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地下迷宮のさらに奥、深淵の領域


 やり直したレイクは、台座のところにワープした。
 焦(あせ)らず急がず冷静に、橋を渡って台座から台座に移動していく。
 ぐるりと円を描くように回り、中央の台座についた。

 そこは濃霧でひどい視界を持っていたが、宝箱があるらしいことはわかった。
 宝箱の後ろには、帰還用の魔法陣もあった。
 近づいて、フタに手をかける。
 あかなかった。

「鍵(かぎ)がかかってるのか」
(はこ………。あけれないですか?)
「たぶん鍵は、この迷宮のどこかにあるんだろうけど……」
(けど………なんです?)

「オレが持っている特殊な開錠技術を使えば、なんとかなる可能性もあるかな」
(特殊な………ですか。)
「うん」

 レイクは箱に手をかけた。

「ふんっ!」

 特殊な開錠スキル――その名も『力という名のパワー』を使い、見事にあける。

「さすがはオレの、特殊な技術だ」
(ご主人さま………。)

 スーラがとっても、なにか言いたげな顔をした。

「まぁいいじゃないか」

 レイクはスーラに笑顔を向けると、箱の中を見た。
 清らかな水がたっぷりと入った箱の中に、魔導書が沈んでいる。
 持ち運びができないようになっているのか、魔法の鎖で箱と繋がっていた。
 それでも、手に取って読むことはできた。

【アストラルブリザード】
 召喚属性と冷水属性の複合魔法。
 氷点下120度の風とツララが吹き荒れるという、魔界の吹雪(ふぶき)を召喚する魔法。
 その冷風は、イフリートすらも凍らせると言われている。


 説明からして強そうだ。

「でも炎がメインのオレだと、覚えることは難しいかもな……」

 実際に手をかざしてみたが、無為の知が入り込んでくることはなかった。
 スーラが覚えるのも難しそうではある。

(それでも一応、念のため)

 思ったレイクは、先刻スーラが立っていたところに目を向けた。
 が――。
 いなかった。

(んくっ、んくっ、んくっ、)

 スーラは、本が入っていた箱に手をかけ、中の水を飲んでいた。

「……スーラ?」
(!!)

 スーラはびくっと身を起こし、レイクを見やった。
 わたわたと慌て、かろうじて言った。

(おっおっ、おいしかった………です。)
「おいしかったか」
(です………。)
「おいしかったなら仕方ないな」

 レイクは、箱の水を軽くすくった。
 清らかな魔力が含まれていることがわかった。

「いっそ浸かるか?」
(こく………!)

 スーラはとっても、期待に満ちた顔でうなずく。
 レイクはスーラを抱きあげて、宝箱の中に入れた。

 ちゃぷっ……。
 入ったスーラは、顔と手だけをちょこんとだしてる。
 箱の淵に乗っている手がかわいい。

「水加減はどうだ?」

 しかしレイクの問いには答えず、そわそわしていた。

「どうした?」
(おしりのほうに、なにかある………です。)

 ぽちゃんともぐった。
 グオゴゴゴ。
 箱が乗っていた台座がスライドし、深い穴が現れた。

 マンホールを長方形にしたぐらいの大きさをした、まさかまさかの隠し通路だ。
 レイクの心が、ふわりと湧(わ)き立つ。
 アストラルブリザードは、それ単体でも強そうな魔法であった。
 そのアストラルブリザードをも、撒き餌の囮(おとり)にしてまで隠しているもの。
 それはいったい、なんなのか。
 秘宝か魔法か別のナニカか。想像するだけでワクワクとする。

「ライトボールとファイアーボールで……合成魔法、サンボール!」

 ボンッ。
 手のひらサイズで、オレンジの火の玉がでてくる。
 持続性の高い照明用のライトボールに、敵などを燃やすファイアーボールの合成魔法だ。

 レイクはそれを、穴に落とした。
 落ちた火の玉は穴の具合を照らしつつ、地面へと落ちた。

「深さは、三〇メートルぐらいか」
(こくっ。)

 箱入りスーラが、小さくうなずく。
 いつまで箱に入っているつもりかは知らないが、とりあえずかわいい。
 レイクはおよそ一〇分近く、穴の中を見続ける。

「これだけ待っても火が消えないってことは、酸素とかは大丈夫ってことかな」

 続いて指を、パチッと鳴らした。

「ファイアクラック!」

 穴の中のサンボール、花火のように弾けた。
 敵や障害物があったりいたりしたのなら、炸裂して音を立てる。
 しかし無音だ。

「落ちた周囲に、罠や待ち伏せの敵もいない……か」

 ここまでくると、ためらう理由はなさそうだ。
 スーラをお姫さま抱っこして、穴に飛び込む。

「レビテート!」

 浮遊の魔法を自身にかけて、落下の衝撃を殺す。
 着地した。
 赤と金色の派手な装飾を持った宝箱が、祭壇の上に置かれていた。
 箱の後ろには、帰還用の魔法陣もあった。

 レイクはトラップを警戒し、土魔法で簡易ゴーレムを作る。
 箱の前まで行かせてみたが、トラップは発動しなかった。

「よし……」

 箱の前に行き、手をかけた。
 キィ……と軋む音が鳴る。
 現れたのが、白く輝く光の魔導書。
 滲みでている底知れなさが、本を開くまでもなく伝わってくる。

「これはすごいな……」

 本を手に取る。
 スーラが背中に、(ピト………。)とくっつき、レイクの肩越しに本を見る。
 レイクは、パラリと本を開いた。


【エルガディス】
 自身が持っている、すべての魔力を解放する最高禁呪(のろい)。
 高いレベルの術者が使えば、国が吹き飛ぶ。
 ただし術者も無事では済まない。
 その性質ゆえに、レベルの高い術者ほど、無意識レベルで肉体の危機を感じて習得できないという、矛盾の禁呪でもある。


「いずれにしても、自爆するんじゃ禁呪だよな……」

 レイクは、表紙に手を当ててみた。
 しかしレベルが高いせいだろう。説明通り、無為の知は入ってこない。
 その時だった。

「スーラっ?!」

 スーラが、表紙に手をつけた。
 本の光りと呼応して、スーラの体が光り輝く。
 そしてレイクが止める間もなく、スーラの光りは納まった。

(おぼえた………です。)

 これが普通の魔法なら、掛け値なしに祝福するところ。
 だが今回は、自爆する禁呪。
 そう簡単に、祝福するわけにはいかない。

 しかしその時、後ろのほうで音がした。
 壁がゴゴゴと地面に沈み、ライオンの体にコウモリの羽、蛇の尻尾(しっぽ)を持ったモンスター――ヘビーキマイラが現れる。

 レベルは200。
 エリートランク級のパートナーと魔装化している魔装使いならどうにでもなるが、生身で戦おうとすれば三台の戦車とライフルを持った兵士二〇人は必要となる。
 レイクが、剣を構えようとした。
 が――。

(んっ………!)

 スーラが、それを妨げた。
 両手を構え、光りを溜める。
 その輝きは、○○の魔導書と同一であった。
 効果を証明するかのように、暴走を始めた魔力が、両の腕に亀裂を走らす。

「スーラッ!!!」

 レイクは叱(しか)りつけようとしたが、スーラは言った。

(へいき………です。)

 敵を見据えて、まっすぐに。

(すらいむですから、死なない………です。)

 決意の眼を、敵へと向けて。

(わたしは、つよくなりたい………です。)

 ご主人さまはやさしかった。
 夢で見た以上に、素敵な人であると思った。
 しかし――いや、だからこそ。

(おやくに、立ちたい、ですっ………!)

 重なり合った両手から、白い光が放たれた。
 それはキマイラに向かう一方、スーラの両手を飲み込み、両腕までも浸食した。
 反動で吹き飛んだスーラを、レイクはガシりと抱き留める。
 レベル200のキマイラは、跡形もなく消滅した。
 キマイラが現れた後ろの壁にも、巨大な空洞があいた。

(はぅ………。)

 当のスーラは手足を失い、頭と体だけになっていた。
 人間だったら死んでるか、一生残る重傷だ。

 しかしスーラはスライムだ。
 体が半分消えたとしても――。
 レイクは指を咥えさせ、スーラに水分補給した。

(んこくっ、んこくっ、んこくっ、)


 あっさりと戻った。


(ぺたっ。)

 しかし体はぐらりとよろけ、地べたに張りつく格好になってしまった。

(んぅ~~~~~。)
(んぅ~~~~~~~~。)
(んうぅ~~~~~~~~~~!!)

 (><)な顔でがんばっているが、立てないでいる。

「立てないのか?」
(ちから、はいらない………です。)
「さすがに反動があるか」
(はい………。)
「なるほどねぇ」

 レイクは、スーラを抱きあげた。
 再びのお姫さま抱っこに、スーラのほっぺが赤くなる。

 そして今回の探索は、スーラに変化をもたらしていた。
 形はどうあれ、超強力なヘビーキマイラを倒した。
 ヘビーキマイラが蓄えこんでいた膨大な魔素は、スーラの中に吸収される。
 そして――。


 名前  スーラ
 種族  奉仕スライム

 HP    50/720
 MP    0/650
 
 筋力    900
 耐久    1170
 敏捷    720
 魔力    1020


 レベル  180

しおり