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06

 聞いて初めて思いついた、というような調子で、オクルスは言う。

 彼はひげに手をやり、私から顔ごと視線を逸らした。どこでもない場所を見つめ、思想するような素振り。

「なるほど、それも悪くない。いや、口封じは必要ないが、殺せばレディの全てが私のものになると考えると」

「本気?」

「だが、私は生きているレディを愛したい」

 なぜオクルスに対して殺意を抱けないのだろうか。

 いや、抱くには抱くのだが、普段人間に対して感じているそれとは明らかに違う。あまりにも弱い、という意味で。

「ところで」

 オクルスはのろけた口調を捨て、口元に真剣さを戻した。

「レディが他人の死に心を痛めているかどうか、私は至極真面目に問うたつもりなのだが」

「ふぅん」

「……ちょっと素っ気なさすぎないかね?」

 気持ちの悪い真面目さを崩して、オクルスは不満げに言った。

 私はいくぶん冷めてしまった紅茶を口に運び、喉をうるおす。

「人を殺すのが苦しいなんて感じたことはない」

「ほう」

「むしろ、もうやめられなくなっている、と思う」

 私の告白を、オクルスは黙ったまま、笑みを浮かべて聞いている。

「あなたを選んで、これからも殺しを続けられるなら──」

 わずかなためらいが、私の中にあった。

 明るすぎる友人の顔が浮かぶ。周囲の色を吹き飛ばす光。

 しかし、それよりも強く、色彩豊かな人間たちが私を脅かしていた。

「──あなたを、選ぶかもしれない」

 言葉を紡いだ喉の奥が苦い。

「迷いがあるね、レディ」

 私の胸の内を探るように、オクルスが言う。

 彼の言葉と視線が、無遠慮に私を暴こうとしていた。

「その理由について、私が教える義理はないけど」

「かまわないよ。それは君自身が解決するべき問題だろう。代わりに」

 オクルスはそこで言葉を切り、深くソファに座り直した。

「殺しの理由について、聞いてみたいね」

「今更?」

「重要だろう。迷うほど大事なものがあるのにやめられないなら、レディには殺しに大きなこだわりがある。私はそれを知りたい」

「……殺しを指示する人間として?」

 意地悪く言うと、オクルスは困ったような笑みを浮かべて肩をすくめた。

「冷たいね、レディは。まぁ、そんなところが素敵なのだが……」

「なんで殺したいのか、私にもよく分からないんだけど」

 オクルスを遮って、私は他人について初めて「殺し」について口を開いた。

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