バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

ⅩⅧ

「全員が本人と確認できるものと言ったってこんなところじゃな」
アイリスから説明を受けたロイがぼやく。
確かにノーツアクトのメンバーは放浪者のため、身分証を持たない。それに、この町で身分を証明できるものを手に入れるのは厳しい。
「職業のほうは魔法院に行かないとどうしようもないかしらね」
アイリスが言うと、アルヴァとアルヴィンが首をかしげる。
「魔法院って何ですか?」
突然聞かれたアイリスは必死にわかりやすい言葉を探しながら説明する。
「えっと、魔法院っていうのは簡単に言えば、魔術師を管理しているところね。ここに登録しておけば正式に魔術師を名乗ることができるわ」
「アイリスさんは登録してないの?」
アルヴァの純粋な質問が胸に刺さる。
「わ、私は…まだ…」
実はアイリスは過去に一度だけ魔法院を訪れたことがある。
その時職員にいくら説明しても見た目のせいで受理してもらえなかった。
それがトラウマとなり、アイリスは魔法院に行くことに少しだけ抵抗を感じるようになった。
「それじゃ、この町に支部があるか見て回ろうか」
ロイの口から残酷な一言が発せられる。
アイリスの顔がどんどん蒼白になっていった。
「どうした?アイリス顔色悪いけど」
「え…ああ、大丈夫よ。行きましょうか」
アイリスは心の中で必死に祈る。
(どうかこの町に支部がありませんように)

アイリスの祈りが通じたのか、いくら見て回ってもこの町には魔法院の支部はなかった。
アイリスは胸をなでおろす。
しかしこの町に魔法院がないとなると、いよいよノーツアクトは手詰まりになってしまった。
「どうしましょうか…」
アイリスは落胆のため息をつく。
その時、あの光る石のことをふと思い出した。
(あの石は私が持った時に光りだした。つまり私の“何か”に反応したということ。
もしそれが魔力なら…)
「一つ、方法があるかも」
アイリスは顔を上げた。
仲間はアイリスのほうを見る。
「あの光る石を探しましょう」
アイリスの言葉に仲間たちはため息をつく。
「何を言い出すかと思えば、またその話か」
ロイはやれやれと首を横に振った。
「あの石は実際にあったわ。これは確かに言える。だからお願いあの石を探すのを手伝って」
アイリスはロイに頭を下げる。
アイリスの目には確信の色が映る。
「分かったよ。団長がそう言うならしょうがない、みんな光る石を探そうか」
ロイの言葉を聞いてクラークたちは頷いた。

光る石を探し始めて数時間。アイリスたちはいまだに光る石を見つけられないでいた。
「ほんとに何も覚えてないの?」
アザミがアイリスに確認する。
「ええ…何も」
アイリスは悲しそうな顔でそう話した。
アザミにはこの短い間で何度もお世話になっている。
こんなことに付き合わせているのに、アイリスは何も覚えていない自分を恨んだ。
「そんなに気を落とさないで。ほら、これ」
アザミはアイリスにおった紙を渡す。
アイリスがそれを開くと中には薄紫の粉末が入っていた。
「これは?」
アイリスが聞くと優しい笑顔でアザミが答えた。
「それは、フグスイセンの花弁を粉末状に加工したものよ」
フグスイセン、その言葉にアイリスは驚く。
「フグスイセンって確か猛毒の植物ですよね。なんでこれを私に?」
「大丈夫、毒素が含まれるのは茎と根の部分だけだから。それに、このフグスイセンの花弁には心を落ち着かせる効果があるの」
アザミはアイリスに飲むように促した。
アイリスは恐る恐る粉末を口に含む。
すると、鼻のいい香りが口に広がった。
その匂いのおかげか、アイリスは少し落ち着きを取り戻した。
「ありがとうございます。ちょっと冷静になれました」
アイリスがお礼を言うと、アザミはアイリスの頭をポンと叩いた。
「それはよかった。よし、それじゃあ再開しましょうか」

アイリスたちが捜索を再開した数分後、遠くのほうでアルヴァの叫び声が聞こえた。
アイリスとアザミが近くによるとアルヴァは地面に座り込んでいる。
「どうしたの?」
アイリスがそう聞くと、アルヴァは少し落ち着きを取り戻してから話した。
「あそこに転がっている石を拾ったら急に光りだしてびっくりして投げちゃった」
アルヴァが指さす先を見ると何の変哲もない石が転がっていた。
アイリスがゆっくりと近づく。
そして恐る恐るその意思を拾い上げるとその石は白い光に包まれた。
二回目のため、アイリスが落とすことはなかった。
「これだわ」
そう言って袋にしまう。
それからクラークとロイを呼んだ。

「見つかったのか?」
ロイが駆け寄ってきた。
アイリスはにやにやして黙っていた。
「もったいぶってないで出してよ」
クラークもやってくる。
そこでアイリスは大げさに慎重に袋を開けた。
その中にはただの石ころが入っている。
「これが例の石か?」
ロイがその石をつまみ上げると石はまばゆい光を放った。
「うわっ」
ロイはとたんにその石を落とす。
アイリスが間一髪のところでキャッチした。
「アザミさんも持ってみて」
アイリスは袋をアザミのほうに差し出す。
アザミは石をつまみ上げた。
石は光らなかった。
「あれ?」
アザミは一度袋に戻し、再度つまみ上げる。
しかし、石は光ることはない。
「一つ質問。アザミさん魔法使えますか?」
アイリスは得意げになっている。
「いや、私は何も使えないよ」
アザミの答えにアイリスは満足そうにうなずいた。
そしてドヤ顔で説明する。
「この石は魔力に反応して光っているみたいなの。これがあれば私たちがどういう存在なのか証明できないかしら」
アイリスの説明を受け、ロイが悪い笑みを浮かべる。
「その石をただ見せるだけじゃ納得しないだろう。だから、見せ方を少し工夫してやるとしようか」
ロイは仲間に頭を合わせるように促し、悪だくみの説明をした。

しおり