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ⅩⅩⅩⅠ

「ここから出るのはいいけど、まずはあの人たちをどうにかしてあげたいかな」
アイリスはそう言って像を見た。
あいも変わらず像は苦悶の表情を浮かべている。
レイチェルもアイリスに同意した。
「そうね。私も少しの間だけどお世話になった人たちだし、助けてあげましょうか」
「二人がそう言うなら僕も賛成」
ロイが手を上げる。
結局全員一致で助ける方向に決めた。

「しかし、これがどういう像なのかがはっきりしてない以上どうしようもないな」
ロイが頭を抱える。
解析魔法をかけてみてもごく普通の石でできていたし、特別な刻印なんてものもなかった。
「簡単な方法があるわ」
レイチェルが自信に満ちた顔をしている。
「これを置いていった本人に聞けばいいのよ」
レイチェルの提案ははっきり言ってぶっ飛んでいた。
「君はここで寝ている間に頭のほうも鈍くなったのか?あいつがもう一度ここに現れるとは限らないだろ」
ロイの言うことに皆一斉に頷いた。
しかし、レイチェルは顔を変えずに答える。
「彼は来るわ。ここ最近三日にいっぺんはここにきているもの」
レイチェルが嘘をついているようには見えなかった。
「でも、葬儀屋はとても強かったです。勝てる確証はどこにもないですし、勝ったとしても話すかどうか」
「アイリス。面白いものを見せてあげるわ」
レイチェルはそう言ってノーツを発動させる。
「拒絶しろ“リジェクション”」
レイチェルの身体が光に包まれる。
ここまではアイリスも知っている。
しかし、レイチェルはニヤッと笑って更に魔法を発動させた。
「チェンジ、放て“バースト”」
レイチェルを包む光が消え、ごうっとレイチェルを中心にすさまじい風が流れる。
レイチェルはさらに続ける。
「チェンジ、収束しろ“コンバージェンス”」
風がピタッとやみ、代わりにレイチェルの周りを神々しい光の玉が回った。
その後も次々とレイチェルは魔法を発動させた。
その様子はまるで踊りを踊っているようだった。
「彼女が最強と謳われた由縁、彼女独自のノーツ、“チェンジノーツ”だ」
ロイがアイリスに説明した。
アイリスはロイの声など届かないほどにレイチェルに心を奪われていた。
「どう?これでも彼に勝てないと思う?」
レイチェルは少しいたずらっぽく笑った。

次の日の朝。
靄に遮られながら通ってきた太陽の光を見てアイリスは考え事をしていた。
(死の谷に来て三日目、私たちの身体はどうなっているだろう。ちゃんと墓守たちが保管してくれているのだろうか)
「おはようアイリス。どうしたんだ、そんな顔して」
後ろからロイが声をかけてきた。
「私たちがここに来てから三日目よ。そろそろ自分の身体が恋しくなってきて」
アイリスは笑顔を向けるがその顔に若干の不安が見えた。
しかし、ロイはそのことは言わずに隣に座る。
「レイチェルの話通りならあいつは明日ここに来る。それまでに準備をしておきたい」
少し緊張した声でロイが話し出した。
「レイチェルばかりに任せて僕たちは何もしないってわけにはいかないだろ?僕たちもできることはある。それをこなしていこう」
アイリスは強くうなずいた。
アイリスは視線を上げる。
靄に遮られてはっきりとは見えないが太陽が二人を見下ろしていた。

その日の夜、いつになく真剣な表情でレイチェルが話し出す。
「彼が来るのは明日、おそらく夜ね。彼はこの像の様子を見にここを訪れるわ。そこで私たちが襲撃をかける。そして彼からこの像の中に閉じ込められた人たちを開放する方法を聞き出す」
皆、力強くうなずいた。
ロイが作戦の内容を話し出す。
「作戦は至極単純。まず魔法を見られている僕、アイリス、クラーク、ネジ子、アル兄弟が先陣を切る。すると当然相手にはおごりが出てくる。奴はとどめの時にあの短剣を大きく振り上げる、そこがチャンスだ。レイチェルがそこに魔法を叩きこむ」
作戦を話し終えたロイが皆を見る。
質問は出てこない。
ロイの作戦を聞いていると何故か簡単に勝ててしまう気がしてくるのだ。
「まぁ、そんなに緊張することはないわ。彼もそんなに強いわけじゃない。第一彼は魔術師じゃないの、魔法の反撃は飛んでこないから大丈夫」
レイチェルはリラックスするように促した。

「あの、レイチェルさん。今日も魔法を教えてもらえますか?」
会議が終わった後、アイリスはレイチェルに声をかけた。
「ええ、良いけどどうしたの?」
「いえ、明日の作戦で足手まといになりたくなくて」
「そう。じゃあやりましょうか。でも、無理はしちゃだめよ」
「はい!」
二人は少し開けた場所に移動した。
しばらく魔法の練習をする。
アイリスは確実に力をつけていった。
「私、世界を見て回りたくて旅に出ました」
アイリスがポツリとつぶやくように話し始めた。
「数多くの人たちと出会って、色々な体験をして。それで、気が付いたらこんなにたくさんの仲間に囲まれていました。みんなとても頼もしくて私はみんなに頼ってきました。でも、皆が戦っている間、私は無力だって言われているみたいで。だから私はせめてみんなを助けられる力が欲しい。わがままですかね?」
「そんなことないわ。アイリスがそう思っていなくても彼らはあなたを頼りにしているはず。リーダーを頼らないチームなんてないからリーダーは胸を張って堂々と立っていればいいのよ。そうすれば、葬儀屋なんて敵じゃないわ」
レイチェルはアイリスに笑顔で言った。
その笑顔を見ると自然と優しい気持ちになる。
そんな不思議な笑顔だった。
「戻りましょうか」
レイチェルはアイリスの手を引いた。
その時
「今俺の事話してた?」
二人の後ろから声がする。
二人がばっと後ろを振り向くとそこには狂ったように笑う一人の男が立っていた。
「チッ、二人だけか。まぁいいや。昨日の続き、やろうぜ」

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