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バニラ

襲われたビルを出て、1時間は歩いただろう、
カイトは、人の気配のない街にあるビルに入り二階まで登る。
マキオも、酒瓶のつまったカバンを両手と背中に持ち、汗だくになりながらついて行った。

「おつかれマキオ、到着だ」

カイトは、ビルの二階にある一室に入りカバンを下ろし、ふうっと息を吐く。

「ここって言ったって…」

そこには、窓もない殺風景な部屋が広がっているだけだった。
すると、カイトは壁を「ココン ココン コンコン」とリズムをつけて叩いた。

「誰だ?」

天井から男の声が聞こえた。
カイトは、答える。

「オバケだよ〜ん」

カイトが応えると、天井が開き三人の男が覗き込んだ。
男達はカイトを確認すると、梯子を下ろした。
カイトは梯子を登り、マキオも戸惑いながら梯子を登る。


「おつかれカイト、何を持って帰ってきたんだよ」
「お前らにお土産だよ、驚くなよ?」

カイトは、背負っていたカバンから、シャンパンのヴーヴ・クリコを取り出した。

「おお!すげー!」
「マジかよ!やったなカイト!」

男達は、カイトと肩を組んで喜んでいる。
どうやら、皆、酒好きのようだ。

「へへへ、こいつが手伝ってくれたんだよ、マキオって言うんだ」

そう言って、カイトはマキオを引き寄せた。
男達は、マキオに握手をしながら、礼を言う。

「おぉ、新入りか?ありがとうなマキオ!」
「サンキュー、マキオ、後でパーティだな!」

「あぁ…どうも…」

新入り??

マキオは、困惑しながらも男達に応じる。

喜んでいる男達の後ろから、女がカイトに声をかけてきた。

「やっと戻ってきたんだね、カイト」

「おぅ、バニラただいま!喜べ、今夜はパーティーだぞ」

バニラは、薄い金色に光る髪を、きのこ型に切り揃えている。
160センチ位の身長で、バランスの良い身体をしている。
白い肌に、若干、眠たげな瞳。
口元は、首に巻かれたスカーフで隠れている。


「パーティーどうでもいいけど……誰?その人?」

「ああ、こいつはマキオだ、よろしくな、マキオ、あいつはバニラ、俺と同じ隊長なんだ、
 顔はカワイイけど、冷たい女だから気をつけろよ」

「……また勝手に新人つれてきたの?怒られるよ?」

カイトの経口に、無表情なままバニラは話を続けた。

「はははっ、まぁまぁ」

「カイト、ニーナ怒ってるよ」

「えっ!バレてんの?」

バニラは無表情で、うなずく。

「イナオ達だけが戻ってきたのをニーナが見かけて、問い詰められてた」

「んだよ、うまくやれって言ったのに……まぁいいや、この酒には怒られるだけの価値はあるし、
 じゃ、ちょっくら殺られてきますかね?
 ああ、バニラ、俺が戻るまでマキオの世話たのむな」

カイトは、後でな!とマキオに声をかけ、行ってしまった。
マキオは、どうしていいかわからず、気まずそうにうつむいた。

「はぁ……勝手なやつ。
 …マキオ、疲れたでしょ。
 ついてきて」

バニラは、指をくいっと動かし、マキオをうながす。
マキオは、急にわいた淡い嬉しさを抑えて、バニラに従う。

バニラについていくと、広い部屋に案内された。
部屋には、ソファやテーブルがいくつも置いてあり、大きなラウンジのようになっていて、
二十人位が何かを飲んだり食べたり、しゃべったりしている。

「座ってて」

「あ…はい」

ソファをすすめると、バニラはカウンターの中に入り、飲み物を二つ持ってきて、
マキオの向かいに座った。

ふわっと甘い香りが通り過ぎる…飲み物の香りか、それともバニラの香りだろうか。
バニラは正面に座って、無表情なまま見つめてきた。
女なれしていないマキオは、つい赤くなってしまい、目を背けた。

「なんか、緊張してるね」

「あ…はい…人と話すの、あんまり得意じゃなくて…」

「そうなんだ、あたしもあんまり得意じゃない、
 ……気にしないで」

「…はい、よろしくお願いします……」

そう言うと、バニラは少しだけ微笑んでくれた気がした。
ドキッとして、また目を背けてしまう。

「シュラに、来たばかりなんでしょ?」

「え?シュラ?」

「この世界の名前、シュラっていうの」

「そう…なんだ、うん、来たばかり」

「先に言っておくけど、たぶん、これからビックリする事が多いと思う。
 日本とは、だいぶ違うから。
 だけどそのうち慣れる。
 だから、あんまり深く考えない方がいいよ」

「うん…そうする……あのさ、バニラさん」

「バニラでいいよ、マキオ」

「えっと……バ…ニラ、ちょっと聞いていい?」

「何?」

「…ここで、みなさん、何をしてるの?」

「…もしかして、カイトから何も聞いてない?」

「うん、酒を運ぶのを手伝って欲しいって頼まれただけだから…」

「そうだったんだ…ごめんね、カイト悪いやつじゃないんだけど、
 テキトーだから」

「うん、それはわかってる」

「だよね…クスッ……ここはあたしたちの基地、家みたいなものかな、
 この世界は、危険だから皆で集まって暮らしてるの」

「じゃあ、元々はみんな知らない人どうしって事?」

「うん、今この建物の中には…百人位いるかな?」

「えぇ!そんなに?」

「たぶん」

「じゃあ、その百人で暮らしてるって事?」

「ううん、まだ他にもいる、ここじゃなくて、他の建物もいくつかあるんだけど…
 このビルに入った時、天井から梯子を使って登ったでしょ?
 ああいう風に勝手に人が入ってこれないようにしてる建物を、自分たちでいくつも作ってる。
 全部で…千人位いると思う」

「千人!?そんなに…」

「でも、私達はまだ少ない方で、大きい団体なら万単位のものもあるから」

「万……そうなんだ…」

バニラはうなずいて、マキオを見つめている。

マキオは、ちょっと照れて、目を反らし、
聞いたことを頭の中で、反芻する。

「まぁ、ゆっくり慣れていけばいいよ
 もっと、色んな事あるけど……今聞いとく?」

「えっと……ちょっと…考えさせて…」

「わかった…じゃあなんか食べ物持って来るから。
 待ってて」

「…ありがとう」

バニラは、甘い香りを残して、カウンターの方に行った。


はぁ……大変なところにきたのは、まちがいないな……
あと…バニラ……かわいいかも……

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