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翌日、典正が取った作戦は呼び出し……件の真山センパイを校舎裏の大イチョウの下に呼び出したのだ。

こうした場所に生える大きな木にはありがちな事だが、このイチョウにも『この木の下で告白すると想いが叶う』という伝説がある。
だから真山はすぐには木の下に近づこうとせず、少し大きな声でイチョウの太い幹にもたれる典正に声をかけた。

「何の用かな、敷島君」
「ふ、センパイよ、そんなに恐れることはない。俺はバリバリのノンケだ、貴様に告白するつもりはない」
「あ、この木の伝説は知っているんだ?」
「いくら俺が学生どもとの交わりを避けていようとも、そのくらいは噂でな。そして、それを知っていながらここを呼び出しの場所に指定したのは、ゲン担ぎなのだ!」
「へ、へえ」
「時にセンパイよ、ウチの妹をご存知かな?」
「え、ああ、うん……ランニング中によく見かけるけど、すごく可愛い子だよね」

彼の頬がわずかに紅潮したのを、典正は見逃さなかった。

「その顔は、憎からずぐらいには思いを抱いていると判じてよいか?」
「いや、憎くないし、むしろ可愛い」
「おっと、これは失礼、言い回しが少し古風すぎたかな。つまりだ、一度デートなどしてみたいとは思わないかと、そういう話なのだよ」
「で、デート……」

真山の顔がさらに赤く染まり、うつむいた耳の先にもその紅潮が明らかなのをみて、典正は少し厳しい声をだした。

「おっと! デートだからといって不埒な関係までを許可するわけではないぞ。かりそめにも俺は彼女の兄、妹に望むのは学生らしく爽やかで純粋な愛! キミならば学生らしい付き合いというものを尊重してくれるだろうと、そう見込んでのことなのだよ」
「そ、それはもちろん! てか、妹さんは僕のこと……その……好きだってことですかね?」
「それを俺の口から言うのは無粋というものだろう、デートのときに直接、聞きたまえ」
「つ、つまり!」
「おぬしの望む答えが得られるであろう!」

思い切りカッコつけて腰をひねり、額に指をあてた奇妙なポーズで典正が微笑む、背後に「どぎゅぅううううううん」と効果音が流れるような気がするほどに。

「おっと、さっそくこのことを茉耶華につたえねば! では、さらばだ!」
「お、お義兄さん……」
「ふ、まだ兄と呼ぶことを許したつもりはないぞ、青年よ」

ピッとたてた人差し指と中指を軽く振って小粋な別れの挨拶を、そして典正は真山に背を向けたのであった。

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