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 テーブルの上には、ヴァージルの残した一つの実包と、一枚の紙切れが残っていた。

 重い頭を振り、無理やりに視線を反らす。どんなことを言われても、どういう風に考えても、今は「復讐」という言葉を思い出したくなかった。

 ヴァージルが去ってから、日が沈んで昇るだけの時間が過ぎている。夜更かしをしたつもりは全くないのだが、寝不足特有の体のだるさが残っていた。

 眠りが浅かった。悪夢を見ては目を覚まし、もう眠りたくないと思いながら睡魔に襲われる。そんな一晩だった。

 グレッグ・ブリュー。

 あの男の夢だ。

 目からは殺人鬼の薄ら笑いが。鼻からは血と硝煙の匂いが。右足からは激痛が。両手からは体温を奪われそうな金属の冷たさと、想像を上回る銃の重さと──どうしようもない震えが。

 夢を見ているときの恐ろしさもさることながら、なによりもつらいのは、震える四肢を抑え込むようにしてベッドで丸くなって目が覚める、あのやりきれなさだ。

 これはきっと、いつまでも続く。あんな出来事を忘れるなんて、僕には想像することすらできない。

 殺人鬼が死んだところで、それは変わらないだろう。

 ため息を吐きだす。復讐代行なんていう蜜に釣られるのがバカだったのだ。そんなことをしたって、なんの意味もない。僕の記憶は消えたりしないし、問題はなにも解決しない。

 用事を済ませて、気分が落ち着いたら、ヴァージルに連絡を入れよう。

 僕はもう二度と、あの男を自分から思い出したくない。




 少し鮮やかすぎただろうか。

 墓石の上に花を供えるとき、そうやって自問するのが癖になりつつあった。

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