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第三話


 翌日目を覚ますと5時7分だった。軽く身だしなみだけ整えて、あちらの世界に顔を出すことにした。扉の前に立ってきづいたが、ダイヤルのようなもの物が扉に付いていた。とりあえず、今はそれを気にせず後で確認することにした。
 ガチャ。俺が扉を開けると、爺さんが驚いた顔をした。

「あの、僕がこの扉を使って戻ってくるまでに、どれくらいの時間がたっていますか?」
「えっ? ……数秒もたっておりませんが」
「なるほど、分かりました。失礼します」

俺の部屋に戻って考える。やはり、2つの世界は時間の干渉がないようで、片方の世界で時間を過ごしても、もう片方の世界は時間が進まないようだ。そこで、扉に付いたダイヤルのようなものが気になり、調べてみた。とりあえず、1目盛り分時計周りに回してみた。

 カチッっと小さな音がすると同時に半透明のウィンドウが現れた。異世界の時間を1時間進めます。よろしいですか? と書かれている。俺は、はいを選択した。すると扉の色が一瞬目まぐるしく変わり、チーンとレンジのような音がして、また半透明のウィンドウが現れた。異世界の時間を1時間進めました。と書いてある。

 俺はもう一度扉を開けた。すると、さっきとは違い、部屋には爺さんたちはいなかった。代わりに、見張り役らしき兵が2人いた。
「あの、僕がこの扉を使って戻ってくるまでに、どれくらいの時間がたっていますか? あと、今は何時でしょう?」

 俺はまた同じ質問をした。
「勇者様がこちらを離れていたのはちょうど1時間程です。そして、今は19時くらいですね」
「分かりました、ではまた」

 俺はまた自分の部屋に戻り、今度は10時間分進めた。これで、あっちは5時くらいのはずだ。

 俺はみたび扉を開けた。あっちの部屋にはさっきとは違う兵士が待っていた。
「おおっ、勇者様。そろそろ来ていただけると思っていました。オー・ジイ様を呼んできますので少しお待ちください」

 オー・ジイさん? 昨日まともに会話したのはあの爺さんだけだけら、あの人のことかな? 考えながら待っていると、昨日のお爺さんがやってきた。

「本当に来ていただき、感謝します。言われた通りの兵も準備できております。もうすぐ朝食なのですが、よろしければ彼らと一緒に食事をとっていただけないでしょうか。勇者様と一緒に食事できれば、彼らの士気も上がるはずです。もちろん、勇者様のお食事は特別なものでございます」
「それはありがたいですね。まだ朝食をとっていないですし、ご一緒させてください」
「ありがとうございます。では、食堂までご案内します」

 爺さんがこちらをうかがいながら食堂まで案内してくれた。食堂には屈強な男たちが100人以上集まっており、俺は用意されていた上席に座った。

 食事が始まり、ある程度食べた俺は、ざっくりと食堂を一周して、彼らと会話したり、握手した後、席に戻って目を閉じアレクサンドロスと会話した。


「どうだい? 彼らで大丈夫そうかな?」
 俺とアレクはお互いの視界を共有することができる。ただし、アレクがいる世界を見ることはできない。
「まあ、問題ないだろう。元々防戦では対等以上に戦えるということだけで、魔物の力がそれほど高くないことは分かる。そして、何より私が指揮をとって負けるはずがない」

 すごい自信だな。まあ、頼りにさせてもらうよ。俺が目を開けると、爺さんが近づいてきた。

「お口にあいましたかな? ところで、勇者様ご自身は戦っていただけるのでしょうか? 相当お強そうですが」
「えっ? いや、まだ戦う気はないです」

 俺はもともと戦う気はない。動物好きだし。死にたくないし。まあ、爬虫類型の雑魚くらいなら、なんとかなるかもしれないけど。

「そうですか、ではもう少ししたら、戦闘を開始したいのですが、アレクサンドロス様のご準備はよろしいですか?」
「ええ、大丈夫です」

 30分ほどたって、俺たちは城壁の門の前に立っていた。5000円の1時間魅力上昇薬を購入して飲んでから、アレクに連絡する。

「アレク、力を貸してくれないか?」
「むっ、今までと雰囲気が違いますね。今のあなたの命令ならば聞きましょう」

 そう言うと、白い円が出現し、その中を通ってアレクが俺の前に現れた。
「では、彼らを指揮して魔物を退治してくれ。僕はここにいるが、君の視界を共有して戦闘を見せてもらうよ」
「分かりました。勝利をお約束しましょう。兵士諸君、私の指揮に従えば必ず勝てる。安心してくれ。私が先陣を切る。皆、ついてこい!」

 門が開かれ、馬に乗ったアレクが先頭に立ち、駆け出した。アレクの号令に兵士達はときの声を上げついていく、士気も高まり期待できそうだ。ここからはアレクの視界を共有しよう。

 アレク達が門から出ると、人型のトカゲの魔物が50体ほど現れた。魔物は剣や槍などの多様な武器を装備して、防具も身に着けている。さらに、最奥には一番体が大きく強そうな魔物がいた。おそらく、この部隊のボスだろう。

 最初に攻撃をしたのは、アレクだった。馬を巧みに操り一瞬で敵兵に近づき、剣で一閃した。ほとんど反応すら出来ずにトカゲ兵の首が飛ぶ。多数の弓矢を射かけられるも、見事な剣さばきで全て払いのける。さらに、火の玉が雨のように降り注いできた。敵の魔法だろう。彼女は何か呪文を唱えた。同時に、やけにメタリックな5メートルほどもある巨大な壁が現れ、敵の集団に反射させた。その集団は、格好から推測するに遠距離攻撃部隊と回復部隊だろう。数匹は死に、他の物は重症だ。止めをさそうと、違う呪文を唱えるアレク。すると、彼女の周りに数十本の手槍が浮かび、動きが鈍った手負いのトカゲ兵達に飛んでいき、止めを刺した。あっという間に敵部隊を半壊させてしまった。それも、厄介な後衛部隊を。

「私が全員殺してもいいのだが、それでは、君たちは弱いままだ。どうだ、奴らと戦ってみようという気概のある者はいるか?」

 アレクの活躍と、アレクが活を入れたことで兵の士気は高まり、全員が残りのトカゲ兵に向かって突進し交戦を始めた。アレクは指揮と回復魔法に専念して、直接手助けはしていないものの、数分でトカゲ兵を全滅させた。ボスを除いて。ボスはいつのまにか逃げていたようで、もうかなり遠くにいる。

「部下を全滅させた将が自分だけ助かろうなどとは、醜いものだ」

アレクはいらついた様子だ。馬から降り、呪文を唱えると、アレクの足に青いオーラがまとわれた。そして、颯爽と走り出したのだが、速さが尋常じゃない。あっという間にトカゲボスに追いついた。アレクに追いつかれたボスはびっくりしていたが、アレクと戦う覚悟を決めたようだ。

「人間にしてはなかなかやるようだな。だが、このオレ様にはかなうまい。さあ、かかってこい」

 アレクは会話もしたくないようで、無言で切り付けた。一撃目は何とかしのいだトカゲボスだが、二撃目で剣を弾き飛ばされ。三撃目で真っ二つになった。即死だろう。アレクが兵士達の方を向き、剣を掲げると同時に兵士達は勝どきをあげた。こうして、アレクの初戦は圧倒的勝利で終わった。






――所変わり魔王軍の砦



「むっ? モガ・ジャイの気配が消えたな。まさか、人間に殺されたのか? まずいことになったな。おい、テレパシーを使える魔術師を呼んで来い」

 他の同族より2まわりは大きいトカゲ型の魔物が部下に命令して、魔術師を呼びテレパシーを使わせた。

「アスタロス様、至急ご相談したいことがあるのですが」

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