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ⅩⅩⅠ

「ア…イ…リス?」
ネジ子は混乱した頭でフラフラと近づく。
がれきの下から血がにじみ出る。
ネジ子は手のひらをアイリスの顔に近づける。
まだ浅く息があった。
ネジ子はアイリスの上に乗った瓦礫を必死にどかす。
ネジ子の手に瓦礫の破片が刺さる。
この時ばかりは痛みを感じない肉体でよかったと思う。
何とか瓦礫の下からアイリスを引きずり出す。
ぼろぼろになった服の下から赤い血が見える。
「アイリス、返事をしてくれ。おい、アイリス!」
ネジ子はアイリスの体を揺さぶる。
しかしアイリスは起きない。
「あーあ、壊したかと思ったのに」
ネジ子の後ろから男の声がする。
ネジ子が振り向くと、大槌を持つ男が立っていた。
男はネジ子を見るとニヤッと笑う。
「とある人からお前の破壊命令が出ててね。せっかくだからそこの奴と一緒に死ねよ」
男は大槌をネジ子めがけて振り下ろす。
ズゥゥン
地面が揺れるほどの衝撃。
男が大槌を上げると脚を引きずるネジ子の姿が見えた。
男の攻撃がネジ子の脚に当たったらしく、ぎこちない動きをする。
「一撃で沈めばよかったのに」
男は大槌を持ち上げ、ネジ子を追いかける。

「アイリス…」
脚を引きずりながらネジ子はつぶやく。
ネジ子は自分の脚を確認する。
男の攻撃が当たったところの部品が取れていた。
「クッ…」
部品の中には足を支えるようなものも入っており、歩けていることは奇跡だった。
後ろのほうで男が暴れている音がする。
(私のほうに来てくれたおかげでアイリスたちから離すことができた。このまま逃げ切って時間を稼ごう)
ネジ子は冷静に考える。
手を伸ばした先に一本の棒きれがある。
それを取って足に結び付け、添え木のようにして歩き出す。
「できればアイリスたちと旅がしたかったな」
ネジ子はそう呟き、立ち止まった。

「あ、いたいた」
男はネジ子を視線に捉える。
大槌を引きずりながらネジ子との距離を詰めていく。
ネジ子はネジの形をしたネックレスをぎゅっと握りしめ、男のほうを向く。
「“スクリューブレイド”」
ネジ子がそう唱えるとネックレスの形がどんどん変化していく。
やがてネジは男の大槌に負けないほど巨大な剣になっていた。
「へぇ、面白いことできるんだね。でもさ、そんな武器じゃ勝てないよ」
男は大槌を横に振る。
ネジ子はその大槌に対して垂直になるように剣を刺す。
そして剣ごとぐるぐると回転する。
剣は大槌に潜り込み、柄だけが顔を出すほど埋まった。
「おりゃぁ!」
ネジ子は剣の柄に思い切り拳をぶつける。
柄がグラッと揺れ大槌が真っ二つに割れた。
「なっ」
男は驚きの声を上げる。
剣はネジの形に戻りネジ子の首にかかる。
ネジ子は男を睨みつけながら近づく。
「私はやることを済ませた。さぁ、壊すなら壊せ」
ネジ子は男の前で両腕を広げる。
男はため息をつく。
「お前を壊す武器が無くなったんだ。壊せない」
男はネジ子に背を向け、歩き出した。
ネジ子は見えなくなるまで男の背中を睨み続けた。

「アイリス!」
ネジ子はまっすぐアイリスのもとへ向かった。
もう意識を取り戻しているものの、まだ動けないでいた。
「ネジ子。みんなを助けてあげて」
ネジ子は頷きほかのみんなを助け出す。
「さてと…」
アイリスは何とか上体を起こし、自分の体に手を当てる。
「過去へ戻れ“ウルズ”」
ぽうっと淡い光がアイリスの体を包む。
見る見るうちに傷がふさがっていく。
光がなくなるころにはもう完全に傷がなくなっていた。
「…」
アイリスは地面を見る。
見えないほど小さくついた傷。
その傷はアイリスの能力が調整であることを示していた。
「アイリス」
全員助け出したネジ子がアイリスを呼ぶ。
「今行くわ」

「ふぅ、ひどい目に会った」
アイリスの治療が終わったロイが近くの石に腰かける。
「しかし、いったい何だったんだろうな。あれ」
クラークがロイに言うがロイは首を横に振る。
ネジ子は本当のことは黙っておいたほうがいいと考え口を閉じた。
「まぁ助かったからいいじゃない。ほらネジ子。足出して」
アイリスは膝を叩く。
ネジ子はアイリスの膝に足を置いた。
ネジ子の脚には歯車などの機械の部品が見えている。
(本当に機械なのね…)
アイリスは自分とは違うことを改めて実感する。
「はい、もういいわよ」
ネジ子は自分の脚を見る。
さっきまで見えていた部品はすっかり見えなくなっていた。
試しに軽く歩いてみる。
問題なく足が動いた。
「ありがとう。アイリス」
ネジ子はアイリスに微笑みかける。
アイリスがそれに気付くが、何故か顔を赤くして俯く。
「?」
ネジ子は首を傾けた。
「さてと、けがも治ったとこだし出発しようか」
ロイが立ち上がる。
アイリスも頷いた。
一行は街の外を目指して洞窟の入り口に進んだ。

「これ…昇るの?」
アイリスたちは洞窟を出るための梯子の前に立っている。
上を見上げると霞むような高さに小さな穴が開いているのが分かる。
「当り前だろ。ていうか来るときもここ下ってきたじゃないか」
ロイは梯子に手をかける。
そのままドンドン上っていってしまった。
そのあとにクラーク、アルヴァ、アルヴィンが続く。
アイリスとネジ子が上を見上げたまま立ち止まっていた。
「アイリス。私が運ぼうか?」
ネジ子はしゃがみ、アイリスのほうを見る。
アイリスは無言でうなずいた。

「ふぅ」
梯子を上り切ったロイが一息つく。
下を見るとまだまだ誰も見えてこない。
(まぁ僕だけ身体能力上昇させてたし当然か)
皆が昇ってくるまで少し眠ることにした。
ロイが眠りにつくのと同時にクラークが昇り終える。
「あれ、寝てる」
クラークは近くにあった棒切れでロイをつつく。
ロイは何も反応を示さない。
「…暇だな」
クラークはロイの隣に腰かけて目を閉じた。
アルヴァとアルヴィンが昇ってきてその様子を見る。
「僕たちも寝てようか」
アルヴァとアルヴィンも寝ることにした。

「とうちゃ~く」
ネジ子の上でアイリスがはしゃぐ。
しかし仲間はみんな夢の中にいた。
「何よ、みんなして」
アイリスは怒って一人一人を揺さぶる。
目をこすりながら四人とも起き始めた。
「ほら、休んでないで行くよ。まだまだ見たいところはいっぱいあるの」
アイリスはロイたちの手を引っ張って進んでいった。

管理局にて
男はフケを飛ばしながら誰かと話す。
「ああ、やつは本当にロイ・ブラッドだった。あいつの血もここにある」
男は机の中から小さな瓶を取り出して渡す。
「気を付けたほうがいいかもな」
男がそう言うとズブッと不思議な音が鳴る。
「え?」
男が下を見ると自分の腹に深々と刃物が刺さっている。
その隙間からどくどくと血が流れていく。
「俺は…用済みってか…」
ドサッ
男は床に倒れた。
その死体を冷たい視線で見下ろす人物。
その手にはアイリスたちの名前が書かれた紙が握られていた。

しおり