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1-3-3 勧誘?桜マジ切れ?

 急いで中庭に向かったのだが、入り口付近でフィリアに止められた。

 「龍馬よ、トラブルの原因が桜たちの勧誘だったら、其方が顔を出せば話がこじれる。ここは美咲に任せて妾たちは少し様子を見てみぬか?」

 「男子寮の佐竹たちならともかく、なんで俺が行っちゃダメなんだよ?」

 「勧誘を拒否するにしても、女子寮と同じく女子ばかりだから貞操に関して安全だというアピールが出来るじゃろ。それにあれだけの綺麗処が集まっておるのじゃ、そこに龍馬だけ男がいてハーレム状態だと知れると変に反感や僻みを買ってしまうかもしれぬ。其方は極力顔を出さない方が良いのではないか?」

 「うーん、言ってる事は解るんだけど、各部署のリーダーには俺がリーダーだって知れてるはずだし、今更隠しても意味ないと思うぞ。それに別に僻まれたからといってすぐ喧嘩になるわけじゃないし、そんな奴らにどう思われても俺は平気だしな。すでにトラブルを起こして因縁を吹っかけてきてるんだ。そんな奴らにはリーダーとしてきっちり俺が意思表示しておく方が良いと思うぞ」

 「それもそうかの……ハーレムを形成しておる群れの長として、近寄るオスを蹴散らすのも長としての仕事の一つじゃしの。そうでないとメスは安心して群れの長に付いていけぬからのクククッ」

 ニヤニヤしながら俺をからかうようにフィリアは言っている。

 「小鳥遊君の所はハーレムなのですか!?皆とそういう関係なのですか!?」

 フィリアの爆弾発言を鵜呑みにした柳生先輩は、俺を蔑むような目で見ている。

 「違うから!中等部の料理部に妹が所属してて、偶々料理部ごと保護して面倒見る事になっただけだから!柳生先輩、変な妄想で勝手に俺をハーレム王にしないでくださいね!」

 「あぅ、そうなのでしたか。妹さんが居たのですね……ごめんなさい。廊下での変態行為がどうしても頭をよぎってしまって、ついそっちの方に考えてしまいました」

 「変態行為って……俺縛られてたよね?無理やりだったよね?」

 「縛られてたけど……あの、その……人に見られて興奮するタイプ?」
 「違うから!クソッ!佐竹のやつやっぱ殺してやる!周りが俺をどんな目で見てるか解ったよ!」

 「龍馬よ涙目で怒ってるところすまぬが、はよう行ってあげた方が良くは無いか?桜たち困っておると思うぞ?」

 「フィリアが入口で止めるからだろ!もう!クソムカつく!」
 「それは悪かったの、じゃが今の状態で行くと変に相手に絡みそうじゃの。やはりここは美咲に任せた方が良いな。悪いが美咲、其方だけで行って少し様子を見てくれぬか?妾たちも気配を消して近くで控えておくので対処してみてくれぬか?其方でも治まりそうになければ龍馬に行ってもらう故な」

 フィリアの発言に対し柳生先輩は俺を見て同意を得ようとしている。
 フィリアの意見だけで勝手に行かないのは好感が持てるな。

 「今俺が行くとフィリアが言うように感情的に過剰になりそうなので、柳生先輩にお任せします。それと言っておきますが、人に見られて興奮していたんじゃないですからね!」

 「あう、ごめんなさい。あまりに衝撃的だったので……はい、とりあえず行ってみます。状況が解らないと対処の仕様もないですからね」

 「面倒そうなら俺がすぐに行きますのでよろしくお願いします」

 一応この事は直ぐに菜奈にメールを送った。
 向かうのが俺じゃないのが不満そうな返信が返ってきたが、そこは無視する。


 俺とフィリアは中等部の別館2Fから隠れて眺める事にした。

 中庭では美弥ちゃん先生が桜をなだめるようにして男たちの間に入ってあたふたしている。
 男側の方は体育教師の江口が、おそらくバスケ部であろう四人の間に入って仲裁しようとしている。
 バスケ部の一人は見知った顔だ。

 体育の授業は男子と女子が別れ2クラス合同で行うため、必然的に隣のクラスの男子も顔見知りになるのだ。
 
 桜たちと揉めてるのは四人、一人は隣のクラスの高井という奴だ。
 他はジャージの色から2年が二人と3年が一人と思われる。


 「何を騒いでいるのです!まだ全然終わってないじゃないですか!犠牲者の遺体の横で何をしてるのですか!?」

 「ゲッ!剣道小町がきやがった!」
 
 「むっ、聞こえましたよ藤井君!なに下級生に因縁つけてるのですか?」

 「因縁なんか付けてないよ。ただ俺たちは豚どもに犯されるまえに、体育館の方に来いって誘ってあげてるんだよ」

 「だから大きなお世話だって言ってるでしょ!」

 珍しく桜が眉間にしわを寄せて2年のやつを睨み据えている。

  
 うーん、ここからじゃ、今一どういう経緯か解らんな。

 『すまないナビー、この状況の経緯を知りたいけど、詳しく説明できるか?』

 『……ハイ、教頭の挨拶があって皆の顔合わせが済んだのちに遺体回収の作業が始まったのですが、開始10分程でバスケ部2年の一人が桜に体育館の方に来ないかと勧誘を始めたのです。桜はやんわりと拒否したのですが、他のバスケ部員も集まってきてしつこい勧誘が始まりました。当然怒った桜は行く気は全くないのでほっといてくれとちょっと強めに言ったのですが……そこからは“女のクセに生意気だ”、 “年下のクセに”、 “俺達が守ってやるかわりにそのエロい体で奉仕しろ” 、“エロい体して男好きなんだろ”、 “豚に犯されるくらいなら俺にやらせろ”等の徐々に酷くなる暴言が続きます』 

 『成程……で、桜はあんなに怒ってるのか。バカな奴らだ……本当に誘いたいならもっと紳士的に誘わなきゃだめだろ。以前から桜は男の視線には超敏感なようだし、特に胸の事をコンプレックスに思ってるようだから、あいつらの言ってる事は悪手だな』

 『……あと未来を見て“わっ!リアルれいちゃんが居る!”とか言って騒いでましたが何の事でしょう?それと菜奈をちみっこ可愛いとも言ってましたね』

 『菜奈の事ちみっこ言ったのどいつだ!』
 『……2年のジャージを着てる、マスターから見て右側のやつですね。ちなみに現バスケ部のキャプテンです』

 『あいつか……見た目13歳ぐらいにしか見えない菜奈を見て可愛いとかぬかすロリコン変態ヤローは』

 『……そうです、彼はマスターと同じくロリコン変態ヤローですね』
 『ちょっと待て!なんで俺がロリコン変態なんだよ!』

 『……あれ?おかしいですね?菜奈の事可愛くないですか?雅やフィリア様の事可愛いと思ってないのですか?』

 『いや、あいつらは普通に誰が見ても可愛いだろ?』

 『……………………ええ、可愛いですね』
 『その、気になる意味深な長い間は何なんだよ……』

  
 中庭の喧騒は柳生先輩が間に入っても治まらなかった。

 余計なお世話だと突っぱねる桜たちに対して、どうしても体育館の地下施設に連れ帰ると言い張るバスケ部員。それを仲裁しようとする教師たちと柳生先輩。どう見てもバスケ部員の暴走行為なのだが、誰も口頭以上には強く止めようとはしない。

 等々焦れた2年のバスケ部のキャプテンが、一番小さくて扱いやすいと思ったのか菜奈の腕をつかんで連れて行こうと実力行使に出たようだ。

 俺の中で何かが切れた気がした。

 2階から飛び降りて全力で駆けつけたのだが……中庭で見た光景は唖然とするものだった。

 「イテー!クソッ何するんだ!」
 
 中庭には手を握り潰され、のたうちまわっているバスケ部のキャプテンがいた。
  
 「おい菜奈!お前何したんだ?」
 「あ!兄様、乙女の腕に許可なく触れるからお仕置きしてあげました!」

 「そうか……でもそいつの手首、複雑骨折で完全に潰れてるみたいだぞ」
 「回復魔法があるから大丈夫ですよ!ね、未来お願い」

 「う~、私は嫌です!自分の仲間に回復してもらってください!」

 え~っ!?あの優しい未来ちゃんがまさかの回復拒否!こいつらどんだけ暴言吐いたんだ?

 のたうちまわってるやつは、どうやら菜奈に手首を握りつぶされたようだ。
 菜奈の腕を掴んだすぐその後に、手首をギュッてされただけのようなのだが【身体強化】MAX状態の菜奈の握力での握り潰しだ、完全にぺしゃんこに潰れてしまっている……菜奈恐ろしい子。

 「クソガキ何しやがるんだ!藤井大丈夫か?」
 「クソ、イテーよ!」

 「龍馬君ごめんなさい。この人たち凄くしつこくて、何度断っても聞く耳持たないのよ。まったく、バカじゃないの」

 「桜ご苦労さん。バカはどこにでもいるけど、なんで先輩たちは拒否ってるのにそんなにしつこく誘うんです?」

 俺は菜奈の事でムカついて飛び出してきたのだが、無残に潰された腕を見て一気に冷静になってしまっていたので、問題のバスケ部員たちに聞いてみた。

 「あ?お前に関係ないだろ!」
 「関係ありますよ、この娘は俺の妹ですし、このグループのリーダーですからね」

 「なら丁度いいや、料理部全員体育館で引き取ってやるから付いてこい!」

 「ん?桜、料理部の事言ったのか?」
 「私は何も言ってないわよ」

 「先輩、誰に聞いたんですか?」

 「は?顧問の森里先生が居て、城崎さんと竹中さん、その子たしか中等部の料理部の部長だろ?それにそこの3階から見てる子たちも全員料理部だろ?」

 「え?」

 後ろを振り返ると、中等部の別館3Fから料理部の娘たち全員がこっちを見ていた。
 あちゃー、あれじゃ隠れてる意味ないじゃん。
 もう女子寮以外の他のグループにも、完全に潜伏場所もメンバーもバレてしまった。
 これ以上は隠す意味もないな。

 「はぁ、あの娘たち……龍馬君ごめんね、帰っても怒んないであげて」
 「怒る気にもなんないよ、雅なんか嬉しそうに手とか振っちゃってるし」

 「で、どうなんだ?女ばかりより安全だろ?勿論来るよな?」

 ジャージの色からして、今話しかけてきてるこの人は3年生か……まぁ、こっちの世界じゃ関係ないな。

 「女ばかりだから安全なんだろ。お前みたいに桜の胸見て鼻息あげてるやつのとこに、こいつらが行くわけないだろうが。ちっとはその頭を使って考えてみるんだな」

 「なんだと!上級生に向かって何生意気な口きいてんだコラッ!」

 「兄様今日も素敵です!流石です!キュンキュンきました!」
 「ん!龍馬かっこいい!」
 「「「龍馬先輩がんばれー!」」」

 女子の黄色い声援で更に切れた先輩が俺の胸ぐらをつかんできたので、菜奈がやったようにこの先輩の腕をキュッと握りつぶした。

 「お前ら弱すぎるんだよ!それでよく守ってやるとか言えるな!実力も無い奴が口だけ偉そうにしゃしゃり出てきて迷惑なんだよ!」

 「いきなり不意を突いておいてふざけるな!クソッ、イテーッ高井回復頼む!」

 「まだわかんないのか、面倒な奴らだな。桜、そいつらと勝負してやれ。1対4でだ。バスケ部のお前らは武器や魔法も使っていいぞ。桜は武器禁止で素手で相手な。お前らが勝ったら桜を連れてっていいぞ」

 「ちょっと龍馬君!何勝手に決めてるのよ!嫌よ私は、体育館なんかに行かないからね!」

 俺は桜に近づいてそっと耳打ちした。

 「あいつら全員種族レベル7しかないんだよ。【身体強化】も3年のアイツがレベル4以外は皆2しかない。【身体強化】レベル10の桜が本気で殴ったらあいつら死んじゃうから、手加減してやるんだぞ。軽く突くだけでいいからな」

 「え!そんなに弱いの?それなのにあんなに偉そうにしつこく誘ってたの?信じらんない!」
 「何度言っても解らないアホには、実力差を見せるのが手っ取り早いだろ。勝手に桜の体を賭けの対象にしたのは謝るけど、これだけ実力差があったら問題ないと思うからな。特に変わったスキルも持ってないから普通にやれば負ける要素は全く無いから、自分の身を守ると思って頑張れ。俺が倒しても桜たちにはまた絡んでくるだろうし、ここで桜自身で実力を見せとけば後々絡む奴も居なくなるだろう」

 「確かにそうね……うん、解ったわ。やってみる」


 桜はバスケ部員の前に行って、煽るようにこう言い放った!

 「どうするんです?やらないんですか?私はあなたたちぐらいなら四人相手のその条件でいいですよ」

 「あはは、4対1で勝てる訳ないだろ。でもいいぜ、それで桜ちゃんがこっちに来るなら大歓迎だ!」

 俺はこっそり無詠唱で桜に【プロテス】【シェル】【ヘイスラ】を掛けた。
 正直に言えば今の桜の実力ならバフは要らないのだが、瞬殺で圧倒してほしいからあえて掛けたのだ。

 バフが入ったのが分かったのか、桜は俺を見てにっこり微笑んだ……うわ~桜メッチャ可愛い!
 逆にバスケ部たちは俺を射殺すかというほど睨んできた。
 うん、その気持ち解るぞ!逆の立場なら俺もムカついたはずだ。

 「じゃあ、ルールの再確認な。桜対バスケ部四人の試合で、桜は武器魔法禁止、バスケ部は何でもアリでOK、ただし殺すようなのはお互いに禁止な。双方それでいいか?」

 「俺たちにむちゃくちゃ有利な条件だが、逆に聞くがそっちはそれでも良いんだな?」
 「ええ、私はそれでいいわ。但し私が勝ったら二度とうちのグループの娘に声を掛けないで」

 「いいぜ、この条件で負けるはずないだろ!うちに来たら可愛がってやるからな!」

 うわ~、むっちゃ睨んでる!桜怖え~!
 桜はさっさと始めろと言わんばかりにこっちを見た。

 「じゃあ、お互いに条件も確認したので、この五人以外ちょっと離れてもらえますか」
 
 「あの龍馬君、大丈夫なの?先生心配なんだけど」
 「大丈夫です、美弥ちゃん先生でもこの四人相手なら余裕で勝てます。邪魔になるので下がってください」

 「そう、あなたが言うならそうなのね……解りました」

 「じゃあ、皆が下がったので双方俺の合図で戦闘開始とします。戦闘終了は参ったと言うか、俺が戦闘不能とみなした時点で終了とします。では良いですね……戦闘始め!」


 俺の開始の合図とともに桜対バスケ部の決闘が始まった。
 

しおり