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ⅩⅥ

「あの力はいったい…」
五人はずっと本屋の能力について考えていた。
ロイが転んだだけにも思えたが、その前に本屋は謎の能力を使っている。
“テラーズサイド”。
「あれは魔法だな」
クラークがそういうがロイが否定した。
「いや、あれは魔法じゃない。魔法を使ったら魔力の流れが少なからずできてしまう。でもさっきの能力は魔力の流れがなかった」
五人は歩きながら唸る。

次の街を目指す一行は町が見えてくるまで意見を出し合っていた。
「まぁなんにせよ、あいつからあの本を取り戻さなきゃな。デイジーに申し訳ない」
ロイはいつまでも終わる気配のない議論を終わらせるためにそう言った。
四人もそれに同意した。
見えてきた町の門はとても大きく、がっちりとした鉄の扉が閉まっていた。
「異様な光景ね…」
アイリスはそう呟く。
試しにロイが押してみるが、鉄の扉はびくともしない。
五人は町を目の前にして、入れずに立ち止まってしまう。
「どうしたものかね」
ロイはじーっと鉄の扉を見つめる。
そっと触れると鉄の冷たさが手のひらに伝わる。
まるでこの町から拒絶されているようだった。
「ん?」
ロイは扉のちょうど真ん中を凝視した。
腐敗しているのか、小さな穴が開いている。
そこから町の中の様子が見えた。
こんなに大層な壁を作っているのに対して町の中はとても荒んでいる印象を受けた。
(いや、荒んでいるからこそ壁を作るのか)
しかし、中の様子が見えたところで中に入れなければ実際のところはわからない。
五人は門の前に座り込んでしまった。
すると今まで歩いてきた道の奥からこちらに向かってくる人が見えた。
その人はこちらに気づくと足早に近づいてくる。
「あら?あなたたち中に入らないの?」
近づいてきた女性はそう言って首をかしげた。
「入らないも何も、扉が閉まっていて入れないんだ」
ロイは鉄の扉をたたきつつ、そう言った。
女性はますます不思議そうな顔をする。
「もしかして、通行証を持ってないとか?」
「通行証?」
「そうよ。この町から先は通行証が必要になるの。あなたたちはそれを知らないでここに来たの?」
アイリスたちはロイを責めるような目つきで睨む。
ロイはたじろぎ、半ば言い訳じみた声で弁明をする。
「僕は通行証を知らなかった。それは事実だ。だがここにいる君たちもまた、通行証のことを知らなかった。つまり僕を責めることができる人物はここにはいないということだ」
アイリスたちはぐぅの音も出なかった。
「…しょうがないか」
女性はおもむろにポケットから一枚の板を取り出す。
その板を地面の石に置く。
するとその板と石が光りだした。
そして、石と板が地面に沈み込みそこに大きな穴が開く。
ロイがその穴を覗くと内側の壁にはしご上の足場がついていた。
「私もこの町に用があるから一緒に行きましょうか」
女性はそう言って穴の中へ入っていく。
アイリスたちはしばらく立ち止まっていたが、中から
「早く来ないとそこ、閉まるよ」
という声がして、急いで入ることにした。

しばらく降りると、そこには異様な光景が広がっていた。
大きな洞穴の中に町が存在している。
「地下都市…」
アイリスがそう漏らす。
「そう。ここは地下都市アノーグス。この辺の土地は、かの大戦の影響ですっかり汚染されているから、ここの人たちは安寧の為に地下に潜ったの」
女性は説明した。
「大戦?」
アルヴァとアルヴィンは不思議そうに女性を見つめた。
「今から100年ほど前に魔術師と魔力を持たない市民が争った戦争だ。それまで魔術師は“悪魔”と称されて市民に迫害を受けていた。それを苦に思った魔術師が市民に宣戦布告をした。それが“大戦”の始まりだった。強大な魔力による土壌汚染、それに対抗すべく作られた兵器の数々、魔術師と市民の争いは熾烈を極めた。魔術師側の勝利により大戦の幕は閉じたが、その凄惨さは今でも残っている。この町もその中の一つだ」
ロイは悲しそうな目をして二人に教えた。
ロイは300年以上生きている。それは大戦も経験したということだ。
(私でもこんなにつらいのに、それを実際に体験したロイはもっとつらいだろうな)
アイリスは胸のあたりをぎゅっと握った。
「まぁ、暗い話ばかりしていてもしょうがない。それよりも君の名前を聞いていなかったね」
ロイは女性のほうを見た。
女性はしばらく考えるように上を見る。
やがて女性は口を開いた。
「私はアザミ。一応この先の街で花屋をしているの。と言っても、私は研究ばかりしているから花屋というより植物学者ね」
ロイはアザミに頭を下げる。
「僕はロイだ。後ろの奴らを代表してお礼を言わせてもらうよ。さっきは助かったありがとう、アザミ」
突然のことにアザミは困惑している。
アワアワとしながら手をぶんぶんと振っていた。
「いいのよ、お礼なんて。困っているときはお互い様よ」
アイリスはアザミに妙な親近感を覚えた。
アザミもアイリスの視線に気づき、近づいていく。
そして無言で握手をした。
「とりあえず、この町を見て回ろう。アザミ、君も来るかい?」
ロイはアザミに提案する。
しかしアザミは丁重に断った。
「部外者の私がいたら妙に気を使わせるだけだから、貴方たちで見て回りなさい。それに私はここで少し仕事しないといけないし」
「分かった。じゃあ気を付けて」
ロイはアザミに別れを告げ、アイリスたちとともに別の方向へと歩き出した。

アノーグスは大きな洞穴の中に存在する地下都市だ。
町は円形をしており、その中央に大きな工場がある。
その中から常に機械の動く音がしていた。
「あまり長居はしたくないわね」
アイリスは手で口をふさぎながら言う。
ただでさえ洞穴という空気の悪い環境で工場があるなど、愚の骨頂だ。
おかげで洞穴内の空気は最悪。できることなら目と鼻も塞いでおきたいくらいだが。
「アザミの話が本当ならこの先に進むのに通行証とやらが必要なんじゃないのか?」
クラークが言うことはもっともだった。
アイリスたちはまず、通行証を手に入れなければならない。
「通行証を手に入れる方法から探さなきゃ」
アルヴァはそう言って色々と思案する。
「それじゃまずは聞き込みからしましょうか」
アイリスがそういうと四人とも頷く。
五人は一度解散して情報を集めることにした。

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