の封印に抗っていたものだった。

 おれっちはおれっち自身で、ヨースであることを封じたのだ。
 それを知っていたのは、おれっちと妹ちゃんだけ。

 ごしゅじんは、おれっちがごしゅじんを庇い続けていたことへの罰として、おれっちが人間……人型に戻れなくなり、その記憶を忘れたのだ認識していることだろう。


 隠し事をし、騙していたのはおれっちの方なのだ。
 ズキズキと傷んだのは。まさしく罪悪感故で。

 それは、妹ちゃんとたくさん考えた上での、仕込み。
 全く、なんてひどい魔精霊なのだろう。

 自身に絶望し、膝を抱え込んだままあの格子のない牢屋に座ったままのごしゅじんを立ち上がらせるためとはいえ。
 本当に酷いと自分自身で思わずにはいられない。


 でも、戻ったからには、会いに行かなくては。
 大いなる光の勇者(笑)として名付けられたからには、おれっちには魔王と相対する義務と意味があるのだから。




 イレイズ国への移動と侵入で約一日かかってしまったが。

 勇者と成った……人に戻ったおれっちにとって、囚われし姫君を助け出すことなど造作もないことであった。
 むしろ、その足で魔王の元へ向かうくらいには、いっそ余裕があったことだろう。

 問題なのは、新たにこの大いなる光の勇者を愛する者たちを増やしてしまった、と言うところか。
 いや、うん。ごしゅじんに怒られるからその経過は割愛させてくれ給えよ。


 すまないね。
 この世に数多またたく星たちよ。

 おれっちが、さびしんぼうの月であるならば。
 我が愛すべき太陽と言う名の絶対無二の星はたった一つだけ。
 その桃源郷に抱かれ、息絶える場所は一つしかないのだ。

 その思いは、願いは、他の星では叶えられない。
 願いを叶えられるのは、ごしゅじんだけだから。
 ごしゅじんだけにしか、ティカだけにしか叶えられない奇跡なのだから。


 

 数多瞬く星を振り切って、四天王やら右腕やらを振り切って。

(いや、二人……ファイナちゃんもステアさんも素直に通してくれたけどね)


 辿り着くは夜闇の帳下りる魔王城。
 
 焼け焦げただれ、天井のなくなった玄関であった場所に、ごしゅじんは立っている。
 その長い艶やかな睫毛の映える瞼を閉じ、全身から恒星のごとき温かきオレンジの魔力を迸らせ、そこに佇んでいる。


 おそらく、ここであの幻の炎で作られた魔物たちを操っているのだろう。


 ―――【フレア・ミラージュ】。

 ごしゅじんの、ごしゅじんの属する一族の、得意魔法の一つ。
 触れても熱くない、だけど触ろうと思えば触れる、容量制限のない幻を作り出す魔法。

 人を傷つけてきた事をずっと後悔し、生きることすら見失いかけていたごしゅじんの、精一杯の前進。
 これだけでも、ろくでなしになった甲斐もあろうと言うもので。




 「おれっちは大いなる光の勇者、ヨース・オカリーっ!!」
 「……っ!?」


 朗々と声を上げれば、飛び上がりその翼で飛んで行ってしまいそうな勢いで言葉失い、こちらを見つめてくる愛しきごしゅじん。

 このなんとも言えぬ嗜虐心、病みつきになるな。
 矢張り魔王は、自分の心に住んでいるのかも知れぬ……なんつって。



 「魔王ティカよ! その命を頂戴するっ!!」
 
 その命を、そのすべてを。
 覚悟せよ! とばかりに駆け出し肉薄。
 手に持った光輝く剣を勢いよく振りかぶって……。

 
 どこへともなく投げ捨てると、おれっちはごしゅじんを思い切り抱きしめた。
 
 いつもとは真逆の、こちらから包み込むように。


            (第四十五話につづく)






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