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「テンセー、ねえ、テンセー、起きてっ!」

茉耶華に体を揺すられて、典正はうっすらと目を開ける。

「ああ、茉耶華……敵は?」
「カッパみたいになった頭を抱えて、泣きながら逃げていったわよ」
「ふふ、そうか……無事で……良かった」

ヨロヨロと身を起こした典正は、茉耶華の頬を指先でそっと撫でた。

「なんだ、泣いてるのか?」
「泣いてなんかいないわよ」
「強情だなあ」

典正がふっと笑息を漏らしたそのとき、どこに隠れていたものだか、真山がコソコソと歩み寄ってきた。

「あ、あの~」

典正が飛び起きる。
その表情は冷たく、視線は真山を射殺そうかというほどに鋭かった。

「何をしに戻ってきた?」
「え、いやぁ、茉耶華ちゃんは大丈夫かなって、心配になって」
「ふん、帰れ」
「ええ……」
「たとえ先輩であろうと女性を、それも心憎からず思っているヒロインを置き去りにして戦場から逃げ出すなど男としてあるまじき恥じ入るべき行為! よくもおめおめと戻ってこられたものだ!」
「だ、だって、相手は本物の刃物を持った、しかも集団だよ! そんなの、普通の高校生にどうにかできる相手じゃないだろう!」
「たとえ普通の高校生であろうと、たとえ非力であろうと、俺は……守るべきものを見捨てて後悔に生きるよりも、守るべきもののために命を懸けるっ! そういう生き方をしたい!」

茉耶華がほうっとため息を漏らす。

「テンセー、かっこいい……」

典正はそんな茉耶華の肩を引き寄せて、その小柄な体を守るように腕の中に閉じ込めた。

「たとえ仮とはいえ、かわいい妹を貴様のような男に渡すなど兄の名折れ! 茉耶華のことはあきらめて、さっさと帰るがよい!」
「ええ、でも、でも、せめて茉耶華の気持ちを聞いてからでも……」
「見苦しいぞ! アマンド、こいつの記憶を、茉耶華を好きだったことまで含めて全部消してやれ!」

チビドラゴン型のアマンドは、鋭い爪の先を真山の額にちょいと軽く当てた。

「合点承知の助!」
「はぐぁ!」

真山が膝から崩れ、気を失って大地に伏せるのを見届けた後で、典正は自分の腕の中にいる乙女に視線を下す。

「茉耶華……」
「テンセー……」
「俺の強さを見ただろう。俺こそ、異世界に召喚するにふさわしい人材だと、そうは思わないか?」
「ぬわ! こんだけ盛り上げておいてそれ? テンセーなんか嫌い!」

腕の中から繰り出されたアッパーカットに顎をえぐられて、典正は大きく吹っ飛ぶ。

「ぐあ!」
「異世界に転生したかったら、私を倒してから、そういう約束でしょ!」
「きびしいなあ、わが妹(仮)は」
「カッコ仮とか、余計なこと言うなぁっ!」
「はっはっはっはっは! いいさ、いつかおまえを倒す、その日を楽しみに待っていろよベイベー☆」

茉耶華が大きく振りかぶって、特別強烈なパンチを典正の腹に叩き込んだ。

「異世界に転生したいなんて寝言は、私を倒してから言えっつーのっ!」
「おげふぶぁ!?」

そんなほのぼの(?)とした二人の様子を見守るドラゴンの瞳はあくまでも優しいものなのであった。

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