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1-2-6 オーク食べる?食べない?

 フィリアの性欲の話でちょっと混乱気味になったが、そのうち検証する必要がありそうだ。 
 知らないまま男子が排卵周期の女子に不用意に近づいたら、本能のままに襲いかねない。

 この世界の住人はどう対処しているのか気になるところだ。

 思案に暮れていると茜がやってきた。

 「龍馬君、オークを1頭もらえるかな?」
 
 「う~ん、言おうかどうか迷ったけど、やはり言っておくべきだと思うので、この件も今から皆で決めてほしい」 

 「なに?まだ何かあったけ?」

 「昨日も言ったけどフィリアが町への移動の際には、オークが主食になるだろうと言ってたと少し話したよね?桜は覚えてる?」

 「ええ、覚えているわよ。オークが食材として美味しいのなら、食糧事情は緩和されるわよね?」
 「そうなんだが、俺はちょっと食いたくない!」

 「龍馬君は豚肉嫌いなの?それとも食わず嫌いとかなのかな?」
 「兄様は、豚肉好きですよ?なぜでしょうか?」

 「菜奈も中庭で見ただろう!あいつら生で人間食ってるんだぞ!人を食ったオーク食えるのか?俺はちょっと抵抗がある……一応俺が最初に狩った人を食ってないだろうと思われるオーク十数頭は別枠で確保してあるけど、それ以降のオークは怪しいので俺は食いたくない」

 「あ~、そういう事ね。確かにそう言われたらちょっと抵抗あるかもね……私も実際、中庭で見ちゃってるし」

 「そんな事言いながら、桜はどう調理しようか、既にいろいろ考えてるんでしょ?」
 「うっ、茜にはお見通しか」

 「え!桜とか茜は平気なのか?」
 「平気ではないけど、食べる物がないなら食べるわよ?いい機会だから皆も一度食についての課題だと思って考えてみて。課題は、そうね……目の前にある食料はついさっき怪我で死んだ新鮮な私。10日程水だけで凌いできたけど、もう皆餓死寸前。さぁ、そういう設定で私を食べるか食べないか考えてみて」

 「お前なんて設定でヤバイ事言ってるんだよ!」

 「実際似たような事があって、映画化にもなってる話よ。今後そういう事があるかも知れないし、人を食べたオークとか温いわ。ちなみに私の結論は勿論食べるよ。自分が生きるために美味しく調理していただきます。逆に私が死んだ場合は美味しく食べてほしいわね」

 「お前まさか食人願望とかある奴なのか!」
 「違うわよ!餓死寸前の極限の状態での話でしょ!私をなんだと思ってるのよ!」

 「キチガイ料理部の総大将(食人願望有)!」
 「ちょっと!なに( )内がヤバい事になってるの!無いから!」

 
 それからオークを食べる派と食べない派の派閥が出来た……勿論俺は食べない派だ!

 だが食べない派はわずか4人しかいない。
 この部やっぱおかしい!菜奈まで食べる派に行ってしまってる。
 既に変態料理部に洗脳されてしまってるんだ……可哀そうに。

 「ちょっと龍馬君、声漏れてるんですけど」

 「未来ちゃん、沙織ちゃん、唯一料理部でまだかろうじて正気を保ってる沙希ちゃん。俺たちだけでも人として生きような。食人鬼の仲間入りしちゃダメだぞ」

 「兄様、それは言い過ぎです!食べるのはあくまで豚さんです!」
 「豚さんて……確かに豚みたいだけど。う~ん、料理部と一般人でこうも考えが違うのは桜や茜の影響なんだろうな……」

 「無理に食べなくていいわよ!他にも食材があるうちは食べる必要ないし」
 「でも龍馬君、私に1頭渡してね」

 「茜はもう食べる気なんだな。解った、人を食べてないだろう方のオークを渡すので、解体と調理は茜に任せるよ。俺も一度食べてから決める事にする。塩コショウでただ焼くだけの物も用意してくれるか?合併しなかった場合の女子寮の主食になるだろうからな」

 「そうだね、解った。じゃあ、2頭出してもらうわね」

 

 「オークについては一度実食をするという事で、今日の昼食にでも出してもらうな」

 「「「はーい」」」
 
 「次は高まる性欲の事だが、性欲が高まるのって、男は匂いを嗅いだ時だけなのかな?」
 「いや、個人差はあるが男は3~5日程出さねば溜まってムラムラするそうじゃぞ?それでも出さずに我慢しておると夢精とかで勝手に出てしまうそうじゃ」

 「なんだ、それなら男はそう変わらないんだな、安心した」
 「甘いぞ龍馬よ、周期は同じでもムラムラ度は3倍じゃ!どうしても我慢が出来ぬようなら早めに妾に相談するのじゃぞ?」

 「相談したら、何とかなるのか?」
 「プロポーズされた妾が夜伽してやると申しておるのじゃ。みなまで言わせるでない!恥ずかしいではないか!」
 
 「「「キャー!プロポーズですって!」」」
 「兄様!プロポーズって何ですか!」

 「いやいや、俺、全然心当たりないよ!何の事かさっぱりだ!」

 女子どもが騒ぎ出したが俺にはマジで心当たりがない。

 「酷い奴じゃ!あれほど妾をメロメロにしておいて、なんて奴じゃ!」

 『……マスターが悪いですね。“フィリアは俺が守る。菜奈とともにこの世界で幸せにしてあげるよ”』
 『あ!プロポーズって!解ったからナビーもう止めて!俺の網膜にその時の動画を直接リピート再生しないで!』

 なんて恥ずかしいことを……ナビーの奴、動画で保存してやがった!
 そういえば、全てを記録してるユグドラシルシステムにナビーはアクセスできるんだった。

 「フィリア、俺が守るとか言ったやつの事か?」
 「そうじゃ!ちゃんと覚えておるではないか!」

 参ったな、ずっと面倒は見るつもりだけど10歳にしか見えない子に恋愛感情は流石に無いぞ。
 とりあえず放置して、忘れるのを待とう作戦で行くか。
 好きか嫌いで言えば好きとしか言いようがないしな。
 美人になるのは確定だからフィリアはキープという事で“光源氏計画”だ。

 「フィリア、あれで兄様にメロメロになったんだ……」
 「ん!チョロイン!幼女属性持ちは危険!」

 「まぁ、フィリアは俺が守るけど、そういう話はもっと大人になってからな」
 「なにか誤魔化されてる気がするのじゃが、まぁよかろう。それよりどうするのじゃ?」

 「夜は俺は今晩から華道室で寝ることにする」
 「正直龍馬君が居ないと不安なんだけど……」

 女子一同が頷いてくれてるが、流石に皆がいる横では性処理が出来ない。
 
 「桜がオナニー手伝ってくれるならそれでもいいけどな」
 
 「う~んと、えと……あの……」
 「冗談だって!真剣に悩むんじゃない」

 「ん!私が手伝ってあげる!」
 「兄様!こういう時こそ菜奈をお使いください!」

 「龍馬先輩、私もOKです!」
 「いや沙織ちゃん、それ絶対排卵周期の影響受けてるから!君が今俺にとって一番危険人物だから近寄らないでね!」

 いくら治療行為と言っても、お年頃の沙希ちゃんが俺に警戒心が薄かったのはこの影響があったのかもな。

 『……それもありますが、例のマッサージがあまりにも気持ち良いのではないでしょうか?高まった性欲以上の快楽で性欲は打ち消していたようにも見えました』
 
 『あ~、確かにあれはヤバイくらい気持ちいい』

 「とにかく俺は隣で寝るからな!襲っていいなら別だけど」

 「解ったわよ。皆もそれでいい?」

 仕方ないという顔で了承している感じだ。俺だって本当は美人さんたちと一緒に寝たいのだけどね。
 性欲3倍とかどれくらいかわかんないから、最初は別で寝かせてもらいます。

 「でもそれだとこの世界の性犯罪ってかなり酷くない?」

 「そうでもないのう、女を襲うのは盗賊や一部の金持ちや貴族連中ぐらいじゃの」
 「性欲が強いのに犯罪が起きないっておかしくないか?」

 「こちらの世界の刑罰が重いのじゃ。犯罪履歴は調べればわかるゆえ、皆そうそう罪は犯さぬ。其方らの世界と違ってこちらの世界では直接神が関与して、世界に顕現しているからの。嘘やごまかしが通用しないのは皆知っておるのじゃ」

 「ちなみに強姦罪はどんな感じかな?」
 「チョッキン刑じゃ!」

 思わず押さえてしまった。チョッキン刑とは恐ろしい。

 「なるほど、気を付けるよ!うん、俺、絶対大丈夫だ!」

 

 「龍馬君?この後A班はどうするの?B班と交代?それとも待機とかかな?」

 「俺達A班は午後から周辺の森で薬草採取だ。理科室から持ってきた器具で回復剤と魔力回復剤、解毒剤が作れるそうだ」

 「それもフィリア情報?」
 「ああ、そうだよ。いると便利だろ?こちらの世界の情報は、俺たちは全く知らないからね。ホント助かるよ」

 「そうね、フィリアありがとうね」
 「このような事しかできぬがな、それに全てを知ってるわけでもないのであまり期待はせぬようにな」

 「B班は拠点護衛で居残ってほしい。C班は雑務と自販機の中身の抜き取り作業だ」

 「龍馬先輩!私も行きたいです!ダメでしょうか?」
 「薫ちゃんか、でもそれだと前衛が綾ちゃんだけになって、こっちが弱くなるよな」

 「ん!私が残って自販機の抜き取りを手伝う!」
 「あ~そうだったな。雅は経験者だったか。じゃあ、抜き取りの指導とここの護衛は任せるな」

 「ん!任された!」

 「じゃあ、薫ちゃんは午後から採取組の方ね」
 「はい!雅ありがとう」

 「ん!薫も強くなってほしい!」

 「雅は可愛いな!クンクン……うん、いい匂いだ!癒される!」
 
 雅は同級生にもちゃんと配慮してるよな、見た目8歳にしか見えないのに、気の利く良い子だ。


 
 茜に急かされてオークの解体が行われたのだが、正直見るのも気合がいる程だった……かなりグロイ。

 「まずは血抜きからね。首や手足の血管を切って逆さに吊って血を出すの。そうしないとどんなものでも美味しくないわ。勿論魚もよ」

 これは外に行き、植木に【魔糸】でぶら下げて行った。
 1時間程ぶら下げて、血を絞り出したが、料理部的には生きてるうちに血抜きしたいそうだ。

 「次は内臓を抜く作業ね。内臓はどこまで食べて良いのかが謎よね」
 「フィリアその辺はどうなんだ?」 
 
 「こちらの世界の住人は内臓はあまり食べないのう。じゃが、レバーやハツは旨い筈じゃぞ。腸でソーセージもできるし、オークは捨てる部位などあまりない筈じゃ。豚と同じ扱いで問題ない」

 「時間も無いし、今回はレバーとハツだけにしましょうか」

 アバラを外し、背骨を抜く。そして肩甲骨を外して手足を分離さす。大腿骨も抜きモモ肉も取れた。
 心臓の近くから、パチンコの玉くらいの小さな丸い球が出てきた。
 
 「それが魔石じゃ。オークは大体その位置にあるのじゃ、覚えておくといい。ギルドカードがあれば、魔獣の討伐数は倒した時に自動カウントされるのじゃが、登録していない者でも、魔石をギルドに持っていくと討伐証明になり、魔石自体も安いが換金してくれる。オークは肉の方が値が良いがな」



 「見てよこれ!豚なのに凄いさしよ!肉の色はピンク色の豚のようだけどさしは牛のようね」
 「なんか肉になってから見れば美味しそうだな……」

 茜と桜はすでに美味しいと結論付けているような感じで、どう料理するか話し合っている。

 「決めたわ、今回は肉の旨味を見る為に塩コショウだけで味付けするわね。それと新鮮なのでレバ刺しと、ハツは塩で串焼きにしてみるわ」

 「フィリア、肉の熟成期間はどのくらいなの?」
 「こちらの住人にはまだその概念はないのう。食べられる時に食べるのが基本じゃ。冷蔵庫とかいう便利な物もないゆえな。じゃが豚と同じ故、3日程ではないかのう」

 「そか、今日はもう無理だからこのまま食べちゃうね」


 なんだかんだで実食が始まった。

 「旨い!なんだこれ!豚のステーキ、所謂トンテキっていうやつだよな?スーパーで2枚500円程で売ってる豚と違うんだけど!レバ刺しも旨い!レバ刺しってもう食えないよな?俺、牛のレバ刺ししか食った事無かったけど豚も旨いな!ハツの塩焼きもコリコリして美味しいよ!」

 「ん!美味しい!」
 「兄様!これはヤバイです!事案発生です!」

 「フフフ、どうかな龍馬君。生姜焼きは冷えて残念だったけど。今回のは塩にこだわってみたわ。宮古島産の雪塩というのを使ってみたの。素材を殺さないのにミネラル含有率は世界一でギネス公認よ」
 
 「めちゃくちゃ美味しいよ」

 「でも桜、これイベリコ豚より美味しいよね?ジェネラルのお肉で生姜焼きとかどうなるかな?フィリア、上位種の方が美味しいのよね?」
 
 「茜が言うように上位種になればなるほど美味しいようにできておる。ジェネラルはオーク種の中じゃ3位に位置づけされておるから相当旨かろうな。ジェネラルのお肉ももオークション扱いの品じゃな」

 「龍馬君、夕飯にするからジェネラル出しなさい!」
 「まだ、さっきのオークが残ってるじゃないか。茜さっき夕飯はスペアリブとか言ってただろ?」

 「目の前に美味しい食材があるのに、待てるわけないじゃない!」
 「でも茜、肉は熟成させてからの方が良いんじゃないか?料理部的に……」
 
 「それもそうね、ちょっと衝撃的な食材に出会えて我を失ってたわ」
 「この時期、常温だと熟成は厳しいだろうから、血抜きと熟成は俺に考えがあるから任せてくれないか?」

 「大丈夫なの?凄く貴重な食材なのよ?失敗とかしたら、私チョット怒るかも知れないよ?」
 「茜、ちょっと怖いって!」

 「龍馬君たちにここで再度質問。人を食べたかもしれないオークジェネラルを食べる?食べない?」

 「桜、食人鬼とか言って悪かった。旨いは正義だ!俺は決めた、ジェネラルを食う!食わないと気になって一生後悔しそうだ。どんな味だったんだろうって後で悔やみそうなのは必然だ。俺は食うぞ!」

 「私も食べてみます!やっぱり気になります!このお肉より美味しいかもしれないジェネラル食べてみたいです!それに、皆がジェネラルトークで盛り上がっているときに、話題に入っていけないのは凄く嫌です!」
 
 「ん!沙希もやっぱり料理部!食の衝動には抗えない!」

 「私も気になりますが、やはり躊躇してしまいます」
 「私もちょっとまだ分からないです。でもこのお肉は凄く美味しいです」

 茶道部二人は迷っているようだ。
     
 「無理はしなくていいのよ。変なトラウマとか出来ちゃっても嫌だしね。食べるのがこれしかないならともかく、本当に無理する必要はないからね」

 「はい、桜先輩ありがとうございます」

 
 「ふぅ、御馳走様でした!今まで食った豚の中で一番美味かった!茜、19枚分肉はまだあるか?薬草採取の時に女子寮に届けてくるよ。塩焼きなら森で薪を拾ってくればできるからな。包丁数本とまな板、フライパン2枚、塩とコショウを分けてあげるけどいいか?」

 全員から了承を得たので、少しだけ分けてあげる事にした。

 「悪いが今回の分は焼いてあげてくれるか?」
 「ええ、そのつもりよ。少し待ってて、すぐ焼くから」

 焼きたてを随時インベントリに放り込み、冷めるのを抑えた。

 「皆、食休みはもういいか?じゃあ、予定通りの行動を取ろう。何かあったら直ぐ飛んでくるけど、雅、防衛は頼んだぞ」

 「ん!いってらっしゃい!キノコもよろしく!」


 今後必要になると思われる回復剤の材料を取りに森に向かうのだった。ついでにキノコもね。

しおり