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1-1-4 現状把握?説明回?

 オークを先に見せたのが効いたのか、皆時間までに戻ってきてくれた。

 「兄様、皆帰ってきましたよ」

 菜奈を確保できて少し落ち着いた俺は気になってた事を聞くことにした。

 「なんで、高等部の城崎さんがここに居るんだ?横のその娘も高等部の1年だよね?」

 そう、高等部のジャージを着た者が2名混じってるのだ。
 この学園は中高一貫の私立の進学校なのだが、ジャージの色で学年が分かるようになっている。

 「城崎先輩は去年のここの部長だったのですよ、菜奈のお兄さん。今日は私がお願いして中等部に竹崎先輩と指導に来てくれたのです。竹崎先輩は副部長だった人です」

 答えてくれたのは現料理部部長の長谷川綾ちゃん。
 菜奈を料理部に誘ってくれた菜奈のクラスメートだ。
 菜奈を通して何度か会った事があるし、菜奈と一緒に遊んでるMMOにも時々やってきて遊んだりもしている。 ハキハキとした元気な可愛い女の子だ。

 いつもは“龍馬先輩”と言ってるのに、今日は皆の警戒を減らそうと“菜奈のお兄さん”と呼んでくれたようだ。

 実は高等部の者が居ることが気になったというより、城崎さんの事が気になったという方が俺の本音だ。

 「兄様、城崎先輩の事知ってたんですね?」
 「いや、名前しか知らない。話した事も無いし殆ど面識もない。ただ学年1番というより、学園1番の美少女って言われている人だからね。男子で名前を知らない人は居ないんじゃないか?」

 「白石君、そんな事よりさっきのオークみたいなの何?時間が無いってのも言ってたよね。手品のように物を消していたのも説明してほしいわ」

  城崎さんは俺の学園1の美少女発言を“そんな事”で片付けてしまった。
 そこから話を繋げたかったのだが、あっさりスルーされた形だ。

 時間も無い事だし、本題から入るか……。

 「そうだな、時間もあまりない。何から説明したものか……」
 「兄様、さっきのはオークで間違いないんだよね?先にそこだけ確認させて」

 「そうだよ、あれはオークで間違いない。俺たちはこっちの世界の女神様のミスで学園ごと異世界に召喚されてしまったんだ」

 殆どの者がポカーンとした顔をしている。菜奈と城崎さんは思案中って感じだ。

 「よし順序立てて説明する。先に2つの組に分かれてもらう。MMOやRPG、異世界物のラノベが好きな人は俺の方に来てくれ。勿論菜奈はこっちだ」

 「綾もこっちでしょ!」

 菜奈に呼ばれて綾ちゃんもこっちに来た。他にも3名がこっち側に自主的に移動してきた。

 「城崎さんもこっち側じゃないのか?」
 「え?なんでそう思うの?」

 不自然にキョドっている。オタク系と思われるのが嫌なのかな?

 「今後の計画や話を進めていく上で大事な事なんだ。命が掛かってる、隠れオタクとか思われたくないとかそんな程度の低い自尊心なら捨ててくれ。あいつを見ただけでオークって判断できるだけの知識はあるんだろ?」

 「そうね、ごめんなさい。ちょっと恥ずかしかったてのもあるわ」
 「他にも居ないか?戦闘時の班分けなんかに係わる事だ、後で私もって言ってきても対応しないよ?」

 小さな女の子が顔を赤らめこっちに来た。この子小学生みたいだな中1でも小さくないか。

 「じゃあ、順序立てて話すね。まずここまでの間威圧的にしゃべってごめん。中学生の女の子からすれば高校生の男子が命令口調で喋ったら怖かったかもしれない。いろいろ気遣いが出来てないだろうけど、安全確保が出来るまで俺も余裕がないんだ。はっきり言ってまだ安全じゃない。どういう事かそれを今から説明するね。質問は最後にまとめて受け付けるから、先ずはこっちの話を聞いてほしい」

 状況を理解している者がいないため、皆すんなり俺の話を大人しく聞いてくれる。
 混乱して、騒がれてもおかしくない状況なので、非常に有り難い。

 「20分程前にあった地震なんだけど、あれは普通の地震じゃなく、この世界に学園ごと召喚転移された時の余波なんだ。停電も断線されたのでもう回復しない。今点いてる災害時用の非常灯のバッテリーが無くなったら夜は闇夜になるはずだ。それから、転移の事は証明も出来る。気付いた人もいるだろうけど、本当なら夕刻でもう日が落ちて暗くなってるはずだけど、外はまだお昼のように明るい。裏の山も本来だと山頂まで直ぐなはずだけど、今は樹海のような森林が見える。海が見えてた方は広大な草原が地平線まで広がってる」

 皆真剣に聞いてくれている。急に昼のように明るくなったのだ。
 バカじゃなければ何かおかしいという事ぐらいは感じるはずだ。

 「それでなんで召喚されたかなんだけど、はっきりいうとこの世界の主神の女神様のミスらしい。本当はある一人の勇者になる人物を召喚する予定だったんだって
 「ひょっとして2年の柳生美咲先輩?」

 話の途中で城崎さんが割って話しかけてきた。

 「城崎さん正解ですが、質問は最後にね。それと余談ですが勇者候補の柳生さんが生き残れるかどうかは女神様のミスのせいで現在不明だそうです」

 「あ、ごめんなさい。続けてください」

 城崎さんか……あれだけの話で柳生先輩が勇者と判断できるとは、やっぱ頭の回転が良いんだろうな。

 「女神のミスで学園ごと異世界に来ちゃったわけですが、最悪な事に転移された場所が大規模なオークやゴブリンのコロニーのすぐ側だそうです。この意味が解りますか?菜奈恥ずかしがらずに答えてみろ」

 「兄様が態々MMOを知ってる組と知らない組で分けたのはそういう事ですか。大体のゲームやラノベの小説的設定ではオークやゴブリンは人を襲います。しかも食肉として人を食べるのですよね?最悪なのは女の人を犯して子供を産ませようとする習性ですか?」

 「そうだ、今からそいつらが500体ぐらいの規模で襲ってくる。総数で言えば5000体程がこの近辺にいるそうだ。しかも向こうは武器を持っている。オークの強さは一般の成人男性が武器を持って3人で何とか勝てるかどうかだそうだ。ゴブリンは成人男性なら武器持ちでタイマンでなら普通は勝てるそうだ。だが学園の者は皆素手だ。とても勝てるはずがない。今から皆にこの事を忠告に行っても間に合わないし、すぐ信じる奴もいないだろう。女神様の予想ではこの学園の人間は最終的に1割残れれば良い方だと予想している」

 「白石君の言い方だとそのミスした女神に聞いてきたみたいなように聞こえるんだけど?」
 「ああ、実際に会って聞いてきたんだ。タイミング的に丁度いいね。じゃあ、次になぜ俺がいろいろ知っているかについて説明するね」

 「待って兄様!未来ちゃんが殺されちゃう!」
 「菜奈すまない。寮でお前の同室の未来ちゃんには俺も何回か会ってるし、とても仲が良いのは知っているが諦めてくれ。女子寮まで走って行って知らせる時間はもう無い」

 「そんな……あ!夕方お茶会するって言ってた、まだ茶道室にいるかもしれません!」

 MAPを見てみると確かに3Fの茶道室に3名人が居る。

 「菜奈、茶道部員って何名居るんだ?」
 「未来ちゃんが7名って言ってた」

 「今3名茶道室に人が居るようだけど、それが未来ちゃんかどうかは分からない。確率で言えば半分以下だ。でも犯されるのを分かっててほっとくのも可哀想なのでちょっと行って3人を連れてくる。同じこの棟の中だし、それくらいの時間はあるだろう。でも未来ちゃんじゃなかったら諦めてくれ」

 菜奈は泣きそうな顔をしているが、その条件で了承してくれた。

 「他の皆も助けたい人はいるだろうけど、悪いが諦めてほしい。どうしても諦めきれず、助けに向かうと言うなら、気持ちは解るので俺は止めないけど、ここの事は誰にも言わないで欲しい。理由を説明する時間もないので、できれば皆ここに残って待ってて欲しい。どうしても出て行くなら、それなりの覚悟をしてもうここには戻ってこないでくれ。匂いでオークを引き連れて帰ってきて全滅とか、真っ平御免だからな。菜奈、俺はついでに匂い対策もしてくるから戻るのはぎりぎりになるかも知れない。俺の帰りが遅くてもここから絶対出るんじゃないぞ」

 「白石君、匂い対策って何するの?」

 「あいつらは豚並みに鼻が利くそうです。効果があるかどうか分かりませんが、ここの場所が匂いで追尾出来ないように窓はある程度開けて、刺激臭の強いハイターやコショウとかタバスコなんかを振り撒いてこようかと思います。この階だけでも皆で静かに窓を開けといてください。もう直ぐ側まで来てるので姿を見られたら絶対やってきます。なのでやれる事はほんの少しだけですけど。とりあえず行って出来るだけの事をしてきます。まだ大事な説明の途中なので待っていてください」



 俺はまず1Fの調理室に行きハイターをあるだけインベントリに入れた。その際、目についた物も片っ端から保管した。調味料も全部確保だ。ハイターとタバスコなどの刺激臭の強い物を振り撒きながら窓を開けつつ茶道室にやって来た。コショウは今後の食糧事情がどうなるか分からないので、振り撒くのは自重した。

 ノックもせずガラッと扉を開けた先に、お目当ての未来ちゃんは居た。

 「良かった、未来ちゃん。菜奈に頼まれて未来ちゃんを迎えに来たんだ。危険が迫ってる、皆も一緒に付いてきてほしい。異常が起きてるのはなんとなく理解してる?」

 「菜奈のお兄さん!はい、いきなりお昼のようになっておかしいねって今話してたところなんです」

 「理由はすぐ後で説明する。とにかく危険が迫ってるので皆付いてきてくれ。菜奈もそこで待っている」

 良かった、詳しく説明しなくても皆付いてきてくれた。

 『……マスター、狩りが始まったようです。予想以上の酷い惨状です』

 『ナビーの声が皆に聞こえてないって事は、念話のようなものか?俺は思うだけでいいのかな?』
 『……はい、これで通じています。お急ぎください。姿を見られたらやってきますよ』

 『ああ、既にここまで悲鳴が聞こえてきてる。なんて嫌な声だ!本当の人の絶叫というものはここまで悍ましいものなんだな……ドラマの悲鳴なんか、やはり演技なんだって実感するよ』

 「菜奈のお兄さん!なんか凄く沢山悲鳴が聞こえてきます!」
 「静かに。音には気を付けて、大きな声や音で見つかったら敵がこっちに来ちゃうから。怖くても悲鳴なんか出さないでね。あまりうるさくするようなら、他の人全員が危険になるから見捨てていくよ」

 口に手を当てコクコク頷いている未来ちゃんの仕草は可愛いのだが、聞こえてくる絶叫が鳥肌もので、せっかくの俺の癒し要素が台無しだ。

 「窓側の方を歩かないでね、女の子の姿が見えたら襲いに来るからできるだけ教室側を音をたてないように歩いて。目的地は階段上の倉庫だよ、分かるね?」



 スムーズに移動でき、ハイターなどの刺激物も撒きながら来た。
 これでこの別館にいる人間は全てこの4F倉庫に集まったことになる。

 「あ!未来ちゃん!良かったー、兄様ありがとう!でもさっきから悲鳴が一杯聞こえます!」
 「菜奈、もう少し静かに喋れ。オークに犯されたいのか?」

 口に手を当て、首をプルプル振っている。
 未来ちゃんと同じような仕草だが俺の妹の方が可愛いな……おっと、こんなアホな事考えてる場合じゃない。
 外ではオーク達の虐殺が始まってるんだ。

 俺は皆を倉庫の中に入れ鍵を掛けた。

 俺がこの倉庫を選んだ理由が、ここが丈夫な分厚い鉄の扉という事と、中から鍵がかけられるからなのだ。
 人数が増えて少し狭いが仕方ない。

 「外の声が皆にも聞こえたと思うけど、既にオークたちの強姦や虐殺は始まっている。怖いだろうけど泣いたり、悲鳴や大声を出さないでね。オーク一体だけなら何とかなるかもだけど、数体で襲ってこられたら対処できないから十分気を付けて」


 廊下の窓を開けている為、外からは阿鼻叫喚の声がリアルに聞こえてくる。
 窓開けたの失敗だったかなと感じつつ、聞こえてくる悲鳴の度にビクビクと肩を震わせている年下の女の子たちをどうやって守っていくか思案するのだった。

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