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その日の帰り道、茉耶華の歩調は荒かった。

「なんで私まで怒られなきゃなんないのよ!」

その後ろをついて歩く典正は飄々としたものだ。

「生き急ぐでない、妹よ、人生とは遅刻するくらいゆっくりでちょうど良いのだ」
「訳わかんないこと言わないで!」

茉耶華が典正の襟首をつかもうとしたまさにその時、細身の男が二人の横をふわりと駆け抜けた。

「真山センパイ……」

呟いたきり、あからさまに変わりゆく妹の態度を、典正はまざまざと見た。

男が着ている若竹色のジャージは陸上部のユニホームだ。
走るフォームは美しく、少し乱れた呼吸の音が色っぽい。

それを見つめる茉耶華の目はどこか虚ろで、ぼんやりと遠くに焦点を合わせてしまったような……やや放心に似た表情で走る男の背中を見つめている。

典正は、なんだか甘酸っぱいものを胃に詰め込まれてしまったような気分になって自分の胸に手を当てた。
キュンと音するほど心臓が跳ね上がったのは、恋する乙女の表情に煽られたから?
恋……?

典正はポンと手を打つ

「なるほど」

その声で我に返ったのだろう、ハッと振り向いた茉耶華は表情を強張らせている。

「何がわかったの?」
「いや、いやいやいや、心配するでない、俺もそれを言っちゃうほど野暮じゃあない」
「うわ……すごい不安になること言いだしたわ、コイツ……」
「そうかそうか、なるほど、ここは兄として一肌脱がねばなるまいよ」
「やめて。なんだか嫌な予感しかしないから、余計なことしないで」
「余計なことなど何もしないさ!」

典正が親指を立てる。

「年頃の女の子というのは家族からの過度の干渉を極端に嫌うものだ、ちゃんと心得ているさ!」
「心得てない。それ、絶対心得ていない人の顔だから」
「まあ、楽しみにしているがいい、マイシスターよ!」
「あ、ちょっと、待ちなさいよ!」

高笑いしながら足早に歩く典正と、それを小走りに追いかける茉耶華と、二人はどう見ても仲のいい兄妹にしか見えない。
ちょっと変わっているけれど。

そんな二人に、夕日が優しくさすのであった。

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