1-2-7 女子寮の主戦力?パワーレベリング?
焼きたてのトンテキを19枚持って女子寮に向かった。
高畑先生を呼んでもらい、オークが食べられて美味しいという情報を流す。
案の定料理部と違って、眉間にしわを寄せ、不快感を目一杯出している。
うん、これが普通だよな……俺おかしくないよな。おかしいのはやっぱ料理部の面々だよね。
「先生の気持ちは言わなくても解る。でもこの世界の常識ではオークは安価でとても美味しい優良な食材なんだそうだ。俺も恐る恐る食べたんだけど、もうそんな些細なこと気にならないほど旨かった!」
「些細な事って……心情的に凄くデリケートな事よ?人によってはトラウマになって、今後お肉を食べられなくなる子とかいてもおかしくないレベルじゃない?」
「そうだけど、実際ここから町を目指すにしても、草原を越え森を抜けて狩りをしながら行かなきゃ、非常食だけだと心もとないよね?豚と同じような食材があれば随分助かると思うんだけど。今回19枚ステーキにして焼いてきたから試しに食べてみてほしい。食べる食べないはその人の自由にすればいい。肉も食べなきゃ力が出ないから、町まで食べない子が持つかまでは知らないけどね」
とりあえず熱いうちに食べさせて感想を聞く事にした。
「凄く美味しいわ!うちも今後オークは食べることになりそうよ」
「全員食べたのですか?」
「4人食べたくないと拒否した子がいるけど、強要する気はないので放置してあるわ」
「その方が良いですね。どうしても腹が減れば食べるかもしれないし。逆にそれでも食べずに飢えを我慢するのもその子の選択です」
「厳しい事言うのね」
「この世界はそういう所なので、適応できない者は死ぬだけです。うちのグループから許可が出たので、塩と胡椒、包丁と砥石、まな板とフライパン、ガスボンベとコンロを渡しておきます」
「ありがとうと言いたいとこだけど、これを渡してくるという事は。合併の話は無しという事かな?」
「そうですね、基本無しという結論です。やはり女子寮の先輩たちにも自活してほしいそうです。俺的にもレベルが上がって落ち着いた後に年長面してあれこれ口出しされるのは嫌ですからね」
「そんなつもりは全くないわよ。世話になるのだし無条件で従うつもりよ」
「それは危機感がある今だからですよ、落ち着いた後はどうか解らないでしょ」
「午前中に頑張ってレベルアップしたけど。レベル8までしか上がらなかったわ。普通のオークには楽勝で勝てるようになったけど、まだ足りないのよね?」
「足りないですね……レベル10ないとジョブが取れないですから。ジョブというのを取っているのと無いのとでは圧倒的に戦力が違うのですよ。特に魔術師や回復職の大事なMPに関しては消費量や最大量が大幅に改善されるので、無いと厳しいです」
「あの、白石君!レベルが10になるまででいいから助けてくれないかな?」
「あなたは?」
どこかで会ったと思うのだが……誰だっけ?
「パーティーリーダーをしている、高等部3年の岡村絵里よ」
そうでした……今朝救出した時にこの人メインパーティーにいました。
「そっちの構成と皆のレベルを教えてもらえるかな?」
「剣士2・槍1・斥候兼遊撃1・魔術師2・回復1よ。一応あなたの意見を参考に斥候職を入れて探索魔法で随分楽になったけど、なかなかレベルが上がらないのよ。全員レベル8よ。あなたたちのレベルを良かったら教えてほしいのだけど?それと子供がいるようだけど?中等部の子?そんな子を入れて大丈夫なの?」
「悪いけどそれはちょっと言えない。俺の敵になりそうな奴が男子寮にいるので公表するわけにいかないんだ。舐めて襲ってこられても嫌だしね」
「あ~、例のアイツね。その事でもちょっと相談なんだけど。井口さんの所に男子寮に来いって、しつこくメールやコールがあって困ってるのよね……」
「ブラックリストに入れれば拒否できるだろ?それになんで井口さんは佐竹の所に行かないんだ?付き合ってたんだろう」
「あなたマジでそれ言ってるの?彼女から何も聞いてないのね?彼女はあなたの為に
「あーストップ!俺には後付けの理由なんかどうでもいい事だ。俺は現実主義者なので事実しか見ないし、信じない。彼女のプライバシーもあるから、これ以上は言わないけど。でも、井口さんが自分でなんとかするんだね」
「あなた、随分冷たいのね……」
「兄様は冷たくなどありません!真実を知らない人が兄様をどうこう言う資格はありません!」
「真実って……あなたは私たち以上に他に何か知ってるの?」
「知ってても第三者がどうこう言う資格は無いですね。当人が決める事です」
『……マスター、オークコロニーが動き出しました。う~ん、これなら大丈夫そうですね……60頭程の雑魚だけです。上位種は居ません。偵察部隊?様子見でしょうか?』
『オークだけで60頭か?それともゴブリン混成で60か?』
『……すみません、混成で90頭程です』
『解った、ありがとう』
「兄様?どうされました?気に病む必要などないですよ!」
「桜、ゴブリン混成90頭程のオークが降りてきてる。各拠点に連絡を入れ戦闘態勢をとるように指示してくれ。ゆっくりだから、おそらく下まで来るのに30分後ぐらいだ」
「解った、すぐに連絡するね」
「兄様が静かだと思ってたらそっちの警戒でしたか……変に気に病んでなくて良かったです」
「少しの時間考え事をするので、一人にしてくれ」
了承を得る前にさっと皆から離れた。
さてどうするかな、この際これを利用して女子寮のレベ上げやっとくかな。
その前に……。
【魔法創造】
1、【フェイク】
2、・ステータス表示を好きなように偽装できる
・鑑定魔法を受けた場合での表示も偽装できる
・5つのパターンを設定保存でき、発動時に選択する事が可能
3、イメージ
4【魔法創造】発動
さて、今回はレベルの表示とHP・MPのステータスバーの数値の表示を目隠ししとくか。
バー自体は出しとかないと回復が困るからな……よし、これでいいだろ。
「A班集合!女子寮組はちょっと遠慮してほしい」
「龍馬よ女子寮の者を遠ざけて何をする気じゃ?」
「今更上位種の混じってないオークとか俺達の敵じゃないから、女子寮とレイドを組んで一気にレベ上げしてやろうと思ってね」
「やはりのう、ククク。優しいのぅ」
「ですね。はぁ、どうせこうなると思ってました。兄様の事ですし……」
意味ありげに幼女組がニヤケ顔だ。なんかムカつく。
「龍馬君て必ずブツブツ文句言うのに結局助けに入るんだね……菜奈ちゃんの言ってることがなんとなく分かるわ」
「菜奈が何て言ってるんだ?」
「“なんだかんだ文句を言っても兄様はヒーロー気質なので、自分から面倒事に首を突っ込んで行ってしまう”そうよ。今回も何時間も話し合って様子見って決まったはずなのに、結局助けちゃうのね」
「いや、ヒーロー気質とか無いからな!桜が反対するなら、何もしないよ!見捨てるし、助けない!」
「何おっきい声で誤解されそうなこと言ってるのよ!女子寮の皆さん違うのです!私なにも反対とかしてませんからね!龍馬君ちゃんと誤解といてよ!私の事スンゴイ目で女子寮の先輩が睨んでるじゃない!」
「桜、いいからこっち来い!」
ちょっと涙目の桜を黙らせて軽く注意事項を説明する。
「今回ステータスに偽装を施して、女子寮にはレベルや数値は見えないようにしてある。物理防御の【プロテス】は張っておくけど、シールドは使わないので回避は十分に気を付けて行う事。それと未来ちゃんに負担が行くかもだけど上位種は居ないので、HPバーが60%を切ったら回復頼むね」
「解りました!」
桜だけは“偽装って、あなたもう何でもアリね”とか言っているが、面倒なので無視だ。
「兄様、私はどうしたらいいですか?」
「菜奈は無詠唱でいいが、多重詠唱は無しだ。魔法自体はオークにバンバン撃っていい。ゴブリンには無しだぞ。この部隊は様子見で、後で本隊が来るかもしれないからな」
「フィリアも無詠唱は無しで、出来れば例の水剣剣舞で無双してほしい。桜と薫ちゃんも無双モードで瞬殺してくれたらいい」
「「「了解」」」
「あ!そうだ、出来ればオークは首を切断して、できるだけ綺麗に殺して欲しいと茜から要望があった。生きてるうちに首を落とすと綺麗に血抜きが出来るんだって。全部倒したら逆さに吊っててくれるとなお有難いって言ってた」
「茜らしいけど、吊ってる1時間は無駄に出来ないわね。首切りだけ注意するわね」
自分達のPTに偽装を施し、レイドPTを組んで女子寮のレベル上げをする事にした。
「岡村先輩、パワーレベリングしてあげますので、何もしないで後ろで戦闘を見ていてください。もうすぐこっちに来ますが、放っておくと格技室に真っ先に行くでしょうからこっちに釣ってきます。中庭の広い場所に待機しておいてください」
「白石君ありがとう、助かります」
「本名はタカナシです。以後そう呼んでください」
ゴブリン混成オーク90頭を20分ほどで狩り終えた。だが体感的には1時間ほど使っている。
40分はレベルアップ時に白黒世界でスキル構成の指導や、【亜空間倉庫】の必要性を教えてあげたのだ。
戦闘後にも、連携のとり方や周辺情報、敵の勢力などを教えてあげた。
「小鳥遊君、なんかおかしいんだけど?気のせいかな?」
「何がですか?」
「私たち午前中に40体程狩ったけど、レベルは2つしか上がらなかったわ。今回レイドPTなので一人当たりに分配される経験値ってもっと少なくなってるはずよね?なのになんで私たちレベルが5つも上がってるの?」
そうなのだ、今回俺が1レベルUp、料理部A班が2レベルUp、薫ちゃんとフィリアが3レベルUp、そして女子寮組は揃って5レベルUpしているのだ。
だが言える訳がない、俺がいると経験値5倍とかバレタ日にはパラサイトされるのは目に見えている。
これだけは最重要機密にしないといけない。
「よく分かりませんね?うちはいつもこんな感じでしたよ?だよな桜?」
「そうね、いつもこんな感じよね」
「う~ん、何か隠してそうだけど教えてくれないのでしょ?」
「知らない事は教えられませんよ。それから俺たちはこの後薬草採取に向かいますけど、岡村先輩たちはどうします?」
「勿論同行させてもらうわ。調合の仕方も夜に教えてくれるのよね?」
「ええ、こっちも初めてなので調合が成功するとは限りませんけどね。それで良ければ3人程寄こしてください」
「3人だけなの?」
「道具も必要ですから、大人数でこられても賄いきれません。3人に教えますので成功した場合はちゃんとメモして帰ってそっちでその3人が教えればいいでしょう?」
「えーと道具って、何がいるのかな?」
「理科室にあったフラスコとか試験管ですね」
「調理室も理科室の備品も学校の共有財産だよね?そっちだけで独占するのはずるくないかな?」
「そういうズレたアホな事を言う奴が必ずいると思ってたので、本当は黙ってるつもりだったんだよな」
「龍馬君!」「兄様!」
2人に同時に腕を引っ張られ止められてしまった。
「アホな事とは随分ね、協力してくれてる事には本当に感謝してるけど、共有財産に関してはやはり納得できないわ」
「クククッ、龍馬の言うとおり滑稽じゃの。今さっきまでその価値すら解っておらなんだくせに、龍馬に価値を教えてもらった後になってズルイから寄こせとはのう。共有財産とか言っておるが、こちらの世界では手元を放した時点で権利は無くなる故、ここにある物全てこちらの世界の法でいうなら早い者勝ちじゃ。拾得した者の物じゃから今は龍馬が権利を持っておる。物の価値も解っておらぬのじゃ、龍馬にアホと言われて当然じゃの」
ぐうの音も出ないようだ。流石元女神様、フィリアかっこいい!
「俺たちが確保したのは中等部の物だから、高等部の調理室と理科室に行ってみたらまだあるんじゃないか?そっちも俺が後で回収する予定だったけど、欲しいなら別に譲ってあげるぞ?調味料なども残ってるんじゃないかな?他の拠点組が行動してなかったらの話だけどな」
「龍馬君ホント!あの、私たちガスボンベとかの使い方わかんないんだけど、薬草採取の前にちょっとだけでいいので手伝ってくれないかな?」
「小鳥遊君からレベルアップして龍馬君呼びになってるし……」
「くっ!こうやってまた兄様の偉大さが世間に知れ渡って、菜奈の敵が増えていく」
桜と菜奈がブツブツ言ってるが、関わると面倒そうなので放置だな。
「こうやってちょっと関わるとあれやこれや注文してくるから嫌だったんだよ」
「ごめんね、でもガスボンベとか適当に扱うと危険でしょ。お礼はそのうち何か考えるので助けて」
うっ、急に穏和になったかと思ったらお姉様オーラが!
上目遣いで可愛くおねだりされたら断りにくいではないか!
中等部の子と違って高等部の3年生はもう発育しきってまさに今が旬なのです!
それはみずみずしくて美味しそうな果実に見えるのです!
「もう!龍馬君早くいくわよ!」
「ちょっと桜!俺は手伝うとも何も言ってない」
「なんだかんだ言いつつ行くんでしょ?だったら時間の無駄!さっさと器具を回収して薬草を取りに行きましょう」
「分かったよ、さっさと済ませよう」
「先輩たちに言っておきますけど、本来うちが総取りする予定の物です。うちにない物や有用な物があった場合こっちで頂きますからね。その辺は先に言っておきます」
「解ったわ、城崎さんもしっかりポイントは押さえてくるのね」
「当然です!調味料やガスボンベなんかは町に着くまでの生命線です。回復剤もそうですね。それを作るための機材も消耗品ですので本来いくつあっても困る物じゃありません。それを分け与えるのですから、こちらに有利な配分じゃないと納得できません。不利な条件なら作成法を秘密にして独占してもいいくらいです」
「初めて桜がかっこよく見えた!」
「龍馬君、それ酷くない?」
「成績は常に上位で、スポーツも万能でケチのつけようがないぐらいの女だって噂だったけど、実際戦闘は直立不動でダメダメだったし、料理に関してもちょっと怖いぐらい逝っちゃってるし、正直、あれ?って思ってたんだよな」
「うっ~、別にいいけどね!」
理科室と調理室はまぁ、無事だった。まぁと言うのは、生徒の回収が無かったと言う事なのだが、食材はオークに少し荒らされていた。砂糖は全滅していたが、それ以外は半分程が使えそうだ。塩も胡椒も手に入ったので問題ないだろう。
20人くらいが町につくまでの間持てばいいのだ。
砂糖は食堂を占拠したときに大量に確保できている。少しぐらい分けても問題ない。
「良かった!龍馬君ありがとうね!桜ちゃんもありがとう!」
「私まで城崎さんから桜ちゃんにレベルアップしてる……」
「でも調味料やガスボンベなど、兄様以外気付いてないのが笑えますね!流石です兄様!」
「正直に言うと、女子寮の方でそんな話まったくでなかったわ。一人くらい気付いてもおかしくないのになんでだろ」
「今は今日を生き残る事で精いっぱいなのじゃろう。災害食に飽きがきてやっと調理室に気づくレベルではないのかのう」
「そうか、そうだよね……おかげで少し余裕が出来そうよ本当にありがとう」
女子寮の主力メンバー全員から頭を下げられ、ちょっと照れくさかったが悪い気はしなかった。
さぁ、今日の本命の薬草採取だ……皆を引き連れ森に分け入るのであった。