1-3-5 言い訳?暴露?
俺はノートパソコンに時系列順に全てまとめている、一連の教師たちとの会話記録のフォルダを開いた。
「さて、中庭での俺の教頭への凶行を見て驚いただろうから、少しだけ言い訳というか……俺の今の心情を皆に聞いてほしい」
「当然聞かせてもらいます!龍馬君、いくら何でもさっきのはやり過ぎよ!」
「美弥ちゃん先生が怒る理由が解らないんだけど……まさか教頭と縁故とかじゃないよね?」
「違いますよ!何故そうなるんですか!?」
「だってもう役職とか関係ないのに教頭を庇うような言い方するから……」
「はぁ、先生はあなたの事を心配しているのです!」
「美弥ちゃん先生、とりあえず兄様の意見をまず聞いてみましょう?正直菜奈もさっきの兄様の暴力的な仕返しはなんか兄様らしくないというかしっくりこないというか……とにかく、かっこ良くなかったので嫌でした」
「意趣返しに綺麗な事なんか一つもないけどな。まぁ、いい。一応時系列順にまとめてあるけど、初期の担任や副担任との会話は当然ながらない。でも意図して後から同じような会話を繰り返して何度も相談に行っているので、似たような内容のものが殆どだから端折って時系列順に聞かせるね」
初期の頃の先生たちとの会話には当然井口さんもいた。
髪や胸やお尻をしつこく触られるので何とかしてほしいという、普通の学校だったら即停学ものの佐竹の凶行だ。それを1月半ほど放置しているのだ。
10月に入った頃からは、井口さんはあきらめたように教師に相談をしに行かなくなった。
俺と教師だけの会話がしばらく続く。
そして俺への暴力的な虐待が始まり、10月末ごろに全身打撲で肋骨にヒビが入り高熱を出した後、校長室に行き裸になって傷を見せ現状を訴えたのだ……だが、そのすぐ後の職員会議の会話がこれだ。
「1年3組の佐竹君たちの問題行動についての会議をします。皆さんも知ってのとおり、佐竹君のお父さんは理事長の弟さんで、佐竹君が入学の際に莫大な寄付金を当学園にしてくださって、兼任理事にも就いています。教育機関に対して理事長の権力は絶大で、下手に逆らうと首になった挙句、学校関係の仕事ではどこにも再就職できなくなるという空恐ろしい事態になってしまいます。校長先生とも話し合ったのですが、白石君たちの事は暫く様子見して、できるだけ穏便に見てみぬ振りをしてください。何か意見のある方はいますか?」
「教頭先生、只のいじめではなくこれは事件ですよ!白石君の体は肋骨にヒビが入っていました。傷害事件です。揉み消していいような事では無いと思います!」
「それが恐ろしい事に揉み消せるのですよ。仮に白石君が警察に訴えたとします。理事長はそれを揉み消せるのです……それどころかそういう証拠や事実は無かったと、警察から通達が来て学園を騒がせたと白石君が退学処分になるのが目に見えています」
「そんな……」
「気持ちは分かりますが、首になりたくなかったら暫く知らん顔をしてください……他に意見のある方はいますか?無ければこれで職員会議を終わります」
皆、唖然として聞いていた。
わずか3分にも満たない会議で、しかも内容は酷いものだ。
「会議というか教頭の一方的な通達だろ?ちなみに唯一庇ってくれた意見を出してくれたのが保険医の先生だけど、この職員会議以降は俺を見たら悲しそうな顔をしながら逃げていくようになったよ」
「あきれてモノが言えません」
「兄様可哀そう……許せません!」
「ん!教師なんか皆死んでしまえ!」
「言い訳になるけど、どうしてもこの事件で許せないやつが居るんだ。佐竹、その取り巻き、校長、担任、副担任、教頭、体育教師、進路指導の教員。優先順位はこんな感じだけど、どうしても“ごめんなさい”とか謝られたぐらいでは俺の気は治まりそうにない。皆にも痣とか見てもらったから知ってるだろ?こいつらは自殺寸前まで俺を追い込んだんだ。この証拠品で社会的に抹殺できたはずなんだけど、それももう出来なくなった。だからどうしても俺なりに物理的にでも仕返ししたかったんだ。教頭の目を抉り取るとかして不快な気分にさせてしまって申し訳ないとは思ってるけど、へらへら笑いながら俺に近寄ってきて、なかった事にするなんてどうしても俺には出来なかった……」
「龍馬の気持ちは解ったのじゃが、恨みを晴らしたとしても其方の気が晴れるとは思えぬがな?」
「いや、やらないよりはスッキリする!現に教頭が片目を無くして暫く不自由をすると思うとちょっと良い気分だ!向こうの世界でなら流石に失明までさせる気はないけど、こっちの世界じゃいずれ治せるんだ。治せるまで半年かかるか数年かかるかはわかんないけど、ざま~みろだ!」
「うっ……そうなのか?妾は其方はもっとさっぱりした奴だと思っておったが」
「兄様は中学の頃「蛇龍」って二つ名があったぐらいですからね。一度買った恨みは晴らすまでヘビのようにしつこいらしいですよ」
「ん!“蛇龍”とか厨二臭くてかっこいい!」
「俺はこの後も何らかの形で物理的に仕返しするつもりだけど、やはり皆は反対かな?どうしても止めてほしいとか言うならパーティーリーダーとして個人的な私怨は我慢するけど」
「龍馬君の言う物理的仕返しってのは、やはり暴力って事?」
「桜が言うようにそうなるかな。社会的制裁はもうできないし、謝罪程度で許したくもないから、部位欠損的処罰で許そうと思ってる」
「フィリア、龍馬君が言うようにレベル40になれば部位欠損を治せるような魔法があるの?」
「フム。神聖系に1つ、闇系に1つあるな。時間制限付きじゃが、レベル50を超えれば蘇生魔法もあるぞ」
「え!?そうなの!龍馬君、死者は生き返らないって言ってたよ?」
「桜たちにそう言ったのはレベル50までは無理だし、今死んだらそれまでだから危機意識をもってほしかったからだ。それに死者は生き返らないぞ。あくまで死亡してから最長でも1時間以内だ。AEDと同じようなモノだと思った方が良い」
「AEDって心肺蘇生装置の事よね?」
「ああ、土と風以外にそれぞれの系統で1つあるようだな」
「あ!話それちゃってごめん!で、どんな仕返しするの?私あんまり龍馬君には私怨に走ってほしくないな……」
「俺がさっき言った中で生き残ってるのは佐竹たちと担任の土居、後は体育教師だけど、江口とはさっき和解したから暫く様子見だな。担任はそうだな……俺の話を散々聞き流したから耳を貰う事にする」
「ん!無罪放免は許せない!」
「私も兄様が怨みで変になるのは嫌ですから、適度に仕返しするのはいいと思いますが。やり過ぎはダメですよ」
「先生は反対です!」
「美弥ちゃん先生の意見は無視だね。一応教師側の人間だし」
「一応じゃなく、ちゃんと教員免許持ってます~!もう、またバカにして~」
ぷくーと頬を膨らませて可愛い顔をしている。どう見てもこの可愛いちみっこは教師に見えないな。
「あの、龍馬先輩。仕返しとかは別にいいのですけど。聞きたい事があります」
聞きたい事があると言ってきたのは2人。C班3年の有沢みどりとB班2年の中森優だ。
ちなみにどっちもヒーラーだ。ヒーラー同士仲がいいようで良く一緒に居るところを見かける。
「なんだい?答えられる事は答えるよ?」
2人はお互いに顔を見合って意を決したように俺に向き直って質問してきた。
「井口先輩の事ですけど、彼女が言ってる事と先輩の言い分が少し違うのです。私たちは当然全て話してくれた龍馬先輩の事を信じているのですが、もし龍馬先輩が彼女の事を誤解してるなら井口先輩が可哀そうです」
「誤解というのは、彼女が俺の為に佐竹に抱かれてたとかそういう事かな?」
俺の発言にびっくりしたようにお互いの顔を見合わせて、どうしてって顔で俺を再度見た。
「知っていたのですか?」
「他人の気持ちなんて解らないよ。彼女の言い訳とか聞きたくもないしね」
「それじゃあ、井口先輩が可哀そうです!好きな男の前で嫌いな男に抱かれたのですよ!」
「2人ともあの現場を見てないからそう思うんだろうね。あの感じまくって絶頂をむかえた井口さんを見たら、可哀そうとか思わないと思うよ」
「じゃあ!その動画見せてくださいよ!あるんですよね?私だって龍馬先輩の事信じたいです!でも、もし女の子の気持ちを考えないで汚れた女はどうでもいいとか思ってるのなら、私軽蔑します!」
「優ちゃんに軽蔑はされたくないけど、この動画は誰にも見せる気はないよ。彼女のプライバシーに関わる事だ。俺の全裸勃起事件なんか、この動画と比べたら可愛いもんだ」
『……マスター、ここは見せるべきだと思います。教頭への問答無用の暴力と合わせて、彼女たちの不信感が大きくなっています』
『でもな……これ見られたら、自殺ものだぞ?』
『……ですが、井口とかいう女は自分の立場を守るためにマスターを貶して周りの同情を買おうと、ある事無い事言ってまわり、自分の保身しか考えていません』
『まぁ、井口さんの階段上の用具室の噂は酷いからな。彼女も保身のために必死なんだろ』
『……マスターはこの群れのリーダーなのです。他の群れの女の事より身内を大事にしてください!』
「龍馬君、どうしてそこまで彼女の事庇うの?私の耳にも結構龍馬君の事悪く言ってるのを聞いてるよ?変に庇うと皆どっちが本当の事言ってるか迷っちゃってしまうでしょ?ひょっとして彼女の事まだ好きだとか?」
「うーん。正直に言うと、俺はもう他のやつらにどう思われても良いんだよ。最悪、菜奈とフィリアさえ俺を信じてくれてれば良い」
「兄様!嬉しいです!勿論菜奈は信じてますよ!」
「ん!私の名前もちゃんと言え!龍馬のアホ!」
「雅、痛いって!何で蹴るんだよ」
「龍馬君、その言い方ちょっと傷ついたし、凄く腹立たしいわよ。確かに私たちは知り合ってまだ3日だけど、皆あなたの事は信頼して命を預けてるの。2人以外にどう思われようが良いとか、いくらなんでも命を懸けたパーティーメンバーに対して言う事じゃないわよ。凄くショックだわ!」
皆大きく頷いてる、どうやら俺はかなりの失言をしたようだ。
雅にゲシゲシ蹴られまくっても仕方ないな。
「俺の言い方が悪かった、皆ごめんよ。確かにまだ3日だけど皆の事は大事に思ってる。慕ってくれてる以上一人だって死なせる気は無い」
「じゃあ、見せてよ。勿論彼女のプライバシーは守って、ここでしかその話はしないわ」
「本当に自殺モノなんだって。彼女はこの動画の存在を知らないだろうし、見られたとか知ったら自殺するかもしれないぞ?俺はどう言われても平気だが、この動画のせいで彼女が死んでしまったら、それこそ後悔する」
「それほど酷いものなの?」
「酷い……AV女優も真っ青だと思う」
「龍馬よ、観念して皆に見せるべきじゃの。其方はここの者だけの事をまず考えるべきじゃ。見てから皆がおのおの判断するじゃろうて。それに、井口とかいうおなごは自殺するような軟なたまじゃないぞ……」
俺みたいに弱くないってか……。
「フィリアが言うなら従うけど。皆にはこの動画の存在自体秘密にしてほしい。女子寮で俺がどう思われても良いのでここだけにしてくれ。それと1年と沙織ちゃんは閲覧禁止な。本来無修正なんか18禁ですらないんだからな」
「ん!断固拒否!私も絶対見る!」
「私も見ますからね!」
「私も見ます!」
「なんで私だけ見ちゃダメなんですか!絶対見ますからね!」
「えー!雅はともかく薫ちゃんと沙希ちゃんまで?排卵周期中の沙織は今エロエロモードだからダメだ!」
「先生的にはそんなエッチなもの皆に見せるべきじゃないと思うな~」
「「「お子様先生は黙っててください!」」」
「ひっ!先生大人だよ!皆酷いよ」
「ん、処女のクセに。なにが大人だ」
「今ぼそっと言ったの絶対雅ちゃんだよね!確かに先生処女だけど大人だよ?」
「はぁ~もうどうでもいいや……中学生の女の子が見るようなものじゃないんだけどな。どうしても見るの?」
「「「絶対見ます!」」」
何が何でも全員が見るそうだ。
井口さんごめんなさい!
俺は井口さんと同じように自分の居場所の立ち位置を守るために、井口さんと佐竹のSEX動画を皆に公開した。