素人集団の小隊誕生
いくつもの空き教室を抜けて俺達が連れて行かれた先は、体育館であった。
すでにそこには百人以上が集まっていて、小さなグループに分かれてガヤガヤと話をしていた。
班分けとは、正確には十人ずつの小隊の編制だった。
俺達六名の他に女性四名が加わって、十名で<普通小隊第11班>と名付けられた。
11は<ひとひと>と呼ぶ。
この並行世界では階級や施設の名前等おかしなことが多かったが、小隊の名付け方も俺の元の世界とは異なる。まあ、郷に入れば郷に従うしかないのだが。
班長にはミカミという人がなった。
夜会巻きの髪型が見事で、垂れ目と和やかに笑う口が特徴的。
ホンワカした優しい50代のお母さん、という雰囲気の人である。
何をやるにもおっとりしていて、話し方も呑気っぷりがよく出ている。「まあ、何とかなりますわ。頑張りましょう」という具合だから、ついて行く部下は不安である。
軍隊の経験は全くないと言う。
副班長はヤマヤという人がなった。
こちらはロングヘアでギョロッとした目をしてプロレスラー的体格。
強引に突っ走る感じの20代後半のお姉さん、という雰囲気の人である。
声がデカくて、「敵が来たら突撃あるのみ! 銃より腕力勝負!」という調子なので、これもついて行く部下は不安である。
こちらも軍隊は初体験なのには驚いた。てっきり経験者と思ったが。
とにかく、とんでもない長が二人もいる班に配属された訳である。
他の二人は別の高校から招集されたらしい。軍の経験がない、全くの素人とのこと。
ヤマヤをお姉さんと慕ってベッタリくっついている。
ここに俺達後方支援部隊の経験者四名に素人二名。
合わせて十人衆。
こんな素人集団がろくに訓練も受けず、小隊として扱われている。
粗製濫造だ。
これ以上戦争が続くと、仕舞いにはオモチャの鉄砲を担いだ小中学生まで編入されかねない。
班分けが終わると、教官から薄汚い食堂へ案内された。
五十人ほど入れる部屋だが、ほぼ満席だった。
トレイに載せられたのは丸パン1個、豆を煮たスープ、小鉢のサラダ、バナナ1本だった。夜食と言って良いほど遅い食事である。
トレイを受け取ると、仲間らしい六人が固まっていた席がちょうど空いたので、俺達六人がそこを占拠した。他の四人はバラバラに座った。
誰もが疲労の極みで無言だった。訓練ではなく疲れさせるだけのイベントを振り返る気にもならない。
空腹に耐えきれず、『いただきます』の言葉も忘れて誰もが我先にと食事にありついた。
だが、スープの一口目で期待は見事に裏切られた。
激マズイ食い物なのだ。
しかし、ここで吐き出してはこの先食事にありつけるか分からない。
味覚がおかしい調理人が作ったと割り切るしかないのである。
調理場へ抗議に言っても、奴らは、『調味料が不足している』と自分の腕のせいにはしないだろう。
ルイもミカも、しかめっ面をして食べている。他の皆はこういうマズイ物は経験済みなので、少しはマシな顔だった。
よく見ると、サラダは萎びた葉っぱにビチャビチャと水を掛けて新鮮さをカモフラージュしているし、バナナは所々痛んでいる。
だから、食堂は回転が速い。味を楽しむ気にもなれないからだ。
食事の後、空き教室で寝ることが出来るかと思ったが、期待は空しく、教官から追い立てられるようにしてトラックに乗った。
積み込まれたというのが正直なところだ。
臭い寝袋でもいいから、思いっきり正体もなく寝たかったのだが。
トラックは15台ほどがエンジンを掛けて待機していた。
1台に付き1小隊十人ずつが乗ったので、割と大移動である。
教官の話では、他に別の基地からの増援が合流するらしい。
もちろん、作戦は極秘なので、何処に行くかも伝えられていない。
誰もが無口だった。
初対面の仲間二人は、心配そうな顔をしてこちらを見る。きっと、俺達の顔も向こうにはそう見えていたに違いない。
誰もが心底不安なのだ。
午後11時。トラックが出発した。
このトラックの幌には、有り難いことに小窓がいくつかあった。この方が、外が見えて助かる。
しかし、今は真夜中なので、まだ小窓の有り難みは感じられない。
長椅子の下からガタガタと伝わる不快な揺れはやがて眠りを誘い、いつの間にか眠りこけた。