1-1-22 売店?料理部?
外はすっかり暗くなっていた。生活魔法の【ライト】で足元を照らす。
思っていたより明るくて驚いた……蛍光灯の100ワットクラスの光源はありそうだ。
敵が居たら良い的になりそうだが【マジックシールド】を張っているので、弓矢でも投げ槍でも投げナイフでも防げるので問題ない。
それ以前にMAPで敵が居れば分かるので、問題ないんだけどね。
まずは食堂に向かい、電源コードを切断して自販機7台をそのままインベントリに放り込んだ。
紙コップタイプのやつも3台あったが、それは放置だ。電気が無いと動かないのだ。
ガソリンを入れて発電機を付けてまで使うほど美味しくもないので持っていく必要性はない。
次は売店だ。
シャッターが降りて鍵が掛かってたが、身体強化で上がっている筋力で強引に引き上げる。
フックの鉄が簡単に伸びてあっけなくシャッターは上がった。
かなりうるさくガラガラいわせて上がったが、今の俺なら相当数の敵が来ても簡単に倒せるので問題ない。
むしろ雑魚なら大歓迎だ。
売店はたまに利用していたが、こういう時に来てみると小さいながらにもいろいろ揃っている事に驚きだ。
とりあえず箱ティッシュとトイレットペーパーは全部確保だ。
お菓子類も全て持っていくことにした……いらない物は後で捨てればいい。
ふと目に留まったのが生理用品だ。
これもやっぱり要るよな……あるだけ持っていくか。
こちらの世界の女性はどうしてるんだろ?在庫が無くなった後が大変そうだな。
『……マスター、こちらの女性は布を重ねた物を当てているだけですね』
『うわっ!ナビー、急に声かけるなよ、びっくりしただろ!』
『……ごめんなさい。ちっとも話しかけてくれないので、忘れられてるんじゃないかと思いまして……』
うっ……確かに忘れてたけど。
夜の校舎内は不気味なのだ……いくら可愛いアニメ声のナビーでも、心臓が止まるかと思うほど驚いた。
『悪かったよ……何かあったら声かけるな』
マジックやハサミ、シャープペンや替え芯などの筆記用具も全部お持ち帰りする。
コピー用紙も大量ゲットだ……紙はこっちの世界ではおそらくあったとしても粗悪品だと予想される。
売店内の物はほぼ持ち帰ることにした。
俺的には間違いなく一生使わない物もあるが、製品としてあるのだから誰かが買っているのかもしれない……念のためそういうモノもキープしておく。
売店のレジの後ろにスタッフルームっぽい部屋があるので強引に開けてみる。倉庫になっていて需要の多い品のストックがされていた。ティッシュやトイレットペーパーなどが段ボールのまま保管されていたのでそのまま頂く。生理用品も数社の銘柄が段ボールであったので全部キープした。
お菓子も売れ筋のポテチなどが段ボールで手に入ったのは上々だ。
あれだけ音を出したのにオークはやって来ない。
俺は大量の物資が手に入りほくほく顔で帰還する。
「ただいま」
「兄様おかえりなさい」
「ん!おかえり!」
皆が俺の帰りに安堵した表情で出迎えてくれた。
ちょと嬉し恥ずかしい気分だったけど、こういう出迎えはなんか良い気分だ。
「ん!お菓子あった?オークに食べられてなかった?」
「残念ながらお菓子類は全部食われてた」
「ん、そか、残念……最後にチョコ食べたかった」
ちょっとからかうつもりだったのだが、まじで残念そうなので即バラすことにした。
「雅、嘘だ、全部無事だったぞ。あるだけ持ってきた。チョコもあるぞ」
「ん!龍馬のアホ!」
怒った雅にゲシゲシ蹴られた。
そこまで怒んなくてもいいだろうにと思ったのだが、食い物の恨みは恐ろしいと改めて思うことにした。
「みんな、ご飯出来たよ!」
皆お腹が空いてたのか、待ってましたという雰囲気だ。
「龍馬君、一応試食室に用意したけど、どうしたらいい?」
「ここの方が安全だけど、殆ど今はオークは居ないみたいだし試食室で良いと思う」
「じゃあ、温かいうちに食べましょ」
全員で移動して席に着いた……何故か俺が上座だ。
「龍馬君、冷めないうちに音頭を取ってくれる?」
「え~!?なんで俺なんだよ」
そういうのは、正直苦手だ……。
「リーダーでしょ?」
「うっ、分かったよ……皆、今日はいろいろ大変だったけど何とか生き延びれた。酷い目にあった娘も居るけど、生き残れたことを素直に喜ぼう。いろいろ言わないといけない事もあるけど、せっかく皆が美味しい夕飯を作ってくれたので冷めないうちに食べようか。では、いただきます」
「「「いただきます」」」
「何これ!うめ~~!料理部スゲー!桜たちこれマジ旨いよ!」
「そうでしょ!菜奈の言ったとおりでしょ!美味しいよね?部費2万の価値あるでしょ?」
「菜奈がバイトしてでも辞めない理由解るよ。確かにこれは2万ぐらい出しても良いかも」
「ありがと、美味しそうに食べてもらえると作り甲斐があるわ」
「ネ、ネ、ネ、先生悪くないでしょ?これなら部費2万でも仕方ないよね?」
「その話はもういいです。今は美味しいか美味しくないかの問題です」
「兄様、美弥ちゃん先生をあまり虐めないでください!」
「虐めてる気はないんだけど……」
「すぐ凹むんですからもっと優しく言ってあげてください」
「うわ~ナニそれ、めんどくせ~女」
「ほら!兄様がそういう事言うから、美弥ちゃん先生涙目じゃないですか!」
「うっ、美弥ちゃん先生ごめんなさい」
「私、先生なのに、ぐすん……」
可愛いのだが、冗談ぐらいで直ぐ泣かないでほしいな~。
「ちょっと食べながらでいいから聞いてほしい。今日の戦闘でA班のレベルを安全域まで持っていけた。油断はできないけど、ソロでも皆3匹ぐらいまでなら勝てると思う。なので明日はB班の強化も行う。今日は俺以外皆起きっぱなしで結構な時間が経っているので相当眠い人もいると思う。最初の見張りは俺がやるので、AM2時ぐらいに一度代わってほしい」
「そうか……何も考えてなかったけど、オークが居るのだから見張りがいるわね」
「交代メンバーは、オークが来ても対応できる桜、雅、菜奈、未来の4人でやってもらう。起床は日の出前の5時にする。朝早い理由は、おそらくオークやこちらの世界の人は日の出とともに起きて、寝るのも19時とか21時ぐらいだと思うからだ。寝てるところを襲われたらひとたまりも無いからね」
「確かにそうね。日本人も明かりが無いころはそんな生活してたみたいだし、電気の無い世界じゃそれが当たり前なのよね」
「桜の言うとおり、電気が無いのだからそうするのが当たり前だと思う。【ライト】こういう生活魔法もあるけど、魔力がいるからね。ずっとは使えないし、獲得しないと使えないので皆が必ず持ってるとも思えない。太陽に合わせた早寝早起きが基本だと思うので、皆も明日から慣れる為に早く起きよう」
「解ったわ。皆もいいわね?」
「反対意見も無いようなので明日の起床は5時とします。朝、起きてからでいいので、C班は皆の朝食を作るようお願いします。それとB・C班は寝る前に皆に【クリーン】の魔法を掛けてあげて、MPを50%以上消費してから寝ること。【クリーン】が無い人もなんらかでMP消費して魔力量を増やすために頑張ってね」
「「「はーい」」」
皆が全部MPを使い切った所を襲われると厄介だが、ある程度俺一人で対応できる。
初期の段階から、MP量を増やす事は日課にするように習慣付けた方が良い。
「あ~そうだ。魔法で出した水も鑑識で見てみたら飲水可能だった。むしろ貯水タンクの古い水より良いと思うのでそれに変更します。トイレの水も詰まらない程度に流してOKです。食器洗いはちょっと沢山水が要るので、一度一カ所にまとめておいてから一気に【クリーン】で浄化するように」
「あ!さっき使った調理器具とか普通に洗ってた!」
「お~い。それだとタンクの水、直ぐ無くなっちゃうぞ。桜はもっと頭のまわる娘かと思ってたけど……」
「ごめん、確かにそうだよね。なんでこんな事に気付かなかったんだろ……」
食べる手を止めてしょんぼりしてしまった。
「何もそこまで落ち込まなくても……いや俺が言い過ぎたごめん」
「いえ、こんな地獄みたいな世界で、こんな状況でも料理を作れたのでちょっと浮かれてたのかも」
「たくさん人が死んだし、知人も死んだ。食事中にあれだけど俺のクラスメイトの女の子も中庭で裸で血を流して死んでた。その娘とはとくに話とかした事なかったけど1学期の頃は挨拶ぐらいはしてたから、死体を見た時は胸が締め付けられて吐きそうだった。悲観ばかりだとこの先きついと思う。桜みたいに趣味で少しでも気分転換できるならそうした方が良いと思う」
「先生もそう思うわ、悲観しないで楽しい事を見つけましょ?」
「そうですね、美弥ちゃん先生の言うようにこっちから楽しくなるようにすればいいんだよね」
「あ!ちょっと質問!将来的に料理部とかで味噌や醤油作れないかな?流石に無理かな?」
「まず大豆がこの世界にあるのか分からないでしょ?」
「いや、女神様がいうにはこの世界は日本のラノベやゲームの世界観を意識してコピーした世界らしいので、日本であった食材の原料は全部あるらしい。実際の呼称が同じとは限らないし、食用にされてないかもしれないとか言ってたけど、この世界を創った時点では全て創主様が創ったそうだ。で、さっきの質問の回答は?」
「この娘アホだから、実際中2の時に味噌も醤油も数か月かけて作ってるわ」
「ほんとか茜!うわ~桜スゲー!料理部スゲー!」
「でもあれは失敗ね。どっちも総費用5万掛けて究極の素材を集めたのに、完成品はスーパーの特売品の248円の味噌以下だったわ。プロが数百年かけて試行錯誤で作った味噌や醤油に対抗しようとした私がバカだった。やはり専門職の技術は本物ね」
「桜はああ言ってるけど、素人が作った物にしては十分美味しい物だよ。今の在庫が無くなっても問題ないと思う」
「油とか出来ないか?サラダ油とかラードかな?菜の花から採れるヤツ有ったよな?」
「以前桜が作ったのは菜種油と綿実油、それと胡麻油ね。どれも美味しかったわ」
「あれも失敗よ!買った方が安くて美味しいわ!あれだけ良い素材使ったのに既製品の方が美味しいのよ」
「桜ってやっぱ変態だな。なんでそうなったんだ?いややっぱ言わなくていい、なんか聞きたくない。変態の言い分とかまともなはずがない」
「ちょっとそれ酷くない!変態って何よ!」
「いや、それは茜が最初に言い出したことだからな。というか皆の顔もそう言ってるぞ」
ウンウンと一斉に頷いている。桜はえ~~!って顔だがやはり桜がおかしい。
「あの……竹中先輩も大概だと思うのですが……むしろ城崎先輩より酷いかも」
「綾ちゃん、どういう事だ?」
「城崎先輩が作った菜種油は普通だったのですが、茜先輩はその菜種油を精油して、さらにキャノーラ油にしようとしていました」
「してたって事は?」
「素人が精油とかちょっと無理があったわ」
しれっと茜がそう言った。こいつも桜と同類じゃん!
「つまり、茜も変態組なんだね……解った。でもC班に朗報です。今はあまり戦力としては活躍できないけど、町に行ったら食堂やレストラン、ケーキ店とかパン屋なんかも出来るね。お金が一杯稼げるよ!カレー専門店とか絶対流行ると思う。悲観せず特技や現代知識を上手く生かせば、この世界でも楽しくリッチに生活できるんじゃないかな?むしろ魔法があるこの世界の方が夢があって楽しいかも知れないよ。エルフの男なんか上手くたらしこんで結婚できたら、超イケメンがいつまでも若くて死ぬまで面倒見てくれるそうだよ」
「それはいいわね!先生もエルフ早く見たいわ!」
「美弥ちゃんは料理チートよりそっちに反応するんだ……25歳だしね。こっちの世界じゃいき遅れって言われる年齢だもんね」
「エッ!?先生いき遅れなの?」
「こっちの成人は16歳だって言ってた。殆どが20歳までに結婚するそうだよ。貴族とかは13歳で婚約が普通とか言ってたな」
「ふふふ、桜も15の時に婚約したよね」
「ちょっと茜!」
「別にいいじゃない。こっちの世界に来ちゃったんだし今更でしょ?」
皆がキャーとか言って騒いでる。茜以外は誰も知らなかったようだ。
俺は桜の婚約話が気になって、夕飯どころではなくなっていた。