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 すでに、日はかなり高いところまで昇っている。〈悪〉が活発化する夜を避けて眠ったとはいえ、「朝」というには少々遅すぎた。

 朝から昼までの間は眠ることができたと軽く考え、シルヴィは体をほぐしてから土が露出した道に出る。慣れてもいない野宿に準備なしで挑んだ割に、調子はそれほど悪くない──もっとも、その程度のことで音をあげていられる状況でもないのだが。

 頭上から降り注ぐ陽光に目を細め、シルヴィは道の先を睨む。村を焼かれてから、シルヴィの歩く方角は変わっていない。

 〈悪〉と同じように理性を欠落させてしまったかつての師、ロランを追い続けてすでに三日。

 疲れることもなく進み続ける存在を追うことは、生身なうえに手負いのシルヴィには厳しいものがあったが、あのような状態になったものが近づく場所といったら目星がついた。

 破壊衝動を解消するにはちょうどいい、多くの命を殺せる場所が近くにある。

 港町アンブシュール。大陸の北端に位置する商業の中心地だ。

 広い流域面積をもつリヴィエール川の河口に位置するために、荷物の運搬などに陸路が利用されることはほとんどない。代わりにシルヴィの歩く街道──というには少々素っ気ないが──は、周辺の村とアンブシュールを繋ぐ最短のルートとして活用されている。量よりも速さを求める場合や、大きな儲けを狙わない個人の行商人が利用する程度のものだが、その地理的特徴はシルヴィにとってありがたいものだった。

 人目に触れる可能性が少ない。何より人の足で進むには最適の道だし、うまくいけばアンブシュールの手前でロランの進路に先回りできる。

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