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レイクの無双 ~トラップ? なにそれ~

 ふたりは進んだ。
 部屋を見回り本を調べて、いろいろな魔法を習得していく。
 アクアボールやウォーターガン、霧を生みだすディープミストや、水の鏡を作って相手を困惑させるアクアミラーといった水の魔法を覚えていく。
 ついでにレイクも、インフェルノファイアのような上級魔法を覚えていった。

「迷宮サソリか」

 軽自動車ほどにも大きい巨大サソリに、試し撃ちでぶっ放す。
 爆発(ばくはつ)が起きて、サソリは跡形もなく吹き飛んだ。

 迷宮サソリは平均レベル60と高い。
 召喚魔装士以外なら、熟練の魔術士か、ライフル銃を持っている兵士が八人は必要だ。
 召喚魔装士であろうとも、魔装化は必須である。
 しかしレイクは理不尽なので、デコピン一発で終わらせることができる。
 そして調査を続けたレイクは、階段を見つけた。

「また階段か」
(こくこく。)
「次で四階だけどどうする?」
(んっ!)

 スーラは両手を、ギュッと握った。
 一生懸命! のポーズだ。

「まぁイザとなったら、転移結晶を使って戻ればいいしね」
(こくっ! こくっ!)

 スーラは二回うなずいた。
 レイクはスーラの手を握り、エスコートする感覚で階段をおりた。
 ぴちょん、ぴちょん――と、水滴の音がした。
 滝の流れのような、轟々と響く音も聞こえた。
 階段の先にあった扉をあける。

 もやのような霧のかかった、白っぽい空間だ。
 それから、水路。
 石の通路で囲まれた空間に、浮き島のような台座がいくつもあって、合間を水が流れてる。
 こんな感じだ。



 □□□□□□□□□□□
 □水水水水水水水水水□
 □水水□水□水□水水□
 □水水水水水水水水水□
 □水水□水□水□水水□■
 □水水水水水水水水水□
 □水水□水□水□水水□
 □水水水水水水水水水□
 □□□□□□□□□□□

 ■はレイクのいるところである。
 水は嵐の海のように荒く、底が見えないほどに深い。
 一度落ちたら、浮かびあがるのは不可能だろう。
 レイクは思わずつぶやいた。

「図書館だよね……ここ」

 スーラが、レイクの服の裾を引っ張る。

(くい、くい。)
(んっ、んっ、)

 服の裾を引っ張りながら、横手にあった石碑を指さす。

「魔導書には、清らかなる水が必要なものもある……か」
(こくっ。)
「魔導書なだけあって、普通の本とは違うのも多いんだな」

 うなずいたレイクは、探索することにした。
 部屋の中央にある台座が気になるところだが、けっこうな距離がある。
 大丈夫だとは思うものの、無理をする場面でもない。

 右手側の通路を曲がった先にあった扉を見つけ、とりあえずあけてみる。
 迷路があった。
 水路部屋の横にあるせいだろう。ひんやりと涼しい。

(そわそわ、)
(じ………。)
(そわそわ、)

 スーラがレイクを横目で見つめ、そわそわとした。

「好きなのか? この場所」
(こく………。)

 すこし恥ずかしいらしい。スーラは、ほんのりと頬を染めてうなずいた。
 レイクは、思う。

(スライムにも、適正な環境ってのはあるんだよな……)

 スライムの特徴は、なんといっても順応性だ。
 平原から森林に、山脈や海岸。
 体のほとんどが水分であるのに、砂漠に適応している種族すらいる。
 砂を食べてわずかな鉄分を吸収し、鋼鉄の巻き貝を作る。
 それをまとって水分の蒸発を防ぎ、夜になると徘徊するのだ。
 それほどの適応力を持っているのが、スライムである。

 ゆえに最弱でありながら、世界でもっとも数が多いモンスターと言われている。
 だから失念していたが、住みやすい環境はあるのである。

 それはさておき。
 スーラを連れて迷路を進んだ。
 壁の左右が、薄紫色に輝いているゾーンに入る。

「魔封じの紫水晶が混ざり込んでる……?」

 そうだとすると、なかなかに危険だ。
 ピンチの時に使うべき転移結晶が、この空間では使えない。
 重い怪我を負うことが、即ち死に繋がってしまう。

 と、そこに。
 レベル80の、マッドロブスターが現れた。

 鋼鉄に匹敵する装甲と、三メートル級の体長を持った巨大ザリガニである。
 魔法に対する耐性は低いが、今は魔法が使えない
 しかもマッドロブスターは、前と後ろの両方からきていた。
 並のパーティであればもちろんのこと、熟練であろうと絶命必至。
 物理防御は高いため、魔装か戦車でなければ対抗できない。

 が――。
 レイクは剣を抜き打つと、手前のロブスターを切った。
 鋼鉄に匹敵する装甲を持っているマッドロブスター。
 だがしかし、『鋼鉄だったら切れるでしょ?』がレイクの感覚である。
 もう一匹も素早く倒し、何事もなかったかのように通過する。
 理不尽である。
 いくつか部屋を回っていると、魔導書が見つかった。

「本当に、水を必要としているんだな」

 その本は、清らかな水の溜まった、地面のへこみの中にあった。
 水の中に手を伸ばす。ひんやりと冷たい。
 でてくるのは、水色に輝く魔導書だ。

「アシッド・デリュージュ……。
 強酸の津波を引き起こして、敵を溺れ溶かす超級魔法……。
 水属性と毒属性の素質が必要……か」

 毒属性が必要だったら難しいかな?
 と思ったが、とりあえずスーラに渡した。
 案の定と言うべきか、スーラは覚えることができなかった。
 レイクも覚えることができなかった。
 この階層には、そういう魔法もあるようだ。

 そして別所で、下位互換であるアシッドミストを見つけた。
 下位と言っても、超級の下の上級。
 毒の霧で周囲を埋め尽くすという、かなり強力な魔法だ。

 スーラはやはり覚えることができなかったが、レイクが覚えることができた。
 スーラのためにきたはずなのに、レイクが強くなっていく。
 探索を続ける。
 水色のアクアゴーレムが、行き止まりの先にいた。
 胸元にある幾何学的な紋様から、学園で作られたゴーレムであるとわかった。

「と、いうことは……」

 レイクは、学生カードを取りだして見せた。
 ゴーレムの目から、レーザーがでた。
 それは学生証に当たり、レイクの情報を読み取った。

〈ゴー〉

 ゴーレムは、道をゆずった。

「みんなこういうシステムになってると楽なんだけど……。
 それをやったら学園証をコピーされた時とかに困るんだろうな」
(ぷる………。)

 ゴーレムが守っていたのは、ボタンであった。
 レイクは、ポチリと押してみる。
 魔法陣が足元に生まれ、レイクとスーラは光と消えた。
 ワープの先は、先刻の部屋。
 轟々とした水流の中に浮かぶ台座たちの、一ヵ所に立っていた。
 目の前には、別の台座に繋がる半透明の橋がある。

 カチッ、カチッ、カチッ。
 時計のような音が響いていた。
 レイクは、様子をじっとうかがう。

 音のテンポがあがり始めた。
 カチカチカチ、急かすようなテンポ。
 やがて橋は消え去った。
 レイクらは、入り口に戻される。

「めんどくさい仕掛けだな」

 並の冒険者であれば、苦労と死闘の末に辿りついたところから、戻されてしまうトラップだ。
 『めんどくさい』などというものではない。
 それでもレイクにかかってしまうと、『めんどくさい』で終わる。
 もしもトラップを作った古代人が、現場にいたら言っている。

『理不尽だー!』

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