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第20話 衝撃の事実

 ジェリドの衝撃的な求婚から数日後。予めエリーシアに話を通しておいたクラウスが、二人の部屋を訪ねてきた。

「シェリル、後宮での生活はどうかな?」
 クラウスからの呼称は、当初「シェリル姫」だったが、エリーシアに対するのと同様の口調で会話して貰える様に、シェリルが頼んだのを受け、少々躊躇ったものの「内緒にしてくれよ?」と茶目っ気たっぷりに断りを入れてからは、気軽に話しかけていた。そんなクラウスを珍しく人の姿で出迎えたシェリルは、彼に笑顔で言葉を返した。

「はい、皆さんとても良くしてくれます。随分慣れてきたので、日中人の姿で過ごす時間も少しずつ増やしていますけど、やっぱりまだ服を着て過ごすのが慣れなくて……。お天気の良い日は猫の身体でひなたぼっこをしたいですし、寝る時は猫の状態じゃないと落ち着きません」
「それは仕方がないかな? 少しずつ慣れていけば良いさ」
 困ったような表情のシェリルを眺めながら、苦笑したクラウスがそう述べると、ここでエリーシアが思い出した様に言い出した。

「ところでどうして父さんは、王宮専属魔術師長を辞めたんですか? 昔から王宮にいる方にさり気なく聞いてみても、何かトラブルがあって辞めたという話は聞かなかったもので。静かな所で、魔術の研究を極めたいからとかですか?」
「一言で言えば……、アーデンが王妃様に失恋したのが理由だ」
「はぁ?」
「はい?」
 真顔で尋ねられたクラウスは、微妙に顔を引き攣らせてからポツリと呟き、それを聞いた二人の目が点になった。それを見て再度溜め息を吐いてから、彼が付け加える。

「言っておくが冗談ではないから。ミレーヌ様が陛下とご結婚された後、引き合わされた時に、一目惚れしたそうだ。勿論、アーデンと王妃様は全く関係が無いから、そこは誤解しないで欲しい。アーデンの一方的な片思いに過ぎなかったから」
「あの貧相な父さんが?」
 もの凄く疑わしそうにエリーシアが言い返した為、クラウスは溜め息を吐き、シェリルが盛大に非難の声を上げた。

「エリー、酷い! 見た目は関係ないじゃない!」
「だってあの気品と自信に満ち溢れて、人望を一身に集めている様な王妃様とは、どう考えても不釣り合いよ。それに魔力や魔術の腕前は一級でも、見た目押しが弱そうで容姿も平々凡々で、舌先三寸で丸め込まれて有り金全部持っていかれそうな人で、実際にそうだったもの。街に出た時に、何度露天商に二束三文のガラクタを売りつけられそうになって、その都度私が撃退していたか! 王宮専属魔術師長って言うのもおじさんだったら分かるけど、父さんにそんな威厳なんて皆無よ」
 それを聞いたクラウスは、どこか遠い目をしながらしみじみと述べた。

「すこぶる冷静な人物評価は、間違っていないとは思うが……。アーデンが反面教師となって、エリーはそんなに逞しく育ったか……」
「大体父さんは王妃様に一目惚れなんて間抜けな事をした挙げ句、『俺はこれ以上あの方の近くで過ごすなんて耐えられん』とか何とか一人で盛り上がって、職務を放り出して出奔したって事じゃない。とんだヘタレよ」
 そんな風にエリーシアが問答無用で父の行動をぶった切った為、クラウスは旧友を不憫に思って項垂れ、シェリルはうっすらと涙ぐんだ。

「エリー。あいつにはもっと色々と、深い葛藤があった筈で」
「お義父さん、可哀想……。泣く泣く身を引いたのに」
「陛下が相手だから、身を引くのは当然。個人の感情なんて置いておいて、職務を遂行するのがプロでしょう?」
「やっぱりエリー、男の人に厳しい!」
 肩を竦めたエリーシアに、シェリルが更に涙ぐんで何となく会話が途切れてしまった所で、クラウスが恐る恐る口を開いた。

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