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一話

 貴族としてファンタジー世界に生まれ変わった。ちなみに次男。しかもチート持ち。
 ありがとう神様! ヒャッホウ頑張るぜ!
 幼い頃、俺は希望いっぱいだった。


 そして今、俺は落伍者である。
 初めは頑張ったさ。神童と言われたさ。調子にも乗ったさ。
 けどさ……文化と風習の違いっていうの? 馴染めなかったです……。
 俺、元からコミュ力低いしさ。序列だの何だの、ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ、わけわかんねーよ。教育係はヒステリックでうるせーし、攻撃呪文ばっか覚えさせようとするしよー。
 アッタマきて、やる気なくなりました。
 さすがゆとり世代、我慢という言葉を知らないぜ! 俺はやりたい事だけやりたいんだよ。すげー一人になりたい。けれどおつきの者を振り切るとおつきの者が罰せられる。
 ストレスは天元突破。欝です。非常に欝です……。
 ここまで来るのに色々あった。剣術の才能があると思ったら、周囲がすげー手加減しているだけだったり、兄上に嫌われ恐れられてる事を知ったり、自分の行動の一つ一つの影響が凄かったり、いつも優しくしてくれる人が使用人を足蹴にしているのを見たり、使用人を取り立てたらそいつがスゲー調子に乗って他の奴ら虐げてたり……こっちの時代だと当たり前の一つ一つがきっつかった。
 そして、死んだようになった頃、魔法を主とした学校に放り込まれた。
 無論、お付きの者付属です……。
 やる気はすんげーないけど、お付の者が叱られない範囲でなんとか体を動かしている現状です。時々部屋で暴れます。
 やる事なす事口出されて、すげー嫌々従う毎日。もうダメだ俺。
 せめてもの抵抗として近づくなオーラを出して机に伏せていると、王子みたいな奴に話しかけられた。サラサラとした薄緑色の髪に、優しそうな新緑の瞳。理知的な瞳は、とても優しげに輝いている。俺とは全く関係ない人種だな。けっ

「ラーグ、私はセルウィという。なんというか……大丈夫か?」
「あー、セルウィ様。大丈夫です」

 マジで隣国の王子か。俺はなんとか体を起こして、やる気ない態度で応答する。
 それに、セルウィは苦笑した。

「全然大丈夫に見えないな。……正直、私以上にやる気のない者がいるとは思わなかった。それが神童と名高かったラーグとはな」
「あー。それはどうも」
「目が死んでいるぞ、ラーグ。……まあいい。やる気がない者同士、仲良くしないか?」
「あー。どうも」
「……決めた。絶対にお前の心を開かせてやる」

 何もかもが、すげーどうでもよかった。
 それから、セルウィは俺によく話しかけた。
 俺も、周囲に取り巻きがいない時だけ、ぽつりぽつりと本心を話すようになった。
 だからセルウィは、自分の取り巻きも俺の取り巻きも追い出して部屋で茶会をするようになった。
 また、会話量が増えた。
 否定され続けていた「俺自身」。セルウィは意地もあったのだろうが、俺の全てを受け入れてくれた。
 一ヶ月も経つ頃には、俺はセルウィと二人きりの時限定で素の自分に戻るようになっていた。
 話によると、セルウィは母親の身分が低く、こちらへは厄介払いのように来たらしい。それでふてくされていたら、自分以上にふてくされている俺がいたというわけだ。

「人の事は言えないがな。お前の取り巻きも、悪い人間ではないと思うぞ。真剣にお前の事を心配していた」
「今でも父上に要らねーことを色々報告してるけどな」
「それが仕事だ。……くくっそれが仕事だ、か。私も言うようになったものだな。……とはいえ、お前も私以外の友人を持ったほうがいいのではないか?」

 そういうセルウィは、友人を積極的に作っている。
 普段は俺以外の者と交流し、放課後、二人きりの時間が取れる時はできるだけ俺と過ごしてくれる。
 なんでも、俺がいい反面教師になったとかで、精一杯生きようと努力している。
 俺も、人柄を見抜く才はないが、才能を見抜く才がある事を打ち明けて、色々情報を渡している。
 俺の方はと言うと、セルウィがいない時はまた生きた死体に戻るだけだ。

「んー……いらねーや」

 セルウィにはどうにか心を開けたが、俺は完璧に人間不信に陥っていた。既に人生を諦めてるといっていい。

「本当は、やりたい事がたくさんあったのだろう? 周囲を気にして、全部諦めるつもりか? 私がいなくなれば、お前はまた一人になるのだぞ」
「んー……」

 曖昧な笑みを浮かべる俺に、セルウィはため息を吐く。

「これ以上押すと私まで嫌われるな。ここら辺でやめておこう。ところで知っているか? 私とお前は恋仲という噂が流れているのだが。何故私が婚約者に対してよりも必死でお前にこびを売っているのか、自分でも謎でしょうがない」
「そりゃ俺に惚れたからだろ」
「ハニー」
「ダーリン」
「……やめよう、気持ち悪い」
「そうだな」

 そんな会話をしながら、俺達は教科書を開くのだった。

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