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ⅩⅩⅥ

雷鳴がけたたましく鳴り響く。
その中からまがまがしい空気が流れ始めた。
やがて大きな影が空から降りてくる。
「我を呼んだ者はどいつだ?」
その大きな影から発せられた重い音が心臓に響く。
「私です」
墓守が前に出た。
するとその大きな影が墓守を掴む。
「我を気安く呼ぶとはいい度胸だ。我は『夜の王』。貴様ら人間どもとなれ合うつもりなど毛頭ないわ」
ぎりぎりという音を立てて墓守が締め付けられていく。
「第二級“メガロバースト”」
ロイが夜の王めがけて魔法を唱える。
夜の王の顔にすさまじい衝撃波が直撃する。
その衝撃で夜の王は墓守を放した。
しかし、夜の王を不敵な笑みを浮かべてロイのほうを見た。
「ほう、我に楯突くとは。いいだろう、我の恐ろしさを思い知るがいい」
夜の王は右手をロイに向ける。
ロイが危険を察知して避けるが、遅い。
夜の王の右手から瘴気が流れる。
「ぐあぁぁ!」
その瘴気に触れたロイが苦しそうな呻き声を上げた。
「ロイ!」
「来るな!」
アイリスがロイに近づこうとするが止められた。
ロイの周りには瘴気があふれている。
近づけばアイリスの身も危ないのだ。
アイリスはまたも自分には何もできない歯がゆさを味わうことになった。
その時、ネジ子が突撃していく。
「“スクリューブレイド”!」
走りながらそう叫ぶ。
そしてネジが完全に形を変えたと同時に夜の王に飛び掛かった。
「ふん、馬鹿め」
夜の王はネジ子に右手を向ける。
しかし、ネジ子は瘴気ごと夜の王の右手を貫いた。
「何っ?」
夜の王は後ろへ飛び退く。
「瘴気が効かないとは珍しい人間もいたものだな」
夜の王とネジ子がにらみ合う。
そのすきをついて少し遠くからアイリスがロイに魔法を唱える。
「戻れ“ウルズ”」
ロイの体を包んでいた瘴気が徐々に薄れていく。
しかし、その周りの草木がどんどん枯れていった。
(ごめんなさい)
アイリスは心の中で呟き、ロイのもとへ駆けて行った。
「大丈夫!?」
アイリスが確認すると、ロイが何とか起き上がる。
「くそっ、瘴気出せるなんて聞いてないぞ」
少しイラついた様子でロイが呟く。
(しかし、瘴気ってことは魔物、それもかなり上級のはず。そんな奴がこんな辺鄙なところにいるとは思えないんだよな。じゃあこいつは一体…)
ロイの真剣な顔を見るとアイリスは声をかけられなくなった。

一方ネジ子はまだ夜の王とにらみ合いを続けていた。
夜の王はにやにやとしながらネジ子の出方をうかがっている。
ネジ子はじっと一点を見つめて動かない。
そんな時間が流れていた。
先に動いたのはネジ子だった。
夜の王の頭上へと飛び、勢いよく剣を振りかざした。
夜の王はそれを見事に受け止め横に流す。
ネジ子はそのまま地面に叩きつけられた。
しかし、ネジ子はニヤッと笑う。
夜の王が不思議に思うと、
「第三級“ボマー”」
後ろから声がして振り返る。
そこには夜の王の背中に手を当てているクラークがいた。
ドォン!
けたたましい爆音とともに夜の王の背中が爆発する。
「ぐぉぉ」
夜の王の身体がぐらつく。
「今だ!固まれ“ロック”!」
「共鳴しろ“チューン”!」
アルヴァとアルヴィンが夜の王に追撃をかける。
「ガァァ!」
夜の王が地の底から響くようなうなりを上げる。
「よし、相手が完全に沈むまで攻撃を続けるぞ!」
ネジ子が指揮を執る。
ネジ子の指示通り仲間たちは一斉に攻撃を仕掛ける。
やがて夜の王が動かなくなったのを確認するとネジ子が近づいて行った。
その時、夜の王がネジ子の脚を掴む。
「馬鹿めが」
夜の王はネジ子の脚を握りつぶす。
「ほう貴様、機械か。ならその偽りの肉体がどこまで持つか試してやろう」
そう言って夜の王はネジ子に拳を振りかざした。
部品が宙を舞う。
「やめろぉ!」
アルヴィンが飛び出した。
しかし夜の王は虫を払うかのようにアルヴィンを吹き飛ばした。
「分かったぞ!」
その時、ロイが叫んだ。
「何が分かったの?」
「夜の王の正体だよ!」
ロイはアイリスにそう言って夜の王に向かう。
「煩い蠅が何を言っているんだ。我は夜の王。それ以外の何物でもないわ」
夜の王がそういうとロイが反論する。
「いや、お前は夜の王なんて大層な名前を名乗れるほど強くないだろ。なんたってお前はただのグレムリンだからな」
ロイの口から衝撃の言葉が出てくる。
「ええっ!」
墓守から驚きの声が漏れた。
夜の王はぴくっと反応する。
「奴が憑りついているのはおそらく古代魔法で作られた兵器。その内部にたまった瘴気を放出して戦っていた。なぁそうだろ、夜の王《グレムリン》」
ロイは意地悪く夜の王に向かってそう言った。
皆一斉に夜の王のほうを見る。
夜の王は明らかに焦った様子でロイを見ていた。
「どうした、来ないのか?グレムリン」
ロイがゆっくりと夜の王に近づいていく。
「たとえそうだとしても我は貴様らなどには負けん!」
夜の王がロイに向かっていくが、ロイは素早く夜の王の後ろに回る。
「どこを見てる」
ロイの拳が夜の王に当たる。
すると当たった場所が跡形もなく消え去った。
「一体何をしたんだ?」
夜の王が困惑した表情で自分の体を触る。
「ほら、痛みなんて感じないだろ?」
ロイがもう一度拳を振り上げる。
「止めてっ!」
アイリスの声にロイが拳を止める。
辺りが静まり返った。
「どうした、アイリス。こいつは悪さをしたんだ。懲らしめられて当然だろう」
「でも、彼が憑りついているのは古代兵器でしょ?大戦の貴重な証拠品じゃない。壊してはダメよ」
アイリスが夜の王とロイの間に立つ。
アイリスとロイがにらみ合う不思議な光景に仲間たちも困惑する。
やがてロイがはぁと短いため息をついた。
「アイリスが団長だ。君が決めたことには逆らわないよ」
ロイの言葉を聞いてアイリスが笑顔になった。

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