バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

1-2-3 女子寮の危機?フィリア無双?

 現実世界に戻り、上位種っぽい2回りほど大きな個体に鑑識魔法をかけて確認する。

 やはりオークジェネラルだ……今回の集団には他にもオークナイト3、オークアーチャー6、オークプリースト3、オークマジシャンが2体混じっている。
 
 上位種の中でも特にプリーストが厄介だ……高確率で【マジックシールド】を持っていて、無詠唱に近い形で順次追い掛けしてくるから、皆シールドを削り切れないで苦戦している。

 「雅、桜、後ろで守られてる3体がプリーストだ!やつらが随時シールドのリバフをしてるから他の上位種も倒しきれない。オークは守ってるやつらの足も遅い……今から3人で突っ込んで足で攪乱して、先にプリーストを倒すぞ」

 「解った!」
 「ん!了解!」
 
 「菜奈、合図をしたら右のプリに10連魔法で攻撃。雅と桜は菜奈が倒しきれなかった場合はリバフされる前に2人がかりで倒してくれ。俺は守りに来るだろうナイトやジェネラルの相手をする。2人とも今回は防御の事は考えないでいい。手数でとにかくシールドを壊して殺す事だけに集中してほしい。お前たちのシールドは俺が必ず切れる前にリバフするので、信じて殲滅に集中してくれ」

 「「「了解」」」

 「じゃあ、今から特攻する!菜奈は俺の魔法発動と同時に撃ち込んでくれ」


 俺は中級魔法の【ウィンダラ・カッター】レベル10を左のプリーストに連射する。それに合わせて菜奈が中級魔法の【サンダラ・ボール】レベル3の10連を右のプリーストに発動。

 俺の方は仕留めたが、菜奈の方は削り切れなかったようだ。プリは慌ててリバフしようとしていたが雅が間一髪阻止し、桜と両サイドから挟んで滅多切りにした。

 この辺が無詠唱との差だな、ちょっとした攻撃でも体に当てれば詠唱を止められるのだ。
 ノータイムで発動できる無詠唱の凄さが実感できた。 

 シールドが壊れた瞬間に雅が喉を切り裂き、桜も心臓に剣を差し込んでいる。
 桜も連戦でかなり経験を積んだせいもあってか、雅との連携もできているようだ。

 俺はというと、雅たちを阻止しようと割って入ってこようとしてたナイト3体を相手に奮闘中だ。

 シールドの掛かったナイト3体は厄介だと思っていたら、いいタイミングでフィリアが中級魔法の【アイスラボール】でナイト1体の足を地面に凍らせ足止めしてくれた。

 魔法の直接攻撃はまだシールドがあるので削り切るまでは無駄撃ちになってMPが勿体無いが、足止めに地面と一緒に凍らせるのは今回のように有効だ。フィリアは流石に上手く立ち回れている。

 「雅と桜はそのままマジシャンの方の攻撃に移ってくれ。俺はこいつらを相手にしながらプリーストに連弾魔法を入れる」

 最後のプリーストに【ホーミング】機能で首に狙いをつけ連射魔法を入れ首を落とす。
 これで敵側のシールドが追い掛けされる事は無くなった。

 「シールドを張る厄介な奴はいなくなった!後は焦らずゆっくり削ればいいから無理しないでやってくれ。菜奈とフィリアは魔法節約で襲ってくる奴の近接戦に移行して数を減らしてほしい。未来ちゃんと沙織ちゃんは女子寮に入って怪我人の回復を始めててくれ」

 「「はい!」」



 「龍馬よ!魔法でこのような事もできるのじゃぞ!」
 「おおお!すげー!フィリアそれどうやってるんだ?」

 「ふふふ、後で教えてやろう」

 フィリアに武器として杖を渡そうとしたんだが、“そのような物要らぬわ。それは未熟な者が魔法発動の補助具として使う物じゃ。妾には必要ない”と言ってショートソードを装備していたのだが、今、目にしているのはフィリアの両手から3m程の細い水の剣が伸びているように見える。

 石切り場の高水圧で石を切ってる水のような感じなのだろうか?それに触れた瞬間スパスパとオークが切断されていくのだ。フィリアの近接戦闘はまるで舞子が舞っているようでとても優雅で美しい。只、見た目が10歳の子供なのでどうしてもシュールな絵面になってしまうのは仕方ない。

 俺は魔法でアーチャーを倒しながらナイトを削っていった。
 雅と桜のコンビも順調に2体マジシャンを倒している。
 フィリアは菜奈を守りながら無双していて、雑魚をどんどん減らしている。

 魔法を節約させている菜奈は、へっぴり腰でショートソードを振り回しているが、オークとゴブリンを数体倒しただけであまり戦果は無いようだ。

 後で剣術の熟練度を上げた方が良さそうだな……魔力が枯れた時の防衛手段がないのは芳しくない。

 
 ここで、良いタイミングでレベルアップだ。

 「皆お疲れ!『未来ちゃんそっちはどうだ?』」

 PT解除してないので、女子寮内で白黒世界状態で待機中の2人とPT内通話で話す。

 「1人矢と魔法にやられ、前衛をしていた人が亡くなられたそうです。それ以外の人は回復に間に合い現在治療中です。矢が刺さったままで結構深手の人も居ましたので、私のMPも枯れそうですが、死亡や部位欠損者に成りそうだった人ももう大丈夫そうです」

 「矢を抜かなかったのは正解だな。もし俺たちが来る前に抜いてたら、場所によっては出血死もあったかもしれない。亡くなった娘は気の毒だが、よくこれだけの上位種に囲まれて犠牲者1人で凌げたものだ」

 「高畑先生が言うには、後3分遅れてたら持たなかったって、すごく感謝されました」

 玄関の鉄の扉が壊されてからは、じり貧だったようだ。
 死人が出たのは残念だが、こちらにも都合があるので仕方がない。
 他のパーティーの事より、まずは自分たちの安全が最優先なのだ。

 「今回レベルが上がったのはまたフィリアだけか?」

 確認すると俺以外の全員がレベルアップだそうだ。

 「そうか、今回結構上位種を倒したんだけど、このレベルになってくると低級魔獣のオークじゃ俺たちのレベルも上がらなくなってきたな」

 「兄様、言われたとおり剣術をレベル3にしました」
 「やはり近接もないと【多重詠唱】を使うとMPがすぐ枯れてしまって、その後の防衛手段が無くなるからな」

 「その【多重詠唱】って言うのが気になるんだけど。どうしても内緒なの?」

 「何度も言うが、俺たちのスキルや知られて不利になる事は悪いが聞かないでほしい」
 「前に言ってた対人対策なのよね?」

 「そうだ、どこで誰の口から洩れるか分からない。言った言わないで疑心暗鬼に陥るなら、最初から言わない方が良い」

 
 『……マスター、さっき倒したナイトが面白いスキルを持っていたようです』
 『なにか良いスキルを奪えたのか?どれどれ……【嗅覚鑑識】これかな?』

 『……それです。その魔法で対象の匂いを嗅ぐことでいろいろな情報を得られるようですね。嗅覚の鋭いオークならではの種族魔法ですね。獣人は稀に持ってますが人族では珍しいです』

 『鼻の良いオークの種族魔法なのか?おお!これ個人香の効果とか解るんじゃネ?体調やある程度の病気も解るのか……俺の【ボディースキャン】と併用したら医者いらずだな』


 後で皆の匂いを嗅いで鑑識してみよう。



 「そうじゃ、龍馬よ。庭の遺体だが、オークもゴブリンも含めて早めに焼却処分をせぬと危険じゃぞ」
 「あ、それ知ってる!中世とかでよくあった疫病がおこるんだよね?」

 「菜奈の言うとおりじゃが、それだけじゃないのじゃ」

 「一番多いのがペストだろ?あと炭疽病、黄熱病、天然痘とかもあるよな。夏じゃないだけましだろうが、腐敗が進むと怖いよな」

 「ん!龍馬物知り!かっこいい!」

 「そうなんじゃが、それだけではないのじゃ!この世界では遺体は焼くか首を落とすか頭を潰しておかないと魔素の強い場所では高確率でゾンビ化するのじゃ!」

 「なによそれ!マジで怖いんですけど!」

 桜がマジビビりしている……ホラー系は苦手なようだ。

 「この学園がある場所は異常に魔素が高い、それ故ここに学園が転送されてしまったというわけなのじゃが。はやく燃やさねば次はオークじゃなく、かつてのクラスメイトを滅せねばならなくなるぞ?」

 「それは流石に嫌ね。後で皆で話し合いましょ」
 「そうだな、学園内のすべての遺体になると結構大がかりになるから、各拠点からも人を出してもらった方が良いかもな」

 「それと龍馬よ。女子寮の者を華道室に呼んであげたらどうじゃ?」
 「あ、それいいかも。ねえ龍馬君、部屋はあるんだし呼んであげましょうよ」

 「面倒を見切れないから、合併はしないと話し合いで先に決めたじゃないか」
 「でもこの先も、今日ぐらいのオークの集団がやってきたら女子寮はヤバイのじゃないかな?」

 「それも含めて最悪見捨てると話し合ったんだろ。今更何言ってるんだよ」
 「兄様、そんな事言ってますけど菜奈は知ってますよ。どうせ今回みたいに助けに来るのでしょ?なら最初から隣に囲っとけばいいじゃないですか。最初からそうしてれば今日みたいに犠牲者が出る事も無かったんですよ」

 「何を迷っておるのじゃ?どうせ助けに来るのじゃろ?そなたの考えてる事はあの部屋で散々覗いたゆえ解っておるのじゃぞ」

 俺を見ながらニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべて、そうのたまいやがった。

 ビシッ!ちょっとムカついたので可愛いおでこに軽くデコピンをくれてやった。

 「ンギャ!何をするのじゃ!痛いではないか!」

 「兄様?井口さんが女子寮に居るから拒否されているのですか?」
 「菜奈、確かに俺の前であんな事をしたんだからお互いに顔を合わすのは気まずいけど、それを理由に他の者まで拒否するような事はしない。あくまでお前がこのエリアから安全にかつ迅速に脱出出来ることが優先だ。それ以外の人の事は俺的には二の次なんだ」
 
「その事も戻ってから皆でもう一度話し合いましょ?私も知らない上級生の食事まで作りたくないわ。でも見殺しにするのも気分的に嫌だわ。華道室を貸して生活圏は別とかにして、防衛戦の時だけ共闘とかなら良くないかな?」

 「自分たちだけ旨い物を食って、桜は知らん顔できるのか?俺にはできないぞ……」

 「兄様、料理部の食に対しての執着は半端じゃないですよ。幼い子供でもないかぎり、分け与える事は無いでしょう。かく言う私も知らない上級生に分け与える気はないです」

 「ん!食材は死ぬほど怖い思いをして得た私たちの権利!あげたくない!」
 「私も食材は料理部だけのものだと思います」
 
 「未来ちゃんもなの?え~っ沙織ちゃんも?」

 「料理部で食材を分けてあげようとかいう殊勝な娘は、薫ちゃんと沙希ちゃんぐらいじゃないかな?それと美弥ちゃん先生」

 「どっちもまだ日の浅い1年の子か。1年後には茜色とか桜色に染まるんだな……同じ1年の雅は?」
 「うまい事言ってもダメよ。ちなみに雅はどっぷり頭まで料理部に浸かってるわ」

 「拠点に帰ったら女子寮の事は一度皆と話し合うか……」


 女子寮と合併とかになったら面倒だなと思いながら、戦闘再開だ。

しおり