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尋問?いいえ違います。事情聴取というのです!

 野戦陣地の簡易砦、中央に天幕を張り、王女と護衛騎士の隊長?と3人で向かい合って会議が始まった。
天幕周辺は親衛隊の騎士たちが固めている。ついでに俺自身は剣を預け丸腰だ。

「で?」
 ニコニコと花のような笑顔を浮かべる王女イリスに向け、仏頂面で問いかけた。
無礼なとかもう知ったこっちゃねえ。さっきまでの死闘は誰を逃がすためだと思ってんだ!?
て言うかあんた王女だったのか?!
「皆さんがご無事でよかったです!」
「で?」
「えーと・・・」
「で?」
「なんか怖いですよ?」
「で?」
「会話が成立していない気がするのですが……?」
「で?」
「うー・・・」
「で?」
あまりに不毛なやり取りに白銀の鎧をまとった護衛騎士が口を挟んできた。
「殿下、一刻を争う事態だと理解しておりますか?」
キリッとしたイケメンだが、少年のような声だなと場違いな感想がよぎる。

 ふとため息を漏らしたあと、イリスは表情を改め口を開いた。キリッとしてても美少女だなーとか場違いな考えを見透かされないように口元を引き締める。
「バルデン伯が私の暗殺を計画しておりました。馬車には身代わりを乗せて出発させております。改めて貴方にお願い致します。私を守ってくださいませ。トゥールの英雄、エレス殿」

「脱出のあては?王都への街道はバルデン伯の手勢がいると考えて良さそうですよね?
こっちの戦力は疲れきった新米兵士100と護衛騎士1小隊20。伯爵の手勢は、領都から呼び寄せれば1000。しかも歴戦の精鋭です。一旦撃退したとはいえ盗賊どももいる。袋のネズミっていうのが我らの状況では?あと英雄って言うな」
「ですが貴方の武勇はわたしはよく知っております」
 ニッコリと微笑むイリス王女。なんだろう、この悪寒は。なんか猛獣に狙われた獲物になったような気がして仕方ない。そうか、完璧な笑顔なのに目が笑ってない。射抜くような、探るような目つきで見られている。間違いない、今更だがこいつやばいレベルの腹黒だ。
「なにか?」
 いかん、腹の底を見られた気がする。今までの笑みが「にっこり」だとすると、今の顔は「ニヤリ」と自分の本性を隠すのをやめた目つきだ。あ、護衛騎士が頭抱えてる。そうか、あんたも苦労してるんだな。何故か視線で分かり合えた気がした。

「ことここに及んでは、私たちは一蓮托生だと思いますの。貴方は私を救い出し英雄となるか、それとも屍を野ざらしにするか。いかがです?」

 そこには可憐な少女ではなく、よくも悪くも肚の据わった眼差しの「王女」がいた。そして本能のレベルで理解してしまった。俺はこの人に一生かけてもかなわないであろうことに。死ぬのは嫌だ、死んだら年金生活が送れないじゃないか。そう思う自分におかしさを感じながら臣下の礼を取り口上を述べる。こんな口調は士官学校の卒業式以来で、噛まないだけで必死だった。
「第2王女イリス・フォン・ウェストファリア殿下。我が生涯の忠誠を貴女に捧げましょう。我が身命を賭してお護りいたすこと、我が剣と、我が誇りにかけ誓います」
「ありがとう。戦時任官にて貴方を騎士に叙爵します。レイリア、彼の剣を」
 ファッ?!この騎士様女性だったのか。イケメンだとは思ってたが、まさか男装の麗人とか・・・ってをいい、突っ込みどころはそこじゃない。騎士だと?!
「ふぎゃ?!」
猫がすっ転んだような声が上がり、思わず顔を上げると、俺の大剣を支えきれずにつぶされている王女がいた。いつもながらいろいろ台無しだ・・・
 とりあえず剣の柄を持って必死に持ち上げようとしていたので、持ち上げた。顔を真赤にして、ひーはーと息を荒げつつこちらを恨めしい上目遣いで見上げるイリス王女。やべえ、なんか萌えた。
「えーと、これで形式上は、捧げられた剣を授与しましたので、契約は成立です。よろしくおねがいしますね、私の騎士様(はあと」
 はあとって自分で言うなと突っ込みを口内に止め、素の笑顔に柄にもなく鼓動が早くなっている気がした。うん、いろいろと聞きたいこともできたが今は置いとこう。

やれやれ・・・どうしてこうなった・・・

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