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【レヴィ・クラウジウス Ⅵ】

 真白のような性格の娘には、遠慮するなと言っても無駄だ。ますます気にするだけだろう。

「違う世界……」

「なんだ? 言いたいことがあるなら言っちまえ」

 相方の言葉に反応してぴくんと小さく身動ぎした真白の頭を、レヴィは遠慮するなと軽く撫でる。
 ぎこちなくレヴィを見上げ、それから優しく微笑むベゼルを見て。

「う……ん。いまさらなんだけど、わたし、どうして言葉で困ってないのかなって」

 真白が、小鳥めいた仕草で小首を傾げる。
 言われてみれば、確かにそうだ。初対面からお互い、なんの問題もなく言葉を交わし、意思の疎通が果たせている。
 真白のいた世界と自分たちの住む世界と言語が同じだなどということは、いくらなんでもあり得ない。

「――……ああ、そういやそうだな。ベゼル?」

 魔導具絡みのことは曲がりなりにも魔法使いに聞くのが一番だろうと相方の名を呼んだレヴィにつられ、涙に濡れた瞳が、不思議そうな色を湛えてベゼルを見つめる。
 幼い子供のような、小動物のような、あどけない仕草。
 女の年はわかりにくいが、ひょっとしたら真白はまだ年端もいかない子供なのかもしれないと、レヴィはもてあまし気味だった華奢な身体を、ひょいと抱え直す。
 年頃の女などどう扱っていいかわからないが、子供ならば話は別だ。孤児院にいた頃、さんざん面倒をみてきている。

「う~ん。たぶんだけど、『界渡りの魔導具』には言霊の術式も付与されてたんだと思う」

 真白の視線を受けたベゼルが、確かに見たはずの術式をなんとか思い出そうと首を捻る。
 (ゲート)が浮かびあがっているのは確かに見た。他にも見覚えのある術式が幾つかあったが、ものがなんだったのかは、調べてみないとわからない。
 見覚えのない術式の方が圧倒的に多く、わかるものをまず書き出して推測していくしかないが、おそらく。モノが『界渡りの魔導具』だ。
 界を渡った者がつつがなく活動できるよう、補助的な魔法が幾つも組み込まれていたはずであると、ベゼルが自信なさげに告げる。

「魔導具っていうのはそもそも、魔法を使えない人を補助する為のものだしねえ。界を渡った先でも困らないよう、いろんな術式を組み込んであったんじゃないかなあ。ものっすごい早さで、ものっすごい数の術式が展開してったし……。うあー……アレを全部、拾いださなきゃなんないのかあ」

 記憶を辿るうち、目の前で展開していった術式のすべてを自分が調べ出さなければならないことに思い至ったのだろう。
 ベゼルが、徐に頭を抱えてうんうん唸り出す。
 レヴィは魔導具について、それほど詳しくはない。
 役に立つ便利な導具。その程度の認識だ。
 術式も読めなければ、魔法使いたちのように、見ただけでソレがなんの魔法を組み込まれた魔導具なのかの区別もつかない。
 渡された魔導具の力を存分に発揮することは得意だが、ほとんど感覚だけで使っていた。
 術式がどうのと唸るベゼルを手伝ってやろうにも、知識がまるで足りていない。
 ならば無理に手伝おうなどとは考えず、自分にできることをするまでだ。
 そう結論づけたレヴィはうんうん唸る相方をあっさりと見捨て、寒そうに毛布に包まっている真白に着替えをさせてやるべく小柄な身体を抱えあげると、ベゼルを置き去りにして応接室を後にしたのであった。



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