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ⅩⅦ

「困ったわ…」
仲間と別れて情報収集をしていたアイリスは街のはずれに一人たたずんでいた。
始めのほうは順調に聞き込みをしていたアイリスだが自分の方向音痴っぷりを、すっかり忘れていた。
「どうしましょうか」
アイリスはとりあえず工場に向かって歩くことにした。
こつん、とアイリスの靴に何かが当たった。
アイリスが下を向くと小さな石が転がっている。
何気なくそれを拾った。
途端に石が光りだす。
「きゃっ」
アイリスが石を投げ捨てると石の光は消えていった。
アイリスはその不気味な石から逃げるようにその場を離れた。

「その話ほんとか?」
話を聞き終えたロイがアイリスを疑いの目で見る。
「ほんとにあったのよ!」
一生懸命説明するが、誰もが疑う。
誰にも信じてもらえないアイリスはもう泣きそうになっていた。
「うーん、まぁこの町だったらあり得るかも」
話を聞いていたアザミがアイリスのフォローをした。
アイリスは目をはらしながらアザミに抱きつく。
アザミは優しい表情でアイリスの頭をなでる。
「一度その石を見てみたいけど、どこだか覚えてる?」
アザミが言うとアイリスは首を横に振った。
「じゃあ方角は?」
アイリスは一度考えて首を横に振る。
「それは困ったわ。どこだか分らないなら探しようがないじゃない」
アイリスはアザミの胸の中で涙を浮かべる。
その様子を見てさすがにロイも可哀想に思えてきて、アイリスに謝る。
「とりあえず町で集めた情報を共有してから探そうよ」
アルヴァが提案した。
クラークがそれに賛同して聞き込みの成果を発表する。
「私が聞いてきた情報によると、この町では通行証の発行を行っているらしい。
ただ、その手続きに莫大な金が必要になる。正直な話、今の私たちには無理だ」
続いてアルヴァとアルヴィンが口を開く。
「僕たちが聞いた話も大体同じような内容だった。でも、それと同時にあの工場で人手を募集しているっていう情報ももらってきたよ」
人手を募集しているという言葉に、アイリスは顔を上げる。
今の所持金は旅をするだけで精一杯の分しかない。
通行証を買ったら旅が終わってしまう。
最後にロイが話し出した。
「僕は通行証についての情報を持っていない。ただし、あの工場の正体やこの町の現状を調べてきた」
「正体?」
アザミがロイに聞く。
「ああ、あの工場は軍事工場だ。それも魔術兵器の開発を専門にしてる。地下に潜ってもあの工場が生きているのはこの土地に大戦で残った魔力の残滓があるからだ。そしてここの住人はあの工場に頼って生活をしている。つまりあの工場がなくなるとここの住人はみんな飢え死ぬということだな」
ロイは悪い笑顔を浮かべて話を続ける。
「だから、ちょっとだけ中の様子を調べてきた」
ロイは背後から大きな袋を取り出す。
五人が中を覗くとそこには大量の金貨が入っていた。
「ロイ、盗んだの…?」
アイリスが震えた声で問いただす。
ロイは静かに首を横に振る。
「僕がそんな下品なことするわけないじゃないか。これは工場長からもらったんだ。“これをやるから口外するな”って言われてね」
アイリスはロイに恐怖心を抱いた。
「ともかく、これで通行証は発行できるけど、どうしようか」
ロイはアイリスに判断を任せた。
アイリスは頭をひねる。
(確かにこれでこの町から出ることはできる。けれど、何かが胸に引っかかるのよね)
アイリスはパンと手を叩く。
「一度通行証を発行しに行って、少しだけこの町を見て回りましょう。何か引っかかるの」
「君たちもそれでいいか?」
ロイが仲間に確認を取る。
クラークたちは当然のようにうなずいた。
「よし、じゃあまず通行証をもらいに行こうか」
ロイの声と同時に一斉に動き出した。

「ここかしらね」
アイリスたちは工場に引けを取らないほど巨大な建物の前にいた。
そこには『管理局 アノーグス庁舎』と書かれていた。
アイリスが扉に手をかける。
扉はキィィと嫌な音を上げた。
「はい、何か御用でしょうか」
奥から男が出てくる。
ぼさぼさした髪からふけを飛ばし、無精ひげを生やしっぱなしにした、いかにも怪しい人物だった。
「…通行証を発行してもらいたいんだ」
ロイは怪しむ目を向けてその男に言う。
「ん?君たち旅人かい?なら、発行してあげるから手数料だして」
ロイはカウンターに大きな袋を置く。
男は中を確認し、一回頷く。
「よし、それじゃ名前を教えて」
男は紙を差し出した。
『アイリス』
『アルヴァ』
『アルヴィン』
『クラーク』
『ロイ』
男にその紙を渡す。
すると男は紙をアイリスに返した。
「ああ、ごめんごめん。フルネームで書いてもらえるかな」
アイリスたちはその紙を受け取り、書き直した。
『アイリス・ブラウン』
『アルヴァ・コールズ』
『アルヴィン・コールズ』
『クラーク・エイデン』
『ロイ・ブラッド』
書き直した紙を再び男に渡す。
男はその紙をじーっと見つめた。
「ロイ…ブラッド…」
男は小さく漏らしたが、誰の耳にも入らなかった。
男はそのまま奥に入っていく。
しばらくして一枚の紙を持って戻ってきた。
「それじゃ、これに書いてあるものをもってここに戻ってきてもらえるかな」
男はアイリスたちにその紙を渡すとすぐに奥に引っ込んでいってしまった。
「何だあいつ」
ロイは眉を顰める。
アイリスが視線を紙に落とした。
紙には汚い字で
『通行証を発行するために必要なもの
・全員が本人と確認できるもの
・職業を確認できるもの』
と書かれていた。
そしてその下のほうに小さく
『ロイ・ブラッドは本物か?
もし、本物なら注意しておいたほうがいい。
彼は危険だ』
と書かれている。
しかし、アイリスには何のことかいまいち理解できなかった。
ノーツアクトの一行は紙に書かれたものを用意するために庁舎を後にした。

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