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 赤黒い刃は乾いた血の色と同じだったが、浴びた血液は残さず落とされている。鎌の柄を十三番の体に固定するための──一日と経たずに切断されてしまった革ベルトは、はやくも取り外されていた。

 わずかに迷ったのち、十三番は【死神】のカードへ意識を向ける。

 胸元に収まったままのアルカナを通して、腕を意識する。何度か指を動かすと、肩甲骨から生えた白骨の左腕の扱い方はすぐに思い出せた。どころか、以前よりも自然に扱えているようにも思える。

 十三番は片腕だけで大鎌を掴み、部屋の外へ向かう。

 予想通り、部屋の外は一階の廊下へ繋がっていた。日陰になっている廊下と低い壁の向こうには、日の光が降り注ぐ中庭がある。

 廊下を横切って壁を乗り越えると、明暗の差はさらに強くなった。右目だけを細め、十三番は芝生の上へ視線を走らせる。

 馬の死体はすぐに見つかった。中庭を区切るように引かれた、焦げた芝の黒い線の向こう側。ひっそりと横たわる姿に、遠目から確認できる変化はない。

 脇腹にわずかな痛みが走るのも構わず、十三番は足を速めて馬の──カルムの元へ向かった。頭の近くに片膝をつき、傍らに鎌を置くと、空いた手でカルムの額に触れる。

 肌は、すでに死体の色をしている。

 血の気のない青みがかった灰色から、かつての毛色を窺えない。二日も経てば、当然のように生命の名残は消え去ってしまう。

 失われた命は戻ってこない。

 故に、これは再生であっても生き返りではない。

 かつての個性も性質も記憶も引き継がず、古い体に新しい命を吹き込むだけの魔術だ。

 ──それでも、

「戻ってこい、カルム」

 十三番が人として生きていた唯一の証明として、その名は引き継がれなければならなかった。

 見えない糸をたぐりよせるように、白骨の指がカルムの額から離れる。

 そのとき、ありもしない糸の手応えを十三番は感じ取った。なにかを引きあげるような感覚の余韻に視線を向けると、掌の奥でカルムの口先が震える。

 直後、くしゃみのような震えが馬体を揺さぶった。折れていたはずの前足は、あざのような痕が残っているものの、空を蹴るような動きをしている。

 十三番が体を退けば、カルムは死体の色を保ったままゆるゆると立ちあがった。

 まだおぼつかない動きではあるものの、体表の色と空の眼窩を除けば生きている馬とさほど変わりはない。

 どころか、動くたびに体から落ちるハーブ類にすらおおげさに驚いている様子は、一度死んだとは思えないほどに生物的だった。

 カルムの首に手を当ててなだめる十三番に、背後から声がかけられる。

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