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 だからといって、のんびりしている暇があるのかと言えばそんなことはない。

 元々の速度が違うのだから、当然のことだ。シルヴィはもう一度空を見上げ、太陽の位置から方角を推測して進むべき方向を見定めると、北へと進路をとって走り出した。

 ロランの移動能力を考えると、夜半すぎにはアンブシュールに辿りついてしまう。その前に、シルヴィは彼の前に立ちふさがる必要があった。


   *


 聖典に曰く、神は全知全能の存在である。

 世界を創り、生命を創り、その全てを細部に至るまで支配していた。支配に飽きると、創りだした数多の生命ひとつひとつに意志を与えるということまでやってのけた。

 それだけを聞けば、なるほど、全知全能でなければできないことではある。

 しかし現状、世界のカタチが完全とは言い切れない。

 強すぎる意志は〈悪〉を生み、神の加護は一部の人間のみが受けられる。

 教会の近くでうまれたものと、そうでないもの。二者の間に生じた差を、前者は信仰心の有無による区別といい、後者はいわれのない差別と嘆く。

 人口数十人、という規模の小さな村で生まれ育ったシルヴィは、言うまでもなく神の差別に苦しむ人間だった。

 赤い髪を馬の尾のように揺らして、シルヴィは森を貫く道を駆ける。

 左右をふさぐように立ち並ぶ木々の他には、空と雲くらいしかない景色だ。距離感を維持し続けるのは難しく、太陽の昇り具合──あるいは沈み具合から時間を読んでだいたいの距離を計算するしかない。

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