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第16話 異母妹登場

「あなたがシェリル?」
「ミリア、呼び捨てはおやめなさい。こちらはあなたの姉に当たるシェリル姫ですよ? シェリル姫、礼儀がなっていなくて申し訳ありません。娘のミリア・フィーレ・エルマインです」
 遅れて侍女が連れて来た娘を、レイナが恐縮気味に紹介した為、シェリルは笑って挨拶した。

「初めましてミリア様。シェリルです、宜しくお願いします。今まで義姉と二人暮らしだったので、弟と妹ができて嬉しいです」
 率直に自分の気持ちを述べて頭を下げたシェリルだったが、対するミリアは自分の目の前のテーブルに腰かけている黒猫を見下ろすなり、そっぽを向いて言い放った。

「冗談でしょう? 私の身内に猫なんか居ないわ」
 あからさま過ぎる彼女の態度に、さすがにレイナが声を荒げた。

「姫にはれっきとした事情がおありです。さあ、ちゃんと姫君を、姉上として敬う言動をなさい。そして謝罪を」
「冗談じゃないわ!!  どうして猫を『お姉様』なんて呼ばなきゃいけないの! どう考えてもおかしいわよ!!」
「ミリア!」
 レイナの顔が一層険しくなったが、そのミリアの堂々とした物言いに対してシェリルは怒りなどは覚えず、寧ろ感心した。

「ミリア様の言う通りです。いきなり『実は十七年前に行方不明になったあなたの姉が、猫の姿で生きていました』なんて言われて、『そうですか、仲良くします』とすんなり納得する方がおかしいです。ミリア様の反応は、寧ろ当然です」
「はぁ、そう言って頂けますと、こちらとしては気が楽ですが」
 恐縮しながらレイナが頭を下げる中、まだ硬い表情をしているミリアに、シェリルは平然と笑いかけた。

「ですから、ミリア様は私に対して敬語を使わなくても良いですよ? 人の言葉を喋る、ちょっと変な猫が王宮に住み着いた位の認識で結構ですので」
「……ちょっと」
「どうかされましたか? ミリア様」
「かけられていた術式は解除できて人の姿に戻れるのに、どうして猫のままなのよ。それに私がぞんざいな言葉遣いをしているのに、そっちが私を様付けで呼んで敬語を使っていると、私が物凄く傍若無人な人間に見えるじゃない」
 ミリアから、そんな半ば八つ当たりじみた事を言われたシェリルは、困ったように首を傾げた。

「これまでは殆どを猫の姿で過ごしてきたので、人の姿でいるのが落ち着かないので、少しずつその時間を長くしている所です。今は王妃様に楽器の演奏を教えて頂いている時と、テーブルマナーを身に付けながら食事をする時位は、人の姿に戻っていますが。それから言葉遣いに関しては、王族の方どころか貴族の方にもお目にかかった事がない生活でしたので、正直誰にどういう言葉遣いで喋れば良いか、咄嗟に判断できないもので」
「それは……、確かに仕方が無いかもしれないけど」
「『この国の歴史も覚えて貰います』と王妃様からお話があったので、もう少ししたらミリア様と一緒の先生に付いて、歴史を教えて貰います。その時は人の姿で講義を受けますので、宜しくお願いします」
「……歴史?」
 そう言って律儀に頭を下げたシェリルだったが、それを聞いたミリアは何故か盛大に顔を引き攣らせた。しかしそれに気づかないまま、シェリルが話を続ける。

「はい。この国の建国史から始まって、周辺国との交易や地理、文化なども一通り頭に入れておく必要があるそうです。王妃様が『ミリアはあなたより年下ですが、既に何年も前から師に付いて学問を修めています。色々教えて貰って下さい』言われました。何か分からない事があったら、教えて頂けると助かります」
「えっ、ええ。まあ……、私に分かる事であれば、教えてあげない事もないわよ?」
「ありがとうございます」
 多少口ごもりつつ了承したミリアに、シェリルは笑って礼を述べた。しかし普段ミリアが歴史の教授から逃げ回っているのを知っている侍女達は、笑いのツボを見事に刺激されてしまい、それから一見和やかな雰囲気で始まったお茶会の最中、おっとりしたシェリルと気が強いミリアのやり取りを耳にしながら、必死に笑いを堪えていたのだった。

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