バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第二話

 俺がそう言いながら彼女に握手を求めると、彼女は握手に応じず、俺をなめ回すように見た後で言った。

「申し訳ないが、君には私が仕えたいと思えるほどの器の大きさは感じ取れない。君がもっと成長して偉大な人物になったなら、考え直さないこともないけどね。私は自分の世界に戻るよ」

 そう言うと、彼女は白い霧のような円を作り出し、その円の中に消えていった。どうやら彼女は俺の命令など聞きそうもない。俺が困惑していると、ビービーと警報がなったと同時に、また目の前に半透明のウィンドウが現れた。

 総コストがあなたの魅力をオーバーしています と書いてある。さらにもう一つ半透明のウィンドウが現れ、それには魅力上昇薬とやらが何十種類も並んでいた。上昇量や効果の持続時間によって値段が違うらしい。

 おそらく、この薬を飲めば俺の魅力とやらが上がり、アレクサンドロスのコストを上回れば、彼女も俺の言うことを聞いてくれるようになるのだろう。

 俺は目をつぶり、脳内でアレクサンドロスのコストを確認した。彼女のコストは100だ。ちなみに他の奴らも確認すると、Nは1、HNは3、アレクサンドロスと一緒のガチャから出たRの青年のコストは10だ。

 ……アレクサンドロスのコスト高すぎだろ。嘆いていてもしょうがない。気持ちを切り替えて俺の魅力の値を確認する。50だった。全然足りてないな。

 魅力を50上げる薬はいくらだ? 先ほどのウィンドウをスクロールしていくと、あった。魅力50上昇薬。げっ、一番安い一時間の物でも5000円もするのか。これじゃ気軽に買えないな。
 
 といっても、今は爺さんの国がすごい危険な時らしいからなあ。まあ、魔王軍だかの攻撃をしのいで、多少ましな状況になるまではこの薬を使ってアレクサンドロスに戦ってもらうことにするか。


「それで、お爺さん。今のこの国の詳しい状況を教えてください」
 爺さんに聞いてみる。

「分かりました。この国の人口は5万人、正規兵は2000人います。そして、ここからそう遠くない魔王軍の砦から月に5,6回くらいの頻度で4000ほどの魔物が襲ってくるのです。さらに、城壁の出入り口には常に魔物の精鋭が50体ほどこちらを見張っていて、伝令兵はことごとく殺されてしまいました。ただ、我が国の高い建築技術で作られた城壁を利用して、元々我が軍は防戦を得意としていることもあり、城壁を突破される事態は避けられているのですが、このままでは他国との交流も断たれたまま、ゆっくりと滅亡を待つだけの状況です」

 確かに、非常に危険な状況だ。何とか助けてあげたいな。

「とりあえず、その常にこちらを見張っている魔物の精鋭を退治しましょう」
「ええ、私どもも何度も試みてはいるのですが、防戦ならまだしも、野外戦では全く相手にならないのです。既に死傷者も少なからず出ています」

 俺は目をつぶって、脳内でアレクサンドロスのステータスを確認した。最初からレベルが30あり、各ステータスも高い。なにより、野外戦闘適正と戦闘指揮適正が非常に高く、アビリティ・征服王のカリスマにより、★★★★SR以下のユニットを大幅に強化することができる。彼女が戦ってくれたら、なんとかなるはずだ。

「なるほど、それは大変でしたね。ですが、僕が召喚したアレクサンドロスの力があれば、そいつらを退治できるはずです。彼女は自身が高い戦闘能力を持つだけではなく、指揮能力も非常に高いので、そちらの兵士も今まで以上の力を発揮できるはずです。協力してもらえますか」

「もちろんです。我が軍の兵はご自由にお使いください。勇者様を召喚する前に全員で話し合って決めたことです。文句を言う者はおりません。勇者様のご協力に感謝いたします」

 話は決まった。後は、魅力50上昇薬を買って、アレクサンドロスに協力してもらうだけだ。一時間の物でも5000円もするから、他の準備がすべて終わってから買うか。

 あと、どれくらいの兵を用意すればいいか、アレクサンドロスに聞いてみるか。脳内で彼女と話し、爺さんから聞いた情報を伝えると、重装歩兵と騎兵が合わせて100人もいれば十分とのことだった。彼女を信用していないわけではないけど、一応、150人用意してもらおう。

「そういうことでしたら、重装歩兵と騎兵を合わせて150名ほどお貸しください。それで、実行はいつにしますか」
「もうすぐ日が暮れます。魔物は人よりも夜目が利くので夜戦は避けたほうがいいでしょう。明日、朝食を食べて2時間ほどたってから。9時ごろというのはいかがでしょうか」

 明日は日曜だし特に問題はない。

「わかりました。その条件でよろしくお願いします。では、今日はもう僕の世界に帰ってもいいですか」
「お力添えに感謝致します。そうですか、できればこちらに泊まっていただきたいのですが、勇者様にも用事などおありでしょうからな。では、異世界をつなぐ扉を作りますのでしばしお待ちください」

 そう言うと、爺さんと、爺さんと同じ格好をした男たち11人が輪を作り、ぶつぶつと呪文を唱えながら両手を上にかざしている。だんだんと汗をかきながら苦しそうになってきたかと思うと、爺さんがひときわでかい声で何か叫んだ瞬間、彼らの輪の真ん中にバチバチと小さい雷のようなものがほとばしり、扉が出現した。

 俺が驚いていると、息を整えた爺さんが話しかけてきた。

「今回作った異世界をつなぐ扉はしばらくは具現化したままで、この扉を使えるのは勇者様だけです。使い方は普通の扉と全く同じです。では、明日はろしくお願いします」
「分かりました。では、今日はこれで失礼します」

 俺がその扉をくぐると、そこは紛れもなく俺の部屋だった。元々着ていた俺の服が椅子の上にあり、俺はまた裸になっていた。爺さんの言っていた通り、服などの物品は世界を行き来できないようだ。

 幸いなことに異世界をつなぐ扉は、部屋の壁にピッタリはまっていて、全く邪魔にならなかった。

 そういえば、今何時だろう? 俺が召喚されたのが21時くらいのはずで、2,3時間あっちにいたはずだけど。

 俺が時間を確認すると、21時12分だった。
 ……ということは、2つの世界は時間の干渉がないということだろうか? まあ、明日あっちに行けば分かるか。今日は疲れたからこのまま寝よう。俺は布団に入り、すぐに眠りについた。



しおり