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ⅩⅩⅩⅡ

「どうして…明日のはずじゃ…」
レイチェルが困惑した表情を浮かべる。
「どうしてって、俺だって人間だからな。それに、誰も三日に一度来るとは言ってないじゃないか」
にやにやとしながら男が近づいてくる。
一歩づつ足を進めるごとにぼこぼこと骸骨が出てくる。
「さてと、どう葬られたい?埋葬か?火葬か?それとも、鳥葬?まぁ、お前らの最後ぐらい自分たちで決めさせてやるよ」
アイリスは仲間を呼ぼうとするが声が出ない。
震える足でその場に立つことが精いっぱいだった。
「“ネクロアーミー”」
葬儀屋の一言を皮切りに骸骨が二人に襲い掛かった。
「第二級“エンジェルアロー”」
レイチェルが呪文を唱えるとどこからともなく光の矢が飛んできた。
そしてそのまま骸骨たちの頭を貫く。
「アイリス!みんなを呼んできて!」
レイチェルの言葉のおかげでアイリスは何とか足を動かすことができるようになった。
アイリスは脱兎のごとく駆け抜けた。
「みんな!大変よ!葬儀屋が来たわ!」
アイリスは仲間のもとにたどり着くとできる限り声を振り絞っていった。
「くそっ、早く行こう!」
ロイは手早くローブを羽織る。
そしてそのままアイリスが来た方向へ走っていった。
仲間たちもその背中を追う。

アイリスが仲間を連れて戻ってくると勝負はもう終盤だった。
両者もその顔に焦りが見える。
「…こっから形勢逆転よ。本気で行くから死なないようにね」
レイチェルは葬儀屋のほうを見て口角を上げる。
「はっ、わざわざまとまって殺されに来ただけだろ」
葬儀屋は短剣を振り下ろす。
地響きとともにアイリスの周りから骸骨が出てくる。
「お前ら全員骨葬にしてやるよ!」
骸骨がアイリスたちに覆いかぶさった。
ゴツゴツと骨同士がぶつかる音が鳴る。
「拒絶…しろ…“リジェクション”!」
レイチェルの声が骸骨の山から響く。
聖なる炎に包まれた骸骨たちがはじけ飛んだ。
「骨葬だか何だか知らないけどね、こんなところで死んでいい人たちじゃないのよ!」
レイチェルの気迫に葬儀屋がたじろぐ。
その隙にネジ子が葬儀屋に飛び掛かった。
「捕まえたぞ、葬儀屋」
葬儀屋は最初こそ暴れていたがやがて観念したように大人しくなった。

「あの像はそいつが言う通り禁書『ゴッドアームズ』だ。中に魂を閉じ込めることができる禁書」
葬儀屋は手足を拘束された状態で話した。
「魂…」
アイリスから言葉が漏れる。
それを見た葬儀屋がニヤッと笑う。
「そう、魂。たとえ生きた人間だろうがこの中に閉じ込められれば死者同然になる」
葬儀屋は楽しそうに言った。
「開放する方法は?」
「像を中心に陣を刻み、そこに呪文を唱えながら魔力を送る。そうすれば中の魂は全部解放される」
アイリスたちはアイコンタクトを交わし、像の周りに陣を刻む。
「ああそれと、解放された魂はここ以外にも散らばる。つまり、この国中の死人が一斉に蘇えることになるぞ。そうなったら国中大騒ぎだ」
葬儀屋はにやにやしながらロイに伝えた。
ロイは葬儀屋につかみかかる。
「お前…」
ロイはそれ以上言葉が出てこない。
ロイは乱暴に手を離した。
「ロイ!準備できたよ!」
レイチェルがロイを呼ぶ。
「ほら、お仲間が呼んでるぞ」
葬儀屋は終始にやついた顔でロイを見ていた。

「そんな…じゃあどうすればいいの?」
ロイの話を聞いたアイリスが絶望の顔をする。
「開放したら国中大混乱…」
もう陣は完成していて後は呪文と魔力だけというところだったのに、いきなり振り出しに戻された。
アイリスたちは頭を抱える。
いっこうにいい案は出てこず、時間だけが過ぎていった。
「くそっ、いったいどうしたらいいんだ」
ロイがそう言って仲間を見る。
全員首を横に振った。
その時、アイリスが何かを決心した顔で皆を見た。
「私は彼らを助ける」
「君、話聞いてたか?」
ロイの言葉にアイリスは頷く。
「たとえ蘇ったとしても、彼らが悪さをすると決まったわけじゃないわ。それに見たことのない人たちよりも近くに困った人がいるならその人を助けるのが当たり前の事でしょう?この人たちを蘇らせて困るようなことがあったなら私たちが助けてあげればいいじゃない」
アイリスは決意のこもった声で話した。
しかし、アイリスの脚は小刻みに震えている。
もしこれで大惨事になったらどうしよう。私たちのせいで国中がおかしくなってしまったらどうしよう。
そんな考えがアイリスの頭をぐるぐると回る。
(そうなったら私たちが何とかすればいい。私たちが決めたことだ)
アイリスは自分に無理やり言い聞かせた。
仲間はアイリスの決意を見てアイリスに協力することにした。

「葬儀屋。呪文を教えろ」
ロイが冷たい目で葬儀屋を問い詰める。
葬儀屋は目を細めてロイを見た。
「“魂の檻よそのカギを今我が手に”」
葬儀屋がそう唱えるとその手に小さなカギが現れる。
「ほらよ、これが“呪文”だ」
無造作に投げられたカギをロイが受け取る。
そのカギは確かに魔力の塊だった。
そのカギを陣の中心に起き皆一斉に陣に触れた。
魔力をどんどん流し込んでいくと陣が光りだす。
「来た!」
アイリスが声を上げながら空を見る。
像から出てくる無数の魂が夜空を飛んでいった。
その生の光はとても美しかった。
やがて、像から最後の魂が出てくると陣は輝きを失い、さっきまでその中心にあった鍵はいつの間にかその姿を消していた。
「これで、私たちは世界に混乱をもたらした大罪人ね」
アイリスが肩をすくめて言う。
「ばれてないなら大丈夫さ」
ロイが珍しくアイリスの冗談に乗っかった。
「さてと、もうこんなところに用はないかな」
ロイがそういうとアイリスが仲間のほうを向いた。
そして一言。
「行きましょうか」
仲間たちは頷いてアイリスの後について行った。

「何をやっているのですか?」
アイリスたちが去っていった後。
禁書の回収をしに来た本屋が手足を拘束された葬儀屋を憐れむような眼で見る。
「いやな、面白い奴を見つけたからちょっかいを出したらこの様さ」
本屋はため息交じりに葬儀屋の拘束を解いた。
葬儀屋は礼も言わずに靄の中へと歩いていく。
「私からしたらあなたのほうがおもしろいですよ」
本屋のつぶやきに反応するように葬儀屋は手を振った。

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