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 膝に力を入れてどうにか踏みとどまると、背後から女を刺したものが青年の視界に入る。

 虚空から生えた、剣を持つ手。

 現象を理解する暇もない。絶命した女の体から剣を抜き、手は虚空へと消えていく。

「まったく好き勝手してくれたものだ」

 糾弾というより呆れの色が強い声が、月光の届かない暗闇から聞こえてくる。

 闇から現れたのは、宙に浮かぶ一枚のカードだ。

 それは、部屋に並んだ台座の上で浮かんでいるものと同種であるようにも見える。

 ただ、意思を持つように動き、声を発しているらしいことを除けば。

「不変は君の望むところではなかったか、【死神】。まぁ、そのように作ったのは私なのだけれど」

 独り言のように、声は言葉を羅列する。

 真意を問うだけの力は、青年にはもう残されていない。殺意を向ける相手もなく、ぐらりと揺れた視界を持ち直す気力も消えた。

 宙を滑るように移動したカードは、倒れた青年の顔を覗き込むようにして、初めて彼に言葉を向ける。

「ようこそ、アルカナへ」

 まずは歓迎の言葉を。

 次に、死にゆくものへの看取りの言葉を。


「そしてさようなら、名も知らぬ青年」


 その日、青年は一度目の死を迎えた。

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