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かわいい系のマスコットキャラが低音イケボって何事だよ

「それでね。今日うちのクラスに転校生が来たの!」

「ああ、うん。それはさっき聞いたよ。わかったから。今日はもう帰ってよ」

 僕はうちの玄関先まで押しかけてきたクラス委員長、天野(あまの)心春(こはる)にそう言った。

「もう。なに? その言い方は。私は委員長として、優くんのこと心配して来てあげてるのに」

「だから心配はいらないって。また近いうちにちゃんと学校行くからさ」

「そんなこと言って結局今日も来なかったじゃない」

 不貞腐れたような表情を見せる心春。

「だから今はそんな気分じゃないんだって……」

 僕はこの数日、学校に行ってない。まあプチ不登校ってやつだ。その理由については、またいつか。
 けど僕だっていつまでも家に引きこもる気はない。そう遠くないうちにちゃんと学校に行くつもりだ。

「とにかく、僕は大丈夫だから。帰ってお願い」

 僕はまだ何か言いたげな心春の言葉を遮るようにして玄関の扉を閉じる。

 僕の家にようやく静寂が訪れる。僕はふうとため息を吐いた。

「まったく。なんで心春は毎日毎日……」

 僕が学校に行かなくなってから、心春は毎日こうしてうちに押しかけてきている。家が近所だからって、なんでそんなことをするんだろう。どうせ委員長としていい子ぶりたいだけなんだろうけど。心春ってそういう堅物というか、外面を気にしすぎる帰来があるからね。
 まあいいや。心春の思考なんて、どうでも。
 それより今日は両親ともに帰宅が遅いと聞いている。僕が夕飯の準備をしなくちゃいけない。冷蔵庫にはもうほとんど食材がなかったはずだから、とりあえずスーパーに買い物に行かないとね。
 僕は靴を履いて小ぶりな一軒家を飛び出して、僕は自転車で夕暮れの町を走り、近所のスーパーマーケットへと向かう。
 カゴを乗せたカートを押しながら、僕はスーパーの中を歩き回り夕食のメニューを考える。
 そのとき、目の前に一番会いたくない人の姿を見つけ、僕は慌てて近くの商品棚に身を隠した。
 梶原(かしはら)玲子(れいこ)。
 僕のクラスメイトだ。どうやら制服姿のまま買い物に来ているらしい。
 細くすらりと伸びた手足に清らかな白い肌。きれいなストレートのロングヘアに、凛とした切れの長い目が意思の強さをうかがわせる。
 とっても美しい女の子。初めて彼女を見たとき、僕はその麗しさに唖然としてしまったのをはっきりと覚えている。
 そして、僕が今一番出会いたくない人であり、僕が学校に行けなくなった原因である。いや、別に梶原さんが悪いわけじゃないんだけどね。
 とりあえず、彼女に顔を見られないようにしなきゃ、と気を付けつつ、僕はそっとその場を離れた。
 その時だった。
 店中に響き渡る悲鳴。店内にいた客は一体何事かと悲鳴の聞こえた方向に注意を向ける。

「だ、だれか。た、助けて!」

 次にそんな女性の声が聞こえる。なんだなんだとがやつく店内。中には悲鳴のほうへと野次馬のごとく近づいていく人もいるけど、僕はその流れに逆行してそそくさと店を後にする。
 だって絶対近寄ったらろくなことないじゃん。もし何かの事件だったとしたら、巻き込まれる危険だってある。巻き込まれなくたって、後から警察に事情聴取されることになったらめんどくさいし。
 まあいいや。近くには他にもスーパーがあるし、そっちに行けばいい。
 店の中に入ろうとする野次馬や、それを制止する店員を押しのけて、僕はさっさと店から出て自転車置き場に向かう。そして停めておいた自分の自転車を引っ張り出して、スーパーの敷地から立ち去ろうとした。その時だった。

「あぶねえ! そこどけぇえええええ!」

 耳元で聞こえるやたらと野太い男の声。直後、僕の頬に強烈な衝撃が加わり、僕は思わず大きくよろめいて転んでしまう。
 突然のことでなにがなんだかわからずに狼狽する僕。アスファルトの地面が僕にさらなる痛みを与える。

「ったく。ぼーっと突っ立ってんじゃねえよ」

「ご、ごめんなさい……」

 起き上がりながら僕はとりあえず謝る。そして僕は信じられない光景を目にした。

「え……?」

 そこにいたのは、声からイメージされるような大男ではなく、大きなアニメに出てくるネズミのような耳に、ぱっちりとした目、顔と同じ大きさほどの胴体をした、僕の手のひらより少し大きい程度のサイズしかない謎の水色の生き物だった。
 しかもあろうことか、痛そうに額をこすりながらふわふわと浮かんでいる。
 僕が驚きのあまり動けないでいると、その謎の生物は僕のことを見て「もうこの際お前でいいか」などと呟く。

「おい、そこのお前。……いや、お前だよ。後ろを向くな」

 うん。僕が呼びかけられてるっていうのは薄々わかってたよ。ただ現実逃避がしたかっただけなんだ。普段の僕ならスーパーの時と同様そそくさと逃げるんだけど、全身が痛くて今はそうもいかない。

「な、なに……?」

「お前、名前は?」

「優。高屋(たかや)優(ゆう)……」

「よし。俺はルーク。優。今すぐ俺と変身しろ!」

「ええっ!?」

 一体何言いだしてるのこの謎生物!?

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