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第21話 衝撃の事実、再び

「ところで、二人とも。随分王宮に馴染んで、知り合いも増えたと思うが」
「はい。王妃様やレイナ様が差配して下さって、少しずつ人の姿で顔合わせをしています」
「この間、随分な人数の方と、顔を合わせたわよね。庭師の人達は猫と人間、両方のシェリルを知っているし」
「猫と同一人物だとは、知られていないけど」
 そう言ってクスクスと笑い合った二人に、クラウスは尚も問いかけた。

「その……、他に顔を合わせないといけない人物は、残っていないかい?」
「他に?」
「誰か挨拶しないといけない人がいたかしら?」
 そこで真剣な顔付きで考え始めた二人だったが、ほぼ同時に口を開いた。

「ねぇ、シェリル……。私、今、とんでもない事に気が付いたわ」
「エリー……。私もたった今、怖すぎる可能性を思い付いたの」
 そこで強張った顔のエリーシアと血の気が失せた顔のシェリルが、思わず互いの手を握り締めながら叫んだ。

「ひょっとして、王宮に来てから、まだ国王陛下に挨拶していないかも!?」
「絶対してないわ!! どうして? すっかり挨拶した気分になっていたのに!?」
「それはあれよ! 到着初日に王妃様にご挨拶して、何となく陛下にも挨拶を済ませた気になっていたのよ!」
「でも、どうして今の今まで、誰も言ってくれなかったの!?」
「そうよ! シェリルのれっきとした父親なのに、おかしいじゃないですか?」
 二人揃って勢い良く向き直ってクラウスに訴えると、彼は漸く気付いてくれた事に安堵して、零れ落ちた涙をハンカチで拭き取っている所だった。

「それが……、陛下は視察からとっくにお戻りだったんだが、王妃様が『二人が自分から気付くまで、放置して構いません。それ位は当然でしょう』と仰られたものだから、これまで誰も君達に余計な事は言えなくて……」
(ミレーヌ様、やっぱり十七年前の事、未だに物凄く怒っているのね)
(文句無しに後宮一の実力者。やっぱり侮れない……)
 思わず項垂れた二人に、クラウスが控え目に声をかけた。

「それで……、そろそろ陛下と顔合わせをして貰えないかな?」
「分かりました! カレンさん、侍従長さんに大至急、取次をお願いして下さい!」
 話を聞くなり慌てて立ち上がり、シェリルは隣の部屋に控えているカレンに話すべくドアに向かって駆け出した。その背中を見やりながら、エリーシアが溜め息交じりに尋ねる。

「誰かから何か言われました?」
「『全然姫に存在を思い出して貰えない』と、いじけて仕事が捗らないと宰相殿が……」
「ご苦労様です」
 不憫な国王の傍近くに使える者達の心情を思って、エリーシアは思わず頭を下げた。すると扉越しに、カレンの楽しそうな声が微かに伝わってくる。

「あら姫様、もうお気付きになられたのですか? あと半年位は放置して良いかと、王妃様とも申しておりましたのに」
 そんな容赦のない事を言った女官長の高笑いの声が響き、エリーシアは国王に対して(執務棟ではともかく、後宮では存在感も威厳も無いのね)と、憐憫の情を覚えた。

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