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【新しい生活への第一歩 Ⅰ】

 クラウジウス家の邸宅は、街から少し離れた、小高い丘の上にある。
 貴族の屋敷ということもさることながら。クラウジウス家の先代当主が賢者と呼ばれるほど腕の立つ魔導師だったため、万が一を考え、街から少し離れた場所に居を構えたのだ。
 魔導師の仕事は数あれど、研究や開発も、重要な仕事のひとつだ。研究には実験が伴い、開発にもまた、実験が伴う。
 街中で万が一の事故に気を遣いながら実験を繰り返すより、多少不便でも、気兼ねなく実験のできる方がいいに決まっている。
 若かりし日のクラウジウス公はそう考え、周囲に民家のない広い場所を選んだのだ。
 広大な敷地を埋め尽くす見事な庭をテラスから見下ろし、真白はもう何度目になるかもわからない感嘆の溜め息を漏らす。

 真白がこの世界に飛ばされてから、一ヶ月近くの月日が流れていた。

 こちらの生活に馴染むまでいろいろあったが、いまこうして穏やかな気持ちでいられるのは、周りにいる人たちのお陰だ。
 足繁く王宮へと通い、女王アデライートと秘密裏に交渉を重ね、真白のこの国での身分証を手に入れてくれたベゼル。
 おどおどすることしかできないでいる真白に、縮こまらなくてもいいのだと根気よく教えてくれたレヴィ。
 それから、こちらの世界の知識や常識を、惜しみなく教えてくれた人々。
 なかでも、クラウジウス家の家令(ハウス・スチュワード)を勤めているイザドは、出会いが衝撃的だったせいか、やたらと真白を気に掛けてくれていた。

(ワンピースに見えるよう、頑張って整えたつもりだったんだけどな)

 一ヶ月前の騒動を思い出し、真白はクスリと小さな笑い声をあげる。
 あれはそう。真白がこの世界に飛ばされてきた日の翌朝の出来事で――……。

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