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第八話 ディーとの戦闘Ⅱ

 その瞬間、ボストカゲの身体に直径2メートルほどの青い魔法弾が直撃した。悲鳴を上げながら吹っ飛ぶボストカゲ。アレクが長時間の準備を必要とする上級魔法を放ったのだ。吹っ飛んだ先で回復しようとするボストカゲを、突進しながら同じタイミングで攻撃する。二人は協力スキル|X(クロス)攻撃を習得した。|X(クロス)攻撃をまともに食らったボストカゲはかろうじて息はしているものの、あと数秒の命だろう。

 戦場の人間が全員喜びの表情を浮かべた時、突然ボストカゲの身体を覆っていた黒いオーラが、炎に油を注いだ時のように大きく燃え上がり、その黒い炎の中に一瞬悪魔の顔を見た。黒いオーラはボストカゲの身体を鎧のように覆った。次の瞬間黒いオーラは漆黒の鎧、兜、大剣に具現化していた。先ほどまで瀕死だったのが信じられないほどに、筋肉がはちきれんばかりに膨張して、真っ赤に血走った眼をぎらつかせている。黒い魔力も溢れんばかりに湧き出している。



――所変わり数分前




「嬉しそうですな、アストロス様」
「ああ、セバス。今ディーの視界をのぞいてるんだけど、なかなか面白い人間を相手にしていてね。このままじゃ負けるだろうけど、タイミングを見計らって彼に与えた魔加護を呪いに変えようかと思ってさ。本人の身体を蝕み2,3時間で命が尽きるけど、その分命を燃料にして、爆発するような圧倒的な力が湧く呪いだよ。倒せると確信し、安堵した人間の顔が絶望に変わるところを想像すると、おかしくってつい笑みがこぼれてしまうよ」
「ほっほっほ。怖いお人ですな」



――時戻り戦場では


 突然の出来事、さらにボストカゲから放たれる圧倒的な力の存在感に、二人ですらおびえている。

「何が起こっているの? 正直もうお手上げって感じ」
「分からない。……だが、私たちがここであきらめるわけにはいかないということだけは分かる。今この時も私たちを信じてくれている民や兵を裏切るわけにはいかない!!」

 その時、アレクの水色の左目の青さが増し、藍色に輝き始めた。光は強さを増し、アレクの左目から青い球場のオーラがゆっくりと浮かび上がったかと思うと、ごくごく微細な無数のオーラに分かれ、一斉にはじけた。それらは一瞬で戦場の生きてる人間全員の身体に飛び入り、体内に吸収された。

 すると、戦場の人間は、どんな重症のものでも瞬時に全回復した上に、一時的に全ての能力が強化された。それはもちろん、アレクとリョフも同様である。

 アレクの隠れアビリティ・慈愛の左蒼眼 が発現したのだ。

――慈愛の左蒼眼
・発動型アビリティ  
・自分を慕ってくれる者への強く深い愛情が、戦場の味方に力を与える
・自身の強い感情によって発動する  
・戦場の味方を全回復し、さらに、全能力値に300%アップのバフをかける

「すごいよ、アレク。今のあたしたちなら奴にも勝てるかもしれない。いや、勝とう!!」
「ああ、だが協力は不可欠だぞ!」
「もちろん。みんなで生きて帰ろう!」

 二人がボストカゲに切りかかる。連携のとれた攻撃はボストカゲの身体の表面を薄く切るだけで、致命傷には程遠い。そして、防御を捨てたボストカゲの漆黒の大剣を振り回す攻撃は、素人のような大振りだが、かすっただけで身体が真っ二つになるような、圧倒的な力感を備えている。

 それにしても、今のボストカゲは先ほどまでの洗練された、武人としての見事な動きからは想像もできないほど動きに精細を欠いている。まるで、意識がない様だ。

 お互いに、致命傷を与えられないまま、数分がたった。アレクの様子がおかしい。体力が限界に近付いてきたようだ。

「すまない、リョフ。私はもう限界かもしれない。……逃げてもいいんだぞ?」
「この戦いの前のあたしなら逃げていただろうね。でも今のあたしは違う。生まれて初めて自分に近い力を持つ戦友を得たんだ。君はあたしが命をかけてでも守るよ」

 ボストカゲの攻撃からアレクをかばうように動いた瞬間、リョフの全身をまばゆい黄金のオーラが覆い、ボストカゲの重たい斬撃を受け止め、押し返した。

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