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ⅩⅩⅦ

「それで?こいつを助けてどうするんだ?」
ロイが質問をぶつける。
「何も助けてくれ何で行っていないだろう。貴様ら人間に助けてもらうほど落ちぶれていないわ」
夜の王はやけに強そうな態度を取る。
「君さ、中身だけ殺すことできるのを知らないのか?」
ロイが怒りを込めた低い声で夜の王に忠告する。
そのことに恐怖した夜の王が身を縮める。
「いや、別にどうこうしようとしたわけではないから決めてはいないけれど、なんか可哀想じゃない?」
アイリスがちらっと夜の王を見る。
夜の王は何かを言おうとするがロイからの視線を感じてやめた。
「墓守たちにどう言い訳するつもりだ?」
「簡単よ。彼にこれ以上悪さをしないように約束させて、墓守には倒したと伝えればいいわ」
「でもそれじゃ、いつかばれるんじゃ」
アイリスたちは真剣な表情で墓守たちに伝える嘘を考えていた。
しばらくして、
「よし、それで行こう」
話し合いが終わりアイリスたちは山を下りる。

「帰ってきたのですね。どうなりましたか?」
山を下りると墓守たちがアイリスたちの帰りを待っていた。
「ええ、無事に終わりました」
アイリスがそう伝えると墓守たちは喜びの声を上げた。
「ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいものか」
「いえいえそこまでの事はしていませんので」
アイリスは謙虚なように聞こえる言い方で事実を述べる。
しかし墓守たちがそれに気づく様子はない。
アイリスはなんだか歯痒くなってきた。
「お礼とかはいいからさ、魂抜きをやってくれよ」
ロイが墓守に言う。
その言葉を聞いて墓守が静止した。
「どこでそれを?」
墓守の中の一人がロイに尋ねる。
「どこでも何も君たちの中の誰かから聞いたんだ」
ロイは墓守たちを見回す素振りをした。
墓守たちがざわつく。
「あなたたち、落ち着きなさい」
墓守の中からひときわ落ち着いた人物が声をかける。
墓守たちは一斉に黙った。
「あなた方が誰に聞いたかは存じ上げませんが、魂抜きは秘術中の秘術。そうやすやすと使うことができないのです」
ロイは予想通りと一つうなずいた。
「でも、僕たちは夜の王の脅威を排除した。君たちはもう罪を犯さなくてよくなったんだ。それの報酬として秘術の一つや二つやってみてくれてもいいじゃないか」
とてつもなくねじ曲がったロイの論理を聞いて墓守は困惑する。
その時だった。
「魂抜きをやって差し上げてもいいのではないでしょうか」
墓守の中の一人が声を上げる。
リーダーのような墓守が彼女を睨みつけた(実際には目のあたりに布があって視線など分からないのだが)。
「なぜそのようなことを言うのですか?」
落ち着きながらも、静かに怒った声でリーダーが聞く。
「彼らは私たちがやってきたことを見たうえで私たちの為に戦ってくれました。その恩義は返さねばなりません」
その墓守の言葉を聞いて周りの墓守たちも次々に賛成する。
リーダーはため息をつき、
「分かりました。ならばあなた方に魂抜きの秘術を使いましょう」
と言った。
ロイは笑みをこぼし、アイリスのほうに拳を向ける。
アイリスは一瞬戸惑ってその拳に自分の拳をぶつけた。
「さてと、ではついて来て下さい」
墓守がアイリスたちを連れて建物の中へ入っていった。
その様子を外で見ていたひとりの墓守。
彼女は目の布を取ってアイリスたちの背中を見ていた。
「アイリスたちはあの景色に耐えられるかしらね」
その視線は我が子を見守る母のように温かい目だった。

「これを飲んでください」
アイリスたちは墓守たちが差し出した粉末を飲む。
アルヴァとアルヴィンは粉がのどにくっついてむせた。
「大丈夫ですか?」
墓守が二人に水を差し出す。
二人は水を一気に飲み干した。
「飲みましたらこの服に着替えてください。この服は私たちの力で清めた法衣です」
そう言って墓守は真っ白な服を渡した。
男女に分かれて着替える。
しばらくして全員が真っ白い法衣に身を包んだ状態で墓守たちの前に現れた。
「それでは準備はよろしいですね?」
墓守の問いにアイリスたちは頷く。
アイリスは少しドキドキしながらも、死の谷とはどういった場所なのかという好奇心が生まれていた。
「では始めます」
数人の墓守がアイリスたちを囲む。
そして聞き取れないほど小さな声で呪文を唱える。
その声はだんだんと大きくなっていき、最終的には部屋中に響くほどの声になっていた。
その墓守の縁の中に一人の墓守が入ってくる。
その手に握られている大きな杖を見て不安に駆られた。
「生の色、死の色、その両者が混ざり合った時境界は曖昧になる。その扉をくぐればそのものは生でも死でもなくなり、この世の理から外れる。あなた方にその覚悟はありますか?」
「「「「「「はい」」」」」」
全員の声がぴったり揃う。
墓守は頷き、大きな杖で床を叩く。
杖の当たったところから魔法陣のようなものが広がり、アイリスたちを包み込んだ。
「これは生を逸脱する鍵である。死へと変わる扉である。今この者たちに生から死へ、死から生へ変わる力を授けん」
墓守はアイリスたちを杖の先でトン、と押した。
アイリスたちはぐるぐるとまわっている感覚に陥る。
その時は一瞬のような気もするし、永遠のようにも感じた。
少しずつ周りの景色が白くなっていき、やがて完全に白に包まれる。
そこにじわじわと黒がにじむ。
そして、急に元の景色に戻った。
円の中心でたくさんの墓守たちに囲まれている。
「失敗かしら?」
アイリスが首をかしげる。
「いや、成功だろうな」
ロイが目で下を見るように促した。
そこには儀式が成功したことを現す証拠があった。
そこに横たわる自分たちの肉体。
まるで人形のように静かに目をつむったまま動かない。
「第三者目線で見ると自分の顔っていまいちね」
アイリスは自嘲気味にそう言った。
「確かにな」
ロイもそれに乗る。
「さて、そろそろ行こうか。最強の魔術師と謳われたレイチェルのもとへ」
アイリスたちは実体のない足でその一歩を進めた。

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