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ⅩⅩ

アイリスたちはとりあえずネジ子のことを最優先に考えることにした。
「まずはもう一度工場の中を見てみよう」
ロイが案内役を買って出た。
アイリスたちはロイに導かれて工場の中へと足を踏み入れる。
後ろからきょろきょろと辺りを見回すネジ子がついてくる。
工場の中は外よりも空気が悪かった。
通路のところどころから蒸気が出てきて視界を遮る。
「ここが事務所だ。工場長に話をつけて自由に見て回れるようにしてもらおう」
ロイはそういうと扉に手をかける。
キィと嫌な音を鳴らしながら扉が開く。
中にいたのは50歳ほどの男性。
よほど苦労しているのか、髪の毛は真っ白だった。
「また来たのか」
男性はロイを見て頭を抱える。
また、という言葉からアイリスはこの人がロイに脅迫された工場長だと確信した。
ロイは悪びれることなく男性を脅す。
「あのことを黙っておいてやるから、この工場の中を見させてほしい」
工場長の額から脂汗が流れる。
ロイは少しずつ工場長に近づく。
「分かった、わかったからそれ以上近づくな」
工場長が折れるとロイはにこりと笑った。

「絶対機械を壊すなよ!」
工場長の忠告がいつまでも聞こえる。
ロイは何も聞こえないようなそぶりを見せる。
「よし、ネジ子。何か思い出したらいつでも言いな」
ロイの言葉にネジ子は頷く。
蒸気の吹き出す廊下を辺りを見ながら歩く。
歩いている最中いくつかの機械を見たが、どれもアイリスには分からない物だらけだった。
アイリスは時折ネジ子のほうを見るが、ネジ子は首を横に振る。
「もうそろそろ一周しちゃうけど、どうする?」
気が付けば入り口のほうに戻ってきていた。
(収穫なしか…)
アイリスがそう思った時、蒸気が薄くなっていた奥のほうに何かが見えた。
よく目を凝らすと、壁の一部が区切ってあるような線が見える。
アイリスはその壁の方向に進んだ。
「アイリス、どこに行くんだ?」
ロイが聞いてもまっすぐ突き進む。
仕方なく仲間たちはアイリスの後をついて行くことにした。

壁には周りと同じ色をした扉があった。
「アイリス、よく気付いたな」
ロイが感心している。
アイリスは扉の取っ手に手をかける。
かぎは掛かっていないようで、扉は普通に開いた。
奥は倉庫のようになっており、備品と思わしきものが棚に乱雑に置かれて埃をかぶっていた。
その部屋の一角、一部分だけ埃の被っていない場所を見つける。
アイリスはそこに落ちている紙を拾う。
紙は備品の納品書らしく、様々な部品の名前が書かれている。
その下に気になる言葉が書かれていた。
『商人連合』
アイリスはその紙を仲間たちに見せる。
「商人連合か…。あとで工場長に聞いておくとしよう」
ロイはその紙をしまう。
その他には特に気になるものもなく、一行はその場を後にした。

「工場長。倉庫でこれを見つけたんだが」
ロイは納品書を工場長に見せる。
「商人連合っていったい何者だ?」
工場長はロイの質問にさも当然のごとく答える。
「商人連合ってのはな、『高品質を庶民の暮らしに』の心を掲げいい品を安価で卸してくれる組織だ。俺らのように小さな商売人にはありがたい人たちだよ」
工場長は上のほうに手を合わせる。
「そうか。じゃあ僕たちは帰るから」
工場長はほっと胸をなでおろす。
ロイは工場長に「また来るよ」と手を振る。
工場長は胸を押さえた。

「商人連合が何者かはわかったけれど、結局ネジ子のことはわからずじまいね…」
アイリスはため息をついた。
ネジ子はその様子を見てうつむく。
「付き合わせてしまって済まない。えっと…」
言いかけたが、ネジ子はアイリスたちの名前を聞いていなかった。
それに気づいたアイリスが自己紹介を始める。
「私はアイリスよ。こっちはロイ、向こうのほうで遊んでいるのがアルヴァとアルヴィン。
それを見守っているのがクラーク」
アイリスは順番に紹介する。
ネジ子はアイリスの紹介の一つ一つに頷いて記憶していく。
「改めてお礼を言わせてほしい。私なんかの為にいろいろしてくれてありがとう」
ネジ子はそれだけ言って去ろうとした。
アイリスはその肩を掴み、半ば強引に引き戻す。ことはできないので、引き留めた。
「どこへ行くの?」
アイリスの質問にネジ子は目を点にする。
「ネジ子は私たちの仲間でしょ?」
アイリスは当り前のように話した。
ネジ子の思考が停止する。
しばらくしてネジ子は吹き出した。
「ちょっと、なんで笑うのよ」
アイリスは頬を膨らませて怒る。
「いや、済まない。そうか、仲間か」
ネジ子の目から涙が流れる。
その涙の意味はアイリスはおろか、ネジ子にすら分からなかった。
「おーい」
遠くのほうで誰かが呼ぶ声がした。
だんだんとその姿が見えてくる。
管理局の男だった。
「はい、これ通行証」
男はアイリスに不思議な模様が描かれた板を渡す。
「それでこの先の街にも入れるようになるから。だけど、忘れちゃいけないよ。この町から先がなぜ通行証が必要なのか」
アイリスはごくりと喉を鳴らす。
「この町から先は大戦の影響が色濃く残る地域なんだ。王都なんかはもう復興してるけど、そこまではほぼ無法地帯だよ」
男はそれだけ言うと去っていった。
パチン。
アイリスは自分の頬を叩く。
気を引きしめてから仲間たちに男から聞いたことを伝えた。
「まぁ、無法地帯だとしても大丈夫さ。何せこっちには魔術師が五人もいるんだ」
ロイはへらへらとしている。
確かに、アイリスも負ける気はしなかった。
しかし用心に越したことはない。
気を張ったままアザミと合流することにした。

「あら、通行証は手に入ったの?」
アザミは植物の前に座り込み、スケッチを描いていた。
「ええ、私たちはこの町を出て先の街に行くつもりです。その前に改めてお礼が言いたくて」
アイリスがそういうとアザミが首を横に振る。
「困ったときはお互い様だって。今度私が困っていたらその時に助けてくれたらそれで十分」
スケッチを描き終わったアザミが立ち上がり、紙をカバンにしまう。
「それじゃあね」
アザミは手を振って歩いて行った。
「それじゃ、私たちも行きましょうか」
アイリスたちが歩き出す。
その瞬間だった。
後ろから耳を劈(つんざ)く爆音。
アイリスたちはネジ子を残して一瞬の間に瓦礫の下敷きになった。

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