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鈴木さんは蹴りました。←いや何で

えい」

寝起きとは思えない美しさの鈴木さんは、ひょいとその場に立ち上がって近くにあった緑色の貝殻を蹴った。

「ふひょー」

続いてもう1個、今度は少し大きめの赤い貝殻を蹴る。

「どもー」

次々と鈴木さんは貝殻を蹴る。
そして、次々と貝殻の中から棒読みの声が聞こえた。
「ふひょー」だか「どもー」だか知らないが、まったくもって感情がこもっていない。

「チッ」

何にご機嫌を損ねたのか鈴木さん、あたり構わず貝殻を蹴散らします。

「いえーあ」
「ひゃっほー」
「じゃじゃじゃーん」
「へいへいほー」

声は聞こえるものの、外見は普通の貝殻と変わらない。どんな生物だろうと手に取ってみた。
ひっくり返すとクリーム色の短いよっつの足がばたばたと暴れていた。
ちょいちょいと触ってやると中にしまってしまう。
小さい頃に読んだ図鑑に乗っていた「ヤドカリ」に似ていなくもない。きっと長いを経て進化したなにかなのかな。
…というかヤドカリがついに人間の言語を…?!

「おにーさんかわいーねー」

「それちょっと間違えてるよ…ははは、いうなら『おじょーさんかわいーねー』だろ?」

ヤドカリ(?)の殻をなでつつ横目で鈴木さんをみた_________と思ったら次の一瞬には僕の目の前で火花が散っていた。
右の頬には鈴木さんに蹴られたあとが。左には…

「殻刺さってるっ?!」

ヤドカリ(?)の殻が刺さっていた。

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