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 足音がするならば、やはりこの神殿には【世界】以外に人間がいて、彼女──性別の概念があるかどうかは定かではない──はその誰かを呼んできたと考えていいだろう。

 次いで、気ままな口調で喋る【世界】の声と、たしなめるような落ち着いた男の声。分厚い壁と扉に遮られた言葉はほとんど聞き取れないが、カードの体を最大限に活用した【世界】の入室方法により、その後半だけが十三番の耳に届いた。

「……だと思うのだが。全く、ニコラは頭が固いままで困──おっと失礼」

 おどけた口調で言う【世界】は、扉の前で短く上下移動した。肩をすくめているようにも見えるのは、表情が豊かと言ってもいいものなのだろうか。

 そして、【世界】が移動する間もなく、扉は部屋の内側に向けて開かれる。

 悲鳴とともに扉と壁の間に消えた【世界】の代わりに、十三番の視界に入ったのは深紅の長衣を着た老齢の男だった。白と灰の混じった髪を整え、まっすぐ背筋を伸ばした佇まいは、長老などと言うより老紳士の方がふさわしい。

 彼の右手はドアノブに。左手には、身の丈ほどの杖と──十三番の記憶にも深く焼きついた赤黒い大鎌を、まとめて持っている。

 大鎌一つで雰囲気を掴みづらくしている老紳士の第一声は、意外にも十三番へ向けられた。

「【世界】が迷惑をかけてすみません、混乱したでしょう。あれの言うことは半分ほど聞き流していただいて構わないものなので、あまり深く考えなくて結構ですよ」

 口早に言うと、老紳士は扉を開けたまま部屋を横断し、死神のカードが乗った棚と壁の間に大鎌を立てかける。そして、一言断りを入れてから、十三番の体を軽く診察するような素振りを見せた。

 診察とはいえ、背や腹に受けていたはずの打撲はなく、もっとも重症であるはずの両肩も、最初から腕など生えていなかったかのように滑らかに治癒している。一部の記憶や腕の動かし方を忘れている以外は、なんの問題もない健康体だった。

 老紳士はそれに疑問を持つ様子もなく、むしろ想像通りだったように頷いて、十三番の「診察」を終える。

「どうやら完全に【死神】と適合し、同一化しつつあるようですね」

「──な、に?」

 十三番が老紳士を見上げると、彼の灰色の目は寝台の隣にある棚へ向けられていた。

 その上にあるのはツタ性リースと、死神を描いたカードだ。

「アルカナ。一人の魔術師が自分とその弟子のために作った、魔術に使う象徴です。二二枚のカードと、それに対応する持物……といえば、覚えがありますか?」

 老紳士は端的に述べ、ふと思い出したように続ける。

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